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戦争の爪痕

「いやあ、助かりました」


 町の詰め所へ戻り魔物を討伐したことを報告すると、ルークは感謝の言葉を述べた。


「調査などをするにしても、魔物の強さ……その検証から始める必要があったため、かなり人手がいる仕事になりそうでした。予算的にも人員的にもかなり大変なものでしたが、それを解決してくれたのはありがたいです」

「冒険者なんかに依頼をする予定とかはなかったのか?」

「ジェノン王国内で、魔物の調査に手を貸してくれるような冒険者は少なくなっているんです」


 俺の質問に対しルークはそう答えた。


「国内に勇者もいるにはいますが、現在は別所で活動していますし……それに、私達が出せる依頼料で手を貸してくれる冒険者は……かなり少ないでしょう」

「費用を捻出するのが大変だと」

「はい、十年前の戦争……その復興に尽力していますが、国も財政的に余裕があるわけではありませんし」

「まだまだ爪痕は残っているわけだ」


 俺の言葉にルークは深々と頷いた。


「それとルーク、冒険者が少ないというのは? それも戦争の爪痕で人が少なくなっているのか?」

「多少影響していると思いますが、他にも理由があります。具体的に言うと、別の国に人を取られているんです」

「人を……?」


 問い返すとルークは説明を始める。

「北のフリューレ王国で、大規模な魔物討伐を行っています。戦争の影響で兵員が少なくなっていますが、それを補うために多数の冒険者を雇っている」


 フリューレ王国――それは人間の国家で最大領土を誇る、天王がいる国だ。


「魔物討伐を……? それはどういう理由だ?」

「フリューレ王国は、特に戦争の爪痕が大きい。結果、魔力が澱んでいる箇所が多く、元々農村などがあった場所でも魔物が住み着いている、といったケースが多いんです。そのため、フリューレ王国は戦争の爪痕を完全になくすべく、魔物討伐を行っている」

「……なるほど、な」


 俺は納得する――魔王は特に天王の国を集中的に狙った。他の国々も爪痕は大きいだろうけど、他の三国は神族、竜族、エルフ族と人とは少し違う亜人種が主体となっている国家であり、領土内に存在する魔力の澱みなどは魔法などで解消することもそう難しくはない。

 だが人間の国家であるフリューレでは難しい……魔力を浄化する手段はもちろんあるけど、他の国家と違い人間が主体のこの国では、魔力浄化も時間が掛かる。戦争後、フリューレは浄化を進めていただろうけど、それが終わらず魔物が大量発生しているというわけだ。


「なら、フリューレ王国に行って情報集めするのも手だな」

「魔族がいるかどうかはわかりませんが、魔物の多さから暗躍している可能性はあると思います」

「そっか……今回討伐した魔物は、魔族が生み出した使い魔の可能性がある。国にそれを報告して、警戒を強めるよう進言してくれないか」

「わかりました……トキヤさんは――」

「その魔族を捜索してみる。幸い、メルもいるしエルフの里に行けば力を貸してくれると思うしなんとかなる」

「……勇者として、魔族を倒すと」


 ルークが言う。目を細め彼は何か思うところがあるようだが――


「一緒に行こうとか考えているか?」

「そんな選択も浮かびましたけど、腕も落ちています。俺では足手まといになるだけでしょう」

「それに、ルークはこの町という居場所があるだろ? 家族だっているんだ、旅に加わる必要なんてないし、俺だって無理強いはしないさ」

「またトキヤさんにお願いするのは心苦しいですが……」

「ルークが気にする必要はない……まあ、この国の王様とかは、もう少し俺を召還することに対し色々考えてほしいところではあるけど」


 その言葉にルークは苦笑。そんな態度を見つつ俺は言った。


「ルークが気に病む必要はない。それに、俺も色々と考えがあるからな」

「……わかりました。旅の無事を祈っています」

「ありがとう」


 ――そして、俺とメルは町を離れることとなった。






 目的地であるエルフの里を目指す間に、俺達は情報を集める。魔族がいないかを確かめる行動だったのだが、残念ながら尻尾をつかむことはできなかった。

 考えられる可能性は二つ……人里から遠く離れた場所に拠点を構え活動しているのであれば、情報を集めても何ら成果がないのは当然だ。


 密かに戦争準備を始めている、かもしれないと考えれば、この可能性は非常に高い……その一方でもう一つの可能性は、既にジェノン王国を離れた――


「国内にいるとは思いますよ」


 俺が推測にメルはそう応じた。


「魔物を動かしているのであれば、指示だって出さないと暴走しますからね」

「それはそうか……俺達が討伐した魔物達は、遠隔で命令をしていたということか?」

「そうかもしれませんし、あえて放置して魔物がどう動くのか推移を見守っていたかもしれません」

「……あの場所に張り付いていた方が、魔族と出会える可能性が高かったか?」

「それは、どうでしょうね」


 俺の意見にメルは難しい顔をする。


「魔族を討伐し、なおかつトキヤが再召喚された事実も既に魔族側も把握しているでしょう。その状況下で自分が生み出した魔物が滅んだ……様子を見に来るというのは、トキヤと遭遇するリスクを高くします。そういった行動は避けるのでは?」

「そうかな……でもまあ、魔物が消滅したあの洞窟を監視していても、情報は得られなさそうだと」

「一応、洞窟内に仕込みはしたので魔族が来たなら気付けますよ」

「……抜かりがないな」


 その手際の良さに俺はさすが、と思いつつ……以降、魔物と遭遇することもなく旅を続けた。


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