自由都市
思わぬエピソードを挟みつつ、俺達は自由都市ロードガーデンへと向かう――道中で魔物討伐なども行いつつ、旅程は順調に消化し―――そして、
「……着いたな」
俺は一つ呟く。真正面に、城壁に囲まれた都市が見えていた。
都市の規模はフリューレ王国の首都と遜色ないほどで、この場所は一大交易路として多数の国に接した場所に存在している。
だからこそ、この場所は他の国が所有しない自由都市となっている――どういう経緯でそうなっているかと言うと、この場所は元々多数の国と国境を接するため、戦場になっていた。大陸内を結ぶ要衝であることは間違いなく、だからこそ歴史上様々な国がこの場所を領土にすべく狙ったり、それを止めるために戦場となった。
幾度となく戦争が繰り返され……やがて天王達は悲劇を止めるため話し合い、この場所を緩衝地帯とすると決議し、自由都市が生まれることとなった。血塗られた歴史の上に存在する都市だが、多数の国を結ぶため交易は栄え、この場所にない物などない――大陸中から様々な物が集まってくる、などと豪語するようになった。
そんな自由都市ロードガーデンは、緩衝地帯だからこそ天王会議の舞台にもなる……完全な中立地帯だからこそ王達が集い、ここで重要な話し合いが行われる。
そして――俺は十年前の戦争を思い出す。この場所も、戦火に巻き込まれた。
「十年前を思い出しますか?」
横にいるメルが問う。俺はそれに頷き、
「そうだな……ここは悲惨な戦場の一つだった」
「戦争……か」
俺の言葉に続き、ヘレナが口を開く。
「ひどかったの?」
「ああ、ここは大陸中の国に繋がる重要な地点だ。だからこそ魔王も狙っていた」
ロードガーデンという都市がどれほど大陸にとって重要なのか……それを克明に理解していた魔王は、この場所を占領するべく攻撃を行った。
「戦争初期にここが真っ先に狙われ、征服された。結果、戦火が広がり天王達は厳しい戦いを迫られることになった」
「軍略という点で、魔王は最初天王達を上回っていたということか」
「そうだな……各国はここから激しい抵抗をしたわけだが、それでもこのロードガーデンを抑えていたというのは大きかった。各国上手く連携ができず、魔王のさらなる侵略を許してしまった」
そう語った後、俺は町の城壁を見据える。それはずいぶんと真新しいように見える。
「……十年。町を再建するには短すぎる時間のように思えるけど、城壁まで元に戻っている……いや、以前よりもさらに町が大きくなったか?」
「はい、その認識は正しいですね」
俺の呟きにメルが反応する。
「ロードガーデンは文字通り、ゼロからの再建でした。けれど各国がこの場所の重要性を鑑みて、最大限の支援をしました」
「その結果が今の町か……」
「再建途中でも、天王会議はこの場所で開かれました。やがて町や会議自体が復興の象徴として扱われるようになり……今に至ります」
その言葉に、俺は目を細める。
「……復興の、象徴か」
「どうしました?」
「いや、何でもない……それは天王達が言ったのか?」
「いえ、誰かがそう言ったのではなく、自然発生したものです」
「そっか……そうだよな、間違いなく復興の象徴だ」
俺はそう呟くと、仲間達へと視線を向けた。
「感傷に浸るのはここまでにしよう……それじゃあ、町へ向かうか」
「色々と調べたところによると、天王会議までは残り十日ほどだそうです」
「実際、十日後に行われるのかは不明ではあるけどな……過去には日時は決まっているにしろ、多少ズレたりもしていたみたいだし」
「戦争後は少なくとも会議開始の日は情報通りでしたし、そこは大丈夫だと思います」
「そうか……よし、町へ入って宿の確保。それと、多少なりとも仕事はしようか」
「わかりました……会議は一大イベントですから、知り合いに遭遇することだってあるかもしれませんね」
「かもな」
「あ、それとですが」
思い出したかのようにメルは告げる。
「勇者トキヤが再召喚された事実は公になっていますが、それ以外にもこの会議に姿を現す、というのも噂に上っています」
「……俺が旅をする目的はわからないにしろ、天王達が一度に集まるイベントだ。ここに来ることくらい、予想できそうだし噂が出るのはまあ自然かな」
「誰かが絡んでくる可能性もありそうですね」
「誰か?」
「色々な人が集まりますからね……勇者トキヤという存在に対し、挑戦的だったり敵意を持った人だって多くいるでしょう」
「……面倒事は可能なら回避したいところだけど、そう上手くはいかないんだろうな」
ため息を吐く。ま、十日もあるのだ。騒動の一つや二つくらいは覚悟した方がいいかもしれない。
「……ここで、何か手がかりが得られると思う?」
今度はフィリスが尋ねてきた。それに俺は肩をすくめ、
「わからない、というのが答えではあるけど……天王会議以上に情報が得られる場所はない。今はっきりしているのは、ここでどんな情報を得るか……それによって、立ち回りが決まるということだけだ――」




