共に戦った騎士
旅自体は順調に進み、俺とメルは目標としていた宿場町に辿り着いた。時刻が昼頃だったので、早速俺達はルークへ会いに行くことに。
騎士がいる詰め所を訪れると、彼とはあっさり会うことができた。向こうは俺の話を既に聞いていたらしく、俺の顔を見るや否や近寄ってきた。
「トキヤさん……! お久しぶりです……!」
「久しぶりだな、ルーク」
赤い髪が特徴的な男性騎士。年齢は俺より五つくらい下だったはずで、十年経過したことにより彼の姿も変わっていた。
顔はそれほど変化はないのだが……、
「あー、なんというかちょっと恰幅良くなったな」
「言わないでくださいよ……」
苦笑するルーク。まあ騎士として務めを果たしているとはいえ、さすがに以前と比べれば訓練量だって減っているだろう。食事量が変わらなければ、脂肪くらいはつく。
「というかトキヤさんの方はほとんど変わってないですが……」
「元々太りにくいからなあ。両親含め痩せている家系だから」
「ちょっと羨ましいですね……腹が出てきたせいで最近動きが鈍って鈍って」
「そこは頑張らないと。ここから先は食ったら食った分だけ腹が大きくなるぞ」
「……肝に銘じておきます」
俺達の会話に周囲にいる騎士達は笑う。雰囲気は悪くなく、ルークもこの場所に溶け込んでいるようだ。
「ところでルークは、どうしてこの町に?」
「戦争後数年は王宮にいたんですが、雰囲気が合わなくて自分から申し出たんです。ここで妻とも出会い子供も生まれたので、俺としては最高の結果かもしれません」
うん、なんというか幸せオーラが滲み出ている……戦争後の人生、彼は良い人生を歩んだようだ。
「トキヤさんは結婚とかは……」
「残念ながら独身だ」
「お相手とかいらっしゃらないんですか?」
「まあな。色々あって」
――その色々にどういったものを感じたのか。ルークはそれ以上尋ねることなく「そうですか」と応じ、
「トキヤさんは魔王討伐のために召喚されたようですが……実際に旅を?」
「気になることもあるから、そのつもりだ」
「正直、俺としてはトキヤさんがやる必要ないと思いますが……」
メルと同じことを言うルーク。俺と共に戦った仲間達は、彼女と同意見なのかもしれない。
「まあまあ、とりあえずは……で、だ。ルーク、最近この町の周辺で何かあったりしないか?」
話題を変えるとルークは眉をひそめた。
「何か……とは?」
「ここへ来るまでの道中で、魔物と魔族が活動していた。メルが要請を受けていたことから、ずっと前から怪しい動きをこの国でやっていたみたいなんだが……」
「他にも何かないのか、と」
「そうだ。さっきも言ったとおり、俺は魔物や魔族の動きで気になることがあって旅をしている。その違和感が正しいのかどうかを調べるため、魔物の動向なんかは調べたいんだ」
「……真面目ですねえ」
俺の言葉にルークはそんな反応。
「もっと面白おかしく旅をしてもバチは当たらないと思いますけど……」
「ははは、ありがとう。で、何か情報はあるか?」
「うーん、そうは言っても……あ、近くに魔物の巣らしきものがあるという報告は受けていますね」
思い出したようにルークは声を上げた。
「といっても、魔族と関係あるかどうかは……」
「ああ、そこは別に構わないよ。町の近くなのか?」
「南西に小高い山があり、そこに洞窟が一つあるんです。入口から少し進めばあっという間に行き止まりになるような深さですけど」
「そこには以前から魔物の巣が?」
「いえ、半年くらい前からですね。どういう経緯で魔物の巣になったのかは不明です」
俺は彼の話を聞いて、メルへ視線を送る。
「魔物が巣を作るっていうのは、普通のことなのか?」
「魔物の中には他の個体を使役する、あるいは子供のような個体を作る存在がいます。どちらなのかは現時点で不明ですが、そういった魔物がどこかに巣を作ることは珍しいものではありません」
「魔族と関係あるかどうかは……」
「今ある情報ではわかりませんね……ルーク、そこにいる魔物達は悪さをしているのですか?」
「警戒はしています。動きはありませんが、山に入って薬草採取などはできなくなったりと、町にも多少影響は出ていますね」
そう述べるとルークは腕を組み、
「現在は討伐すべきだ、という声と様子を見ようという声がぶつかっている状況です」
「そっか。なら」
俺はルークへ向け告げる。
「俺とメルで調べてみるよ。まあ、魔物が強くなければさっさと討伐してくる」
おお、周囲にいる騎士や兵士が声を上げる。それにルークはこちらと目を合わせ、
「それは嬉しいですが、あんまり報酬は出せませんよ?」
「何かあれば冒険者ギルドを通して依頼するだろ? 手順はそれと同じでいいし、依頼料も従来仕事を頼むくらいでいいよ。俺個人としても調べたいことがあるから、安くても請け負うよ」
「……わかりました、上の人には自分から伝えておきます」
どこか呆れたように――お人好しだな、という雰囲気でルークは言った。
「いつ調査を始めますか?」
「明日にしようかな」
「なら宿は手配しておきます」
「悪いな」
そう応じると、俺とルークは互いに目を合わせつつ笑ったのだった。




