二十年の歳月
召喚されてどうなるかについては、二度経験しているので明瞭にわかる……光が消えた後、俺の目の前には魔法使いがいる。二回とも同じ魔法使いがいたので、今回も同じだろう。
白い光に飲まれたので、俺は切り替える……二度も同じことをしているため、ずいぶんと冷静である。なんというか、慣れって怖いなと思う。
とはいえ、懸念としては現在俺は三十六歳。一度目の召喚からなんと二十年経過している。体も悪くなっているし、戦えるのだろうか。
ちなみに二度目の召喚時は、異世界でも十年経過していた。おそらく今回もそれは同じだろう……そんなことを考える間にとうとう白い光が消え、視界が晴れていく。
さあ、今度はどんな口上で出迎えてくれるのか……そう思い視界に映ったのは、見慣れきった玉座の間と、俺と同じように年齢を重ねた魔法使い――
「……あの、その」
そして彼は口ごもった……またお前か、などと突っ込まれそうな状況だが、たぶん俺を指定して召喚しているのだろうなと予想できる。
「お久しぶりです、勇者トキヤ」
「……どうも」
返事をすると無茶苦茶気まずそうな顔をする魔法使い……そんな顔をするなら呼ぶなよと内心で思うけど、口には出さないことにする。
そして気付けば手に持っていたスマホと財布がない。格好はそのままだけど、過去の召喚でも手に持っていた物は消えていた。まあ過去の経験から、元の世界に戻った際に元に戻るとわかっているので問題はない。
困った顔をする目の前の魔法使いを見ていると……玉座のある方向から声がした。
「三度目の召喚、申し訳ないな」
謝罪しているが、まったく申し訳なさそうな声音ではない……俺はそちらを見る。赤い絨毯が敷かれ、三段の階段の上に存在する玉座……そこに座る、王冠を被り精悍な顔つきを持った王様がいた。
二十年前から同じ王様だけど、見た目はあまり変わっていないように思える……年齢とか尋ねたことないけど、この世界には寿命を延ばす秘薬みたいなものがあるため、あの王様も飲んでいるのかもしれない。
「……この魔法ですが」
俺はなんとなく王様へ口を開く。
「異世界の人間を召喚する魔法ですけど、実質俺を召喚する魔法になっていませんか?」
「ははは、確かにそうかもしれん」
否定しなかった。俺はわざとらしく大きなため息をつき、
「……確認ですけど、目的を達成しなければ帰してもらえませんか?」
「異世界召喚の術式は相当な資源を消費するからな。送還もまた同様の資材が必要とくれば、さすがにタダで返すわけにはいかないな」
……最初に召喚された時は魔王を倒したことで帰るための資源を自前で用意できた。そして二度目はこの国ではなく、他国が資源を融通した。
召喚に使う資源は希少性が高い物であることに加え、金額もかなり高い……最初に召喚された時は資材を用意するだけで二年旅をして得られた金銭をほとんど喪失した。
王様が帰さないと言っている以上、現時点では帰る手段がない……俺は頭をかき、
「見た目通りわかると思いますが、あなた達と同じく俺も年を取った。とっくに全盛期なんて過ぎていると思うんですが」
「勇者トキヤ、それでも我々は君を呼んだ。それだけ信頼しているのだ」
……単に扱いやすいからじゃないのか? 疑問に思ったがそれを口に出すことはしなかった。
「はあ、わかりました……ならもう二つほど確認です。何年経過していますか?」
「十年だ」
そこは同じらしい。俺は小さく頷いた後、
「魔王がまた復活したんですか?」
「その通りだ」
「現状、世界はどうなっています? 魔王派二度目に俺が召喚された時のように、無茶苦茶になっていたりしますか?」
「大陸中に戦乱が吹き荒れているわけではない……現時点でわかっているのは、魔王が復活したということだけだ」
その言葉に、俺は考える……雰囲気的に緊急性がある、というわけではなさそうだ。だが一方で魔王は出現している……。
「今回はゆっくりする時間はあるだろう」
俺が無言でいると王様が口を開いた。
「そちらが望めば部屋を用意するし、城内の滞在も許可するが」
「……いえ、再び召喚された以上、すぐにでも行動に移そうかと思います」
その言葉に、王様は満足したように頷いた……まるで俺がこういう返答をすると予想していた様子だった。
――召喚されたことについては色々と思うところはある。だがそれ以上に、王様の話で気になったこともある。よって、
「ただ、問題が一つ。使っていた武器は?」
「きちんと残してある。まずは宝物庫へ案内しよう」
王様は側近らしき男性は目配せをした。彼は頷くと俺に近づき、
「こちらへ」
……俺は黙ったまま彼に追随して玉座の間を後にする。ちなみに最後の最後まで俺を召喚した魔法使いは申し訳なさそうだった。
そして案内されながら考える……三度目の異世界召喚。もうこの時点で頭の中は冷静で、やるべきことについても頭の中でまとめ始めている。
理不尽であるのは間違いないが、王様が即座に帰すわけがないことも俺は知っている……ちなみに召喚魔法の技術はこの国固有のもの。そして魔王を倒した勇者を連れてきたことで、この国は――ジェノン王国は小国ながら多数の人が往来するほど有名な国になった。
人が集まったことで富も集まり……結果、この国にとって召喚魔法はなくてはならないものになった。まあ呼ばれる人間が俺一人になっているのはたぶん想定外だろうけど。
「俺だけ巻き込まれるのは、他の人に迷惑掛けないしある意味良いのかもしれないな」
「……何か言いましたか?」
先導する男性が肩越しに振り返りながら尋ねてくる。俺は「何でもないです」と答えつつ、目的地へと歩き続けた。




