魔王の真実
天王会議については、公にされていない驚愕の事実がある。天王会議は四ヶ国の王達が話し合う場だと誰もが思っているが、真実は違う。
この会議には、今回のように五つ目の席が用意されていた。そしてその席に座っていたのが――他でもない、魔王だった。
「本題に入る前に、改めて確認したい」
俺は天王達へ向け、口を開いた。
「十年前の戦争について、俺は滅び行く魔王から情報を得た……戦争の目的……というか、復讐の意図について。この十年で例えば、他に魔王は目的があったとか、そういう情報は入っているのか?」
俺の問い掛けに対し、答えたのは――クリス女王。
「いいえ、ないわ。あの戦争は自分が見捨てられたことによる、復讐……そこは変わっていない」
「そうか……」
「独善的な目的ではあったけれど、同時に魔王としてはやらなければならない戦争でもあった。魔王は全てを理解していた。あのまま戦争を仕掛けなければ、魔族は滅んでいたと」
「復讐と、同族を守るために戦争を仕掛けた……その事実は、変わりがなかったというわけか」
――俺は、十年前にある事実を聞かされた。それは戦争前……魔王が一度倒されたことによって、魔族を滅ぼすために天王達が連合軍を結成しようという動きがあった。
その動きを復活した魔王は察知したからこそ、逆に先手を打って戦争を仕掛けた……戦力的には、魔族は魔物を生み出せるし魔族単体でも一軍に匹敵するほどの戦力となる。だがいかんせん数が少ない。一軍と対等に戦えるほどの魔物を生み、戦えるだけの力を持つ存在は、魔族と言えどそう多くはない。
だからこそ、魔王としては短時間で勝負をつける必要があった。奇襲攻撃を仕掛けロードガーデンを制圧、大陸の国々が連携すること妨げながら、天王達の国家を一つ一つ潰していく……その作戦は見事成功し、大陸の物流機能を麻痺させ、魔王の思惑通りに戦争は推移した。
だが、天王達も抵抗を行う……文字通り総力戦を仕掛け、押し返した。
魔王としてはやらなければ滅ぼされる戦争であった――しかし戦争は同族を守るためだけではない。この天王会議は非公式ではあるが、魔王もいた。魔族の王だからこそ――大陸の人々にとって滅ぼす対象であるからこそ、秘匿されていたが、天王と話し合い、様々な利害を調整していた。
つまり天王達がやろうとしたことは、ここで取り決められていたことを反故する、裏切り行為であった。
「……戦争の経緯は二十年前、俺が召喚されたことから始まった」
俺は天王達へゆっくりと語り出す。
「魔族は大陸の人々からして不倶戴天の敵ではあった。しかし天王達は魔王と繋がり、時に魔族達と手を結んだ……政敵を排除するため魔族を動かしたり、あるいは表面上敵対しているからこそ、汚れ仕事などを依頼し、その見返りとして様々な便益を図った」
「ああ、それこそ天王会議の真実だ」
と、アルベル王が応じた。
「魔族は自身の種族特性から、ただそこにいるだけで土地などを荒廃させていく……だからこそ魔族は他者から奪う力を得て、多種族は滅びの力に敵対した。だが、我々は魔王と手を組み、利害を一致させれば手を結べることを証明し……それを見事果たし、国を繁栄させた」
「そして、手を結んだ以上、滅んでもらっては困るから、裏で情報などを流した……例えば、勇者に関する情報なんかもそれだ」
俺が言うと、アルベル王は頷く。
「そうだな……これは十年前も説明した通りだ。全ては魔族を加えた秩序を維持し、反映するため……必要な犠牲だ、とは言わない。我々も後ろ暗いことをしている自覚はある。だが、だからこそ……我々は繁栄を続けなければならない。それこそ、我々が間違っていない証明になる」
「けれど、天王会議の事情なんて知らない国家……ジェノン王国が、異世界から勇者を呼び寄せる魔法なんてものを開発し、俺がこの世界に来た……俺は魔族を倒し続け、やがて魔王へ挑むまでになった」
「そうだな」
「……天王会議の詳細をあなた達は明かせないが、その気になれば魔王は公にできる。だからこそ、魔王は次第に欲を出してきた……より魔族を繁栄させるべく、動き出した。そこで、あなた達は魔王を邪魔だと考え、倒せる逸材として俺に密かに協力し、魔王討伐となった。ある意味、証拠隠滅をしたような状況だったが……」
「ヤツは復活した。勇者トキヤに支援していた事実を知り、さらに魔族を滅ぼそうとする我々の計画を察知し、裏切り者である我々を滅ぼすために動いた」
――俺が召喚されたなくとも、いずれ魔王は増長し、この関係は破綻していたのだろう。
天王達にとって、魔王を倒せる逸材は誰でも良かった。それがたまたま、異界からやってきた俺だという話だ。戦争の真実……魔王の真実、それを改めて振り返ると、俺はため息をついた。
「まったく……本当、面倒な話だな」
「まったくだ」
「……とはいえ、あなた達の考えは変わらない。全ては国を存続させ、繁栄し続けるため。その骨子は、変わっていないんだな?」
天王達は頷く。それは紛れもないという、強い表情を伴うものだった。




