エルフの長
そして――俺とメルは彼女の故郷であるエルフの里に到着する。
里、と俺は言っているが名称はある。ジェノン王国内にあるエルフの里――その名はオルミア。里の周辺では様々な花が咲き誇り、さらに里内へ入れば植物と共生する町……木々がまるで元の世界で言うアーケード街のように大通りの上に屋根を作っている。
それでいて、木漏れ日により町中は明るい……以前このオルミアを訪れた時、メルから説明を受けた。木漏れ日によってもたらされる太陽の光を、屋根を作る木々の枝に魔法を付与することで増幅し、大通りを明るく照らしている――だったかな。
「久しぶりだな、ここは」
「帰還してから十年なので、トキヤからすればどの場所も久しぶり、なのでは?」
大通りを見回した俺の感想に対しメルが返答。それに対し俺は、
「いや、二十年ぶりだよ。十年前の戦争で、ここを訪れる機会はなかったからな」
「え? そうでしたっけ?」
「この場所には魔族もあまり侵攻してこなかったし、人々の避難場所として扱われていたからな。最前線で戦い続けた俺には縁がなかった」
町中を歩きながらメルと会話をする……が、周囲の視線が俺へ向けられているのを自覚する。
まあ噂が広がっているし、注目を浴びるのは当然か……メルと並んで歩いていると、真正面から俺達のことを見ながら近寄ってくるエルフが。
明らかに俺達へと進んでいるので、どうやら迎えが来たらしい……男性のエルフだが、彼は俺達に近づくと、
「ようこそ、勇者トキヤ。族長がお待ちです」
「どうも」
応じると俺は彼の案内に従い町の奥へと進んでいく。その間にオルミアの街並みを見回す。
メルにも言った通り、訪れたのは二十年前であるため記憶と街並みは違う……気がする。エルフ達は長命でここに暮らす者達はさほど変わっていないと思うのだが、それでも町の方にはそれなりに変化があるのだろう。
案内を受ける間は無言となり、メルの方も淡々と歩を進める。やがて俺達は大きな屋敷の前に辿り着き、そこへと入っていく。
エルフの里、そこにいる族長の家というのは、なんだか自然と一体化している家か、それとも豪勢な屋敷か……色々と想像できるが、このオルミアにある族長の住まいは、王都の貴族が暮らしているような大きく白い屋敷であった。
その佇まいは二十年前と変わっていない……俺とメルは屋敷に入る。そして男性エルフの案内で屋敷奥へと赴き、両開きの扉の前に辿り着いた。
「……勇者トキヤ、あなただけお入りください」
「メルは入れないのか?」
「まずは一対一で話したいと」
何だろう……疑問ではあったけど、メルは従い小さく頷いた。
「私は客室で控えています。トキヤ、頼みました」
「ああ」
「私は廊下で廊下に控えていますので、お帰りの際はお声を掛けてください」
男性エルフが言う。俺は頷くと一度部屋をノックした後、扉を開けた。
奥にある部屋は……ずいぶんと殺風景な部屋。壁際にいくつか本棚が置かれているが、大きい家具はそれくらいしかない。
部屋の中央に小さな円卓が設えられており、そこにいくつか椅子が設置されている。ここもまた客人を招くような部屋に見えるが……扉と反対側の壁際に小さなデスクがあり、そこにはいくらか書類が置かれており、たぶん仕事をそこでしているのだと推測できた。
で、円卓に設置された椅子の一つに、部屋の主が座っていた……白い法衣を着た、男性エルフ。どれだけ年齢を重ねても見た目がほとんど変わらない種族なのに、そこにいるエルフは年齢を重ねて生まれた年季、というものを感じ取ることができた。
美形、ではあるのだが年齢は三十代半ばくらいに見える……長い金髪が部屋の窓から差し込む太陽の光によって輝いて見え、まるでこの世のものとは思えない雰囲気すら――
「久しぶりだな、トキヤ殿」
ふいに声が目の前の存在から放たれ、俺は現実に引き戻される。
「……はい、お久しぶりですね」
「敬語は必要ない……十年前の戦争では、ここへ来れなかったが顔は幾度も合わせただろう。その際に、余計な気遣いはいらないと言ったはずだ」
……記憶が蘇ってくる。俺からしたら風格もあり、王様と比肩するくらい対面して緊張する相手だが、目の前の族長は遠慮はいらないと言った。
それはきっと、魔王を倒した俺に敬意を抱いたから――
「わかった……久しぶりだな、エイベル」
名を告げると族長――エイベルは笑みを浮かべた。
「三度目の来訪、ジェノン王国ならばやりかねないという考えもあった。だが魔王復活の方を聞いた後、すぐさまこの国がトキヤ殿を召喚をした行動の早さには驚いた」
「迷わず俺を招いたと……少しは躊躇しろと言いたいけど、まああの王様ならやりかねないな、と思うし仕方がないかな」
肩をすくめて話す俺に、エイベルは苦笑する。
「怒りもなく、淡々としているな……その反応も私としては想定内だが」
「……魔王復活について、どう思っている?」
問い掛けると、エイベルは一考し、
「あくまで私の見解だが」
「構わない」
「ならば、話そう」
そう前置きをして、エイベルは自身の見解を語り始めた。




