同時攻撃
俺達は山を進み、やや開けた場所に到達した時点で――山中に二体いる魔物の内、一体が明らかに反応を示した。
こちらに魔力を向けてくる……どうやら威嚇をしているらしい。その一方でもう一体の魔物はまだ動きがない。
「メル、騎士達の動向はどうだ?」
反応を示した魔物を見据えつつ、俺は後方――森にいる騎士について言及する。
「何か動きがあればそっちに援護しに行くというのもありだが……」
「幸い、まだ交戦はしていないようです。準備段階でしょうか」
「名目上は調査だし、魔物の動きが窺っているという感じかな」
俺はそう呟くと、周囲に視線を巡らせる。
少し先に引き受けた仕事で採取する薬草を見つけた。山に入る口実ではあったが仕事は仕事。俺はまず薬草を摘み取った。
「これで仕事は終わりだな……報酬がそれなりに高かったけど、俺達を注視する魔物の存在があるためだろうな」
「……向こうから攻撃を仕掛けてくる気配はありませんね」
と、メルは魔物に対し言及した。
「何か守っている……? あるいは、何かしら命令を受けて離れられないとか?」
「……確かめるには、魔力を放って誘ってみればわかるけど、どうする?」
とはいえ、もう一体の魔物を刺激する可能性はある……と、ここでメルは一つ提案をした。
「いえ、ひとまず近づいてみましょう。それで反応を窺いつつ、接近して仕留める方が安全かと」
「わかった。それでいこう」
俺達は先へと進む。すると魔物がさらに魔力を放つ。それ以上に進めばただでは済まないと警告している。
「魔物がいる場所に魔族に関する情報があるとか……は、さすがにないか」
「魔族が潜伏していたとしても、資料は回収しているでしょうからね……トキヤ」
ここでメルが俺の名を呼んだ。しかもその声は鋭い。
「魔物ですが……明確に反応したようです」
「いよいよか」
俺が一つ呟いた時だった。魔物が雄叫びを上げ――俺達へ向け、突撃を開始した。
速度はかなりのものであり、俺は近づいてくる魔物を視界に捉える。その姿は人の形をしているが、黒い翼をはやしており、
「見た目だけを言えば、悪魔の類いか?」
「そのようすですね。他の魔物が同一の個体なのかは不明ですが――」
会話をする間にも魔物――もとい悪魔が接近してくる。武器などは何も所持していないみたいだが、武器は魔力を収束させた拳、ということだろう。
「――ヘレナ、フィリス」
俺は仲間の名を呼ぶ。
「どうやら悪魔の能力を分析する時間はなさそうだ。まずは全力で対応し、悪魔に一撃食らわせる」
「薬は飲んだ方がいい?」
ヘレナが問う。それに俺は首を左右に振り、
「まだ必要ない。悪魔との戦いが長引きそうだったら、一度退避して――」
そこまで会話をした時点で、いよいよ悪魔が俺達の下へ近づいてきた。ここで会話を中断し、俺は剣を抜き、
「一撃で仕留めるべく、全力で攻撃しろ!」
号令と共に足を前へ。直後、悪魔が俺の真正面へとやってきた。
既に悪魔は右の拳を振りかぶり、俺の脳天へ拳を突き刺そうとする。だがこちらはその動きに対応できた――回避しても良かったが、その必要はなかった。
俺の真正面に出現した悪魔に対し、メルとフィリスは左右に分かれ同時に魔法を放った。それは光の槍であり、今まさに拳を繰り出そうとする悪魔の両肩に突き刺さった。
途端、悪魔の体が硬直した。ダメージもそれなりにあるみたいだが致命傷にはなっていない。だが、メルとフィリスの魔法によって動きを縫い止めることは成功した。
次いで俺の剣戟が炸裂――の前に、先んじてヘレナが前に出て斬撃を悪魔に叩き込んだ。上段から振り下ろされた渾身の剣は、悪魔の体へとしかと入った――確実にダメージはあった。けれど、消滅には至らない。
そこで俺が動いた。ダメ押しとばかりに振りかぶった剣を一閃し、その体躯へ斬撃を刻みつけた。
同時攻撃――悪魔にとっては予想外の反撃を受け、再び吠えた。
抵抗するか、と少し警戒したがすぐに大丈夫だと判断した。理由は悪魔の体躯が声と共に塵と消え始めたからだ。
倒した……が、俺はこの時点で消えゆく魔物の能力についておおよそ察することができた。
「確かに強いな……これは放置しておくと大変なことになっていたかもしれない」
俺達四人の攻撃が確実に決まったことで、悪魔に何もさせず撃破することはできたが……もしロードガーデンの騎士達が相手にしていたら、どれだけ犠牲が生まれていただろうか。
「メルはどういう感想を持った?」
「トキヤ言うとおり、放置していればまずかったでしょうね。トキヤ一人でも勝てたかもしれませんが、暴れだし逃亡でも図られたら面倒だったので、連係攻撃が成功して良かった」
「ヘレナもフィリスも結構戦闘経験を積んだ結果かな……まだ二体目は動いていない。この調子で残る魔物も倒そう。あ、騎士団と対峙する魔物については後回しだが、もし騎士団がまずそうだったら急行しよう――」




