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騒動の予感

「……まず、確認だが」

「ああ」

「俺は旅を始めメルと出会った際、同行してくれると助かるとは言った。それにメルはついていくと表明したが、強制ではない。そこはわかってもらえるか?」

「ああ、あんたが無理強いするようなことはしないとこちらも理解している」

「なら良かった……で、だ。そちらの考えも理解できる。君の話を聞いて、俺としてもオルミア側が納得できるような形にしたいと思う」

「例えばそれが、メルロット様の同行ができないという結末になったとしても、か?」

「ああ」


 答える俺にファグは少し驚いた様子……俺から「彼女は連れて行く」と強硬な姿勢を予想していたのかもしれない。

 まあ、彼女の存在は非常に大きいし、頼れる大切な仲間なのは間違いないけど……だからといって彼女の地位を強引に奪いたくはない。


 もう一度エイベルと話し合って、どうするか決めてもいいけど……メルはたぶん、何をしようがついてくるの一点張りな気がする。会話をしていてそのくらいの決意は感じ取れたし、たぶん俺が話をしても結論は変わらないだろう。なら、


「俺としては、誰もが……というのは難しいかもしれないが、オルミアに暮らしているエルフの多くが納得する結末の方がいいかな」

「……いいだろう」


 ファグは一つ頷き、俺と視線を重ねる。


「どんな結果になっても文句を言わないのであれば、こちらとしては満足だ」

「……なら、思惑が外れても恨まないでくれよ」

「何?」

「メルと共に仕事をしているのなら、彼女が頑固なのはわかるだろ? 俺の旅に同行するという決断……どれだけ説得しても、そういう結末になる可能性だってあり得る」


 俺の言葉に、ファグは沈黙する。


「その時、俺に恨みの矛先を向けるのは勘弁してくれよ」

「……ああ。いいだろう」


 どこか引っ掛かる物言いでファグは応じると、


「その言葉は、そっくりそのまま返そう……どんな結末でも、恨むなよ」


 ファグは歩き去って行く……うーん、一悶着ありそうな予感。

 メルの性格上、誰に何を言われようとも自身の決断は曲げないと思うんだよなあ……ファグは説得できる確信がありそうな気配を漂わせているけど、果たしてそうなるかどうか。


 一度エイベルに相談しようかなあ……そんなことを考えている間に、ファグの姿が俺の視界から消えたのだった。






 ファグと話をした後、すぐさまエイベルに相談しようかと思ったのだが……昨日顔を合わせた際、今日は出かける予定だということを話していたので、この日はとりあえず一日宿でおとなしく過ごすことにした。

 そして翌日に行動開始。すぐさまエイベルの屋敷へ赴いて、相談しようとしたのだが――


「申し訳ありません、本日は誰も通すなと仰せつかっておりまして……」


 言葉通り申し訳なさそうな表情で、訪ねてきた俺に侍女が説明を行う。

 今日も用事があるのかな? と最初は思い俺は「わかりました」と応じ、


「なら時間が空いたのであれば連絡してほしいと伝えてもらえませんか?」

「わかりました」


 承諾する侍女。うん、これで後は待てばいいな。

 よって俺は宿に戻ることにする……仕事を探しても良いけど、ここはゆっくりできる時間なわけだし、少しの間はのんびりとするか。


 そんな風に考えて歩いていると……、


「あの……少し良いですか?」


 女性のエルフが声を掛けてきた。


「はい、どうしました?」


 何か仕事の依頼かな? 様子からして俺のことを知っていそうな雰囲気だし。

 ギルドなどを通さず仕事を直接お願いしてくるような人も数多くいたし、彼女もそうかもしれない……と思っていると、予想外の話を始めた。


「ここにいるということは、エイベル様の屋敷へお伺いしたと思いますが……」

「はい、用があったので。ただ今日のところは忙しいようなので――」

「私、エイベル様の屋敷に勤めている者なのですが……」


 ということは、玄関先で会った侍女と同じかな?


「はあ……今は出勤前ですか?」

「そんなところです……その、昨日突然ファグ様がお見えになりまして」


 ……ん?


「エイベル様がご不在だったのですが……突然指示をしていかれました。その、勇者トキヤを屋敷に入らせるなと」


 ……おー、そうきたか。


 ファグは俺に話を向けた後、その足で根回しをしたということか……なるほど、俺がエイベルに相談すること自体は予想していたと。で、彼としてはエイベルに動かれると面倒だから、対処したと。


「……それには彼の考えがあってのことだと思いますが」


 女性の言及に俺はそう答え、


「何か理由とかは聞いていますか?」

「とにかく通すなと厳命だけで……」

「そうですか……こうして自分と話をするのも何かしらリスクがありそうですけど、大丈夫ですか?」

「そこは問題ないと思います……というか、屋敷に勤めている者なら、きっと同じ事をすると思います」


 命令はできても、侍女や執事なんかの制御まではできていない、と。そういう感じかな。


「んー……」


 俺は周囲を見回す。大通りからは離れているし、メルが勤めている場所からも距離はある。とりあえずここで俺と女性エルフが話していることは露見する可能性が低そうだ。


「あの、もしよろしければ少し話をしませんか?」

「構いません。ただ仕事があるので、夕刻でもいいですか?」

「はい」


 頷いた俺は、時間と場所を確認した後、彼女と別れることとなった。


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