勇者の一閃
メルの明かりに反応したか、静かに戦闘態勢に入った俺の魔力を感じ取ったか――どちらかわからないが、魔物達は一斉に俺へと襲い掛かってきた。
事前に話をした中で、最悪の事態――ではあったのだが、既に対応する準備はできていた。
俺は迫る魔物に対し剣を薙ぐ。その寸前、俺が握る剣が輝き一瞬で光が伸びた。
この光は俺が持つ剣と同等の切れ味を持つ……つまり、剣のリーチが伸びた、ということになる。
魔法剣の一種であり、瞬間的に刀身を伸ばし敵をなぎ払う技……ちなみに名称などは最初存在していなかった。
けれどそれでは味気ないと仲間が色々と考えた結果、命名された……この技の名は『光翼剣』という。まるで剣に宿る光が翼を持つ鳥のように羽ばたく様――そんな風に見えることから、付けられたものだ。
そして勝負は一撃で決まった。一挙に襲い掛かってくる魔物を俺の光は正確に捉え、近づく全ての魔物に斬撃を当てた。剣戟の余波による光の粒子が洞窟内を舞う中、魔物達は剣を受けたことによって倒れ伏し……やがて消滅していく。
技が途切れ剣から光が消えると同時、洞窟奥から魔物が襲い掛かってくる――が、今度は一斉にではなく洞窟入口に近い個体から順々に突撃してくる形。こうなったら対応は楽で、迫る魔物を一体一体倒していくだけだった。
よってここからは作業であり……洞窟奥を探ってみたが、魔物の強さも一定であり、問題は出なさそうな雰囲気。
俺は魔物の撃破速度を上げる。少し前のめりになっても問題ないだろうという判断であり……やがて魔物の討伐に成功したのだった。
その後、俺とメルは魔物がいなくなった洞窟内を調べる。そこには澱んだ魔力が存在しており、これを放置すれば魔物が自然発生する危険性があるため、除去を行う。
メルが魔法を使用し、空気が清浄されていく……やがて残ったのは静寂と穏やかな空気。悪い魔力は消え失せ、ただの洞窟に戻った。
「これで処置は終了かな」
「そうですね……トキヤ」
俺の言葉にメルは同意しつつ、首をこちらへ向け、
「全て同じような姿形をしていたことを踏まえると、使い魔である可能性が高そうですね」
「ということは、俺達が倒した魔族以外にも悪さをしている輩がいるかもしれないってことだな」
「非常に面倒なことになりましたね」
口元に手を当て考え込むメル……彼女が言う面倒というのは、国内にまだ魔族がいるかもしれず、それを探す必要があるだろう、ということ。
――魔王が復活したという事実に加え、魔族の活動が活発化している。魔物を密かに生み出しているのは戦争準備……という可能性が高いことを考えれば、メルが懸念を抱くのも当然と言える。
速やかに国へ報告し、魔族の脅威に備えることが重要……それは紛れもない事実なのだが、俺の見解は彼女と少し違っていた。
「メル、ここにいた魔物が魔族の手によるものだと仮定して……その魔族を捜索することは可能か?」
「現時点で得られている情報は、魔物の魔力だけですから難しいですね……」
「今の情報だけでは厳しいか」
「人海戦術なら可能性はありますけど」
「……魔力はわかっているから、多数の人員を投入すれば、手分けして魔力の持ち主を探すことができる、ということか?」
「その通りです」
頷いたメルは、俺へさらに口添えする。
「もっとも、ジェノン王国は小国とはいえいくら多人数でも人間が魔力のありかを捜索するのは困難でしょう。しかし――」
「エルフならば可能」
俺の指摘にメルは頷く。
「はい、私達エルフが魔法を用いれば、広範囲に捜索することはできます。私単独では困難ですが、連携すればなんとか……」
「どちらにせよ、君の里に向かうつもりではあったんだ。目的が増えただけ……うん、なら族長に会いに行って手を貸してもらおう」
「魔族を捜索し、討伐まで行いますか?」
「探してもらえれば、俺の力で対応できるはず……それならエルフ達も協力しやすいだろ?」
「トキヤの名声を用いれば、捜索だけでなく討伐協力もすると思いますけど」
「ジェノン王国に頼まれてやるわけでもないし、手を貸してもらうのは申し訳ないよ……まあ、メルは手を貸してもらえれば嬉しいけど」
「私はトキヤの仲間なので戦うのは当然です……ただ、エルフ族が大々的に動くとなったら魔族も警戒するでしょう。そういう意味合いでも、討伐は少人数でやるべきかもしれませんね」
メルの言葉に俺は「そうだな」と同意しつつ、
「それじゃあ次の目的地へ向かうとするか……あ、その前にルークに報告だな。同時に国に魔物を討伐したことと、警戒を強める点を報告してもらおう」
「はい、それが良いですね」
話はまとまり、俺達は町へ戻ることに。洞窟から出て森へと向かう道中、一度振り向き洞窟を見た。
気配はもうないし、魔物が出現することもないだろう……そして先ほどの戦闘を思い返し、
「やっぱり、妙だな」
小さく呟き。それはメルの耳に届くこともなく……俺はそこで前に向き、メルの後を追い、町へと戻ることとなった。




