売り込み
ロードガーデンに入ると、俺達はすぐさま宿を探した。天王会議まで十日だが、既に多数の人が入っており、大通りは活況だった。
いや、それどころか……正直、歩くのも不便というレベルであった。
「人が多すぎるわね……」
ヘレナが呟く。俺は心底同意しつつ、見つけた宿へ入り部屋を確保。ちなみに部屋割りは空いていれば全員個室だったのだが、
「……さすがに、四人個室は難しいようです」
メルが受け付けで状況を確認し、告げる。空き部屋は個室が一つと、大部屋が一つらしい。
「それなりのグレードですから、滞在費は結構掛かりますけど……」
「費用は気にしなくていいさ……ふむ、部屋割りは男女で分けるか?」
「それが良さそうですね。ヘレナとフィリスはそれで大丈夫ですか?」
二人は同時に頷いたため、宿を確保した。そして個室に入ると、宿でも上階に位置し人混みだらけの大通りが見えた。
「……こんな調子だと、因縁をつけてくる相手もいなさそうだな」
俺はそんな風に思った――勇者トキヤがロードガーデンにいる、とわかっていてもこの人混みから探し出そうとするような人はまあいないだろうし、下手に目立たなければ見つかりそうにない。
まあ懸念は仕事を探す際にギルドに赴いた時だろうか……考えているとコンコンとノックの音が。
返事をすると扉が開き、メルが姿を現した。
「町には入ったので、会議まで何をするか決めましょうか」
「わかった」
俺は返事をして、メル達の大部屋へ赴く。ベッドが三つ並んでおり、長期滞在には最適そうな場所だった。
「では、私から。情報収集を行い、ロードガーデン周辺の情勢を確認します」
「何か手伝った方がいいか?」
俺が問うとメルは視線をフィリスへ向けた。
「今回はフィリスに手を貸してもらおうかと」
「私?」
「この町に慣れる意味合いもありますね……どこに何があるのかはきちんと確認すべきでしょうし、また町の仕組みなどもこの辺りで詳しく説明した方が良いかと」
「なるほど。それに合わせて情報収集をすると」
「はい、私が担う役目を少し手伝ってもらいたいという意味合いもあります」
「フィリス、やれそうか?」
俺が問うと彼女は頷く。なんだかやる気がありそうにも見える。
「なら、今回はメルと組むと……ヘレナの方はどうする?」
「うーん……」
悩むヘレナ。こんな場所だと剣を振る修行、というのも難しいだろうからなあ。
「トキヤ、仕事を一緒にやってもらいますか?」
「それでもいいけど……そもそも仕事があるかどうかわからないからな。鍛錬の方はどうなんだ?」
「魔力制御は実戦を通して改善を進めていますからね……ただ、部屋にこもってでもやれる作業はありますが……」
「修行が続けられるなら、やろうかな」
と、ヘレナは案外乗り気な反応だった。
「正直、私がギルドに赴いてもあんまり良いことなさそうだし……ザナオンと一緒に活動してきた時も絡まれたことがあったし」
「経験済みか……ならメル、目一杯課題を与えてやってくれ」
「わかりました。こんな状況ですし、ここでやれることをやりましょう」
ヘレナは頷く。とはいえ、
「ただ、ずっと宿にいるのも体に悪いし、気分転換に外へ出たりしろよ」
「そこはフィリスとたまに交代とかでいいんじゃない?」
「ええ、そうしましょう。フィリスの方もずっと私と共にいては気疲れするでしょうし」
「……メルの方は大丈夫なの?」
フィリスが問う。それにメルは笑みを浮かべ、
「私は慣れていますから……ではトキヤ、方針はそのような形で」
「わかった……なあ、メル。この十日の間に騒動が起きる可能性はあると思うか?」
「ゼロではないと思います。多数の人々が集まるところですし、魔族が入り込む余地だってあるでしょう。あるいは、エルフや神族が敵であるのなら……」
それ以上は言わなかった。この場にいる面々なら、メルが何を言いたいかは理解できたためだ。
「ただ、天王会議は町中の警戒度合いもかなり高いです。町中で魔法を使っただけで衛兵が来ますからね」
「不審なものはすぐに察知できる体制を築いていると」
「はい、ロードガーデンはきちんと対策をしているでしょうし、基本的には町側にお任せするのが良いでしょう」
「……ふむ」
そこで俺は、一つ思いついた。
「メル、俺はギルドで仕事でも探そうと思ったんだが……案を思いついた」
「案ですか?」
「ああ、ロードガーデンに俺を売り込みに行こう」
その言葉で、メルは目を少し見開き、
「自ら町に名乗り出て、仕事をもらうと?」
「何かあれば、手を貸すくらいスタンスだよ。仕事をもらえたら嬉しいけど、基本は天王会議を無事に開催するため……それに」
と、俺はメルへ続ける。
「もし現段階で、町側にトラブルがあったとしたら、俺の方へ何か話を持ちかけるかもしれない」
「それを確認する意味合いもある、と。とはいえ、コネクションはありましたっけ?」
「そこは大丈夫。ちゃんとつてがある」
俺はメルの問いに対し、自信を持って答えたのだった。




