魔王に関する情報
「まず、魔王が復活したという根拠についてだが、天王がいる国家が戦争後に魔王の拠点に向けて継続的に調査を行っていた。その中で先日、強大な魔力を確認し、とうとう魔王が復活した、という結論を出した」
「その結論を出したのは、天王のいる国家か?」
「そうだ」
頷くエイベルは、俺へ視線を注ぎながらなおも続ける。
「この情報だけで各国警戒するのは当然のことだった……なおかつ、兆候もあった。メルがジェノン王国の要請で引き受けた仕事があっただろう。既に報告は届いているが、あれは魔族の仕業……他の国でも魔族が動いている事実をつかみ、魔王復活について真実味を帯びた」
「……時系列としては、魔王が復活してから魔族が動き出したわけじゃないよな?」
「ああ、魔王が近日中に復活するのを知った魔族が先んじて動いた……という風に解釈できる」
直に魔王が復活する……再び戦争準備を行うべく魔族が動き出す。うん、理屈としては納得できる。
「戦争を引き起こした魔王……その続きをしようと目論んでいるというのは、理解できる。よってジェノン王国は君を召喚したわけだ」
「いい迷惑だな……」
「ここまで話した内容から、魔王自身は復活している……そう思うところだが、私としては引っ掛かることがある」
「というと?」
聞き返すとエイベルは神妙な顔つきとなり、
「十年前の戦争後、国家は魔王がどのように戦争を仕掛けたかなど分析を行った。その結果、二十年前……トキヤ殿が魔王を倒してから、ヤツはどうやら八年で復活したらしい」
「つまり、戦争開始までの二年間で密かに準備を整えた、ということか」
「そうだ……ここまで言えばトキヤ殿も理解できるだろう。もし魔王が戦争を再び引き起こすとしたら、二十年前と同様に……さらに狡猾に、しっかりと準備を進めた上で行動するだろう」
「魔王自身が復活した事実に加え、魔族が行動していることが露見している……そんな指示を魔王がするとは思えない、と?」
「そうだ」
俺と同じ見解だ……エイベルがどれほど情報――具体的に言えば戦争の真実を知っているかどうかはわからない。けれど、得られた情報から、変だと考えているようだ。
「……俺としては、エイベルと同じ意見だ。十年前の戦争の推移を見る限り、あっさりとバレるような準備を始めるようには思えない。それと、俺達が倒した魔族の言動から考えると、なんというか命令というよりは国々を襲って力を証明する、みたいな感じだった」
「ふむ、その情報を踏まえると魔王が復活した……というのは嘘で、魔王軍の幹部が復活を偽装、行動を起こしているという見方ができそうだな」
まあそれなら納得がいく……のだが、俺としては引っ掛かる。
「仮に魔王の側近とかが主犯者だとして、配下の魔族に好き勝手やらせるのか?」
「そこは確かに疑問ではある……ともあれ、現時点でわかっていることは魔王が復活したと判断されるほどの魔力が発生したこと。正直私は怪しいと思っているが、だからといって警戒しない、という選択肢はない」
俺は首肯する……何か良くない兆候があり、なおかつ十年前に戦争が起きている。その事実を踏まえれば、警戒するのは至極当然の話だ。
「国としては対応に追われる……この動きに乗じて何かをする輩がいるのか、と考えたが今のところ各国の動きは穏やかだ」
「怪しいことをしている国はないと」
「あくまで表面上ではあるが、な」
「……天王達はどう考えているとか、わかるか?」
エイベルは首を左右に振った。彼であっても話をするのは難しいか。
「現時点では、特に何も……」
「わかった。やっぱり天王から直接話を聞くのが一番だな」
「天王会議か?」
「ああ。でもいつ開催するかわからないものを待つつもりはない……ひとまず魔族の動向を探りつつ、天王達に話を聞こうと思う」
「そうか……その中でメルは――」
「今回ここを訪ねたのは、彼女の助力を頼むためだ。いくら共に戦っていた存在だとしても、ちゃんと筋は通さないと」
「律儀だな……私としては同行すること自体問題はない」
「いいのか? 彼女にも仕事とかあるだろ?」
「そこはどうにかなる……だが、トキヤ殿の仲間はメルにしかできない」
決然と言った。エイベルにとってメルが俺と共に旅をするのは既定路線のようだ。
「……正直、今回の旅がどれだけ掛かるかわからないぞ」
「構わんさ。ああ、メルについても心配はない。もし旅が終わっても、今の地位を維持できるように取り計らう」
「……そこまで言うなら、俺からこれ以上頼むことはないな」
俺が笑うとエイベルもまた微笑を浮かべる――生い立ちも年齢もあまりに違う存在。だが、十年前――戦争により世界のために戦った俺に対し、エイベルは強い敬意を抱き、今のような関係に落ち着いていた。
「……なら、メルの話はこれで終わりだ。もう一つ頼みたいことがあるんだが、いいか?」
「予想はつく。魔物の巣……そこにいた魔物を生み出した魔族に関する調査についてだろう?」
問いに俺は頷く。するとエイベルはこの件についても自身の見解を述べ始めた。