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政治事情

 宿に戻った俺は夕刻までゴロゴロして、所定の時刻になって朝に話をしてくれた女性エルフと顔を合わせた。

 そこから色々と話を聞いたのだが……彼女の意見ではあるが、このオルミアの政治的な事情を垣間見ることができた。


 まず、エイベル自身の権威は高く、エルフの里自体は安定している。ただその一方で問題が生じている……彼自身の権威が強いため、反発を招いているらしい。

 表面上は争ったりはしていない。だが、裏では色々と活動している……さすがにエイベルを闇討ちするなんて無茶はしないが、エイベルの失点などを調べているらしい。


 これはエイベルの屋敷に勤める侍女の言葉なので、真実かどうかはわからないが……冒険者ギルドでファグを見て何やら思うところがあるような視線を投げる存在もいた。よって、良くない噂が立っているのは事実らしい。

 そして問題の核心はここから。単純にエイベルを失脚させるだけではオルミア自体が混乱する。ではどうすればいいか……そこでメルの出番だ。


 言わばメルを新たな族長にするというわけだ……勇者と共に魔王を倒したという能力的な実績もあるし、この十年で復興に尽力した政治的な手腕もある。よって、エイベルに反発しているエルフ達はメルを担ごうと考えている。

 実際のところ、メル自身にエイベルへ反逆するような意思はないだろうが……たぶん、ファグ達がエイベルの情報をつかみ、失脚させることで幻滅させて族長の椅子に座らせるとか、そういう風に計画しているのだろう、と俺は予想する。


 そこにメルの意思はない……ファグの様子から忠誠心はあるかもしれないが、あの様子だとメルが族長になることを反発しようものなら、忠誠心は一転して反骨心に変わってもおかしくなさそうではある。


 ――とまあ、侍女から色々と話を聞くことができた。そしてこの事情が確かなら、俺の存在は厄介以外何者でもない。何せ、新たな族長として担ごうとしたメル自身をオルミアから連れ去ろうとしているわけだから。

 この辺りの事情を理解し、俺は話してもらった女性エルフに礼を述べ、別れたが――


「最後の一つだけ聞かせてもらえないですか?」


 家へ帰ろうとする女性エルフへ俺は一つ質問をする。


「あなたはメルが俺と共に旅をすることについて、どう思いますか?」

「……多くの同胞達は、メルロット様が好きなようにしたらいいと考えています。復興のために尽力していたことはとても感謝していますが……その、私の目からは時折自分を殺しているような雰囲気も見て取れましたし、私以外に他の者も同様に感じています」


 ……俺に滅私奉公なんてするもんじゃないと言っておきつつ、彼女もこのオルミアを戦争から立ち直らせるために、自分を殺していたというわけだ。うん、ここはメルとちゃんと話し合うべき点かもしれない。

 俺としてはエイベルなんかと相談して対応を決めるのが一番なのだが……肝心の相談ができない。かといってオルミア内で下手に動けば俺も巻き込まれる可能性がある。


 政治的なものに首を突っ込むとロクなことにならないのでやりたくないんだけど……実際、そういうことに関わりそうになって散々な目に遭ったことがある。それがちょっとトラウマになっている――というか、その政治的なものに関わりそうになったことが、二十年前、魔王を倒した勇者となっても元の世界に帰った理由になっているのだが。


「とりあえず、無理矢理会うしかないか」


 結論を出す。例えば深夜に忍び込んで無理矢理たたき起こしても、エイベルなら許してくれるだろう。

 というわけで、早速今日の夜にでも動くとしよう……今後の方針は決定したので、俺は宿に戻って休むことにしたのだった。






 そして夜、エルフの里が寝静まった時間帯に俺は動き出す。月明かりの下、誰もいない道を俺は一人歩んでいく。


「……そういえば」


 エイベルの屋敷へ向かっている途中で俺は考える。俺と旅をするメルに対しエイベルは色々とフォローするようだけど……エイベル自身はどう考えているのか。

 エルフは長命だし、後継者のこととか考えているかどうかわからないけど……現在進行形で色々な仕事を任せているのであれば、将来メルがオルミアの族長になってもおかしくはないように思える。


「まあ他ならぬメルがどう考えているのかわからないから、断言したことは言えないけども……でもそういう流れなら、ファグが邪魔立てしなくても……いや、エイベルの後継者、という立ち位置になるのは良くないのか」


 はあ、政治って面倒だな……俺としては極力関わり合いにならないようにしてきたけど、ここに来てメルがその渦中にいるとなったら――


「最終的にどうするかはオルミア側が決めるべきで、俺はその決定に従うだけだが……ん?」


 結論を呟く間にエイベルの屋敷に到着したのだが……気配を感じ取る。それは侍女が深夜に外に出ているとか、そういうわけではない。

 その気配は――殺気だった。


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