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三度目勇者の異世界紀行  作者: 陽山純樹
第二話

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勇者の考え

 メルと共に訪れた美術館は結構豪勢な建物で、中に入ると元の世界と似たようなレイアウトで展示された光景が広がっていた。

 メルは絵画一枚一枚、丹念に観察する……それを横目に俺もまた、この世界に存在する絵画を見て回っていく。


 元の世界において俺自身、こういった場所に足を運んだことは数えるほどしかないが……個人的にはこの世界の文化に改めて触れたことで、心情が少し変化した。

 元の世界に帰るのか、それとも……美術館を出た際も色々と考えていたのだが、その様子を見てメルは口を開いた。


「色々と、考えているようですね」

「……まあ、な」


 俺は彼女の発言を認めた。


「よくよく考えたら、俺はこの世界のことをほとんど知らないんだなと気づかされたよ」

「それは、仕方のない話です。魔王との戦いで必要がなかった、という話でもありますからね」

「思い返せば、本当に冒険とか戦うことに全振りしていたんだな……」


 頭をかく。そうした反応を見たメルは笑みを浮かべ、


「これから知っていけばいいんですよ」

「……これから、か」

「とはいえ、今まで知ろうとしなかったのはトキヤが無意識に避けていたのかもしれません」

「……俺が、避けていた?」


 眉をひそめると、メルは小さく頷いた。


「はい、この世界のことを知れば、きっと元の世界に戻ろうとは思わなくなる……i以前のトキヤは、元の世界へ帰るという強い意欲がありましたし、そうした決意が揺らがないように、帰るために前を向き続けていました……だからこそ、この世界について知ろうとは考えませんでしたし、さらに言えばノイズとなると考えていた」

「……それを俺が、無意識で?」

「あくまで可能性の話ですが」


 彼女の話を聞いて、俺は考え込む……あり得ない話ではないと思うが――


「ですが、今は違います。トキヤは今、岐路に立たされている。この旅の終わりがどういう形であろうとも、選択に迫られる……私はこれまで、トキヤの意思を尊重してこの点について言及してきませんでしたが……」

「今は違う?」

「もちろん、この世界に残ってほしいと思っていますよ」


 ……まあ、そうだよな。


「とはいえ、です」


 だが彼女の話には続きがあった。


「一番の懸念は、この世界に残るとして国々の人はどう考えるのか。そして何より、国家があなたのことをどうするのか」

「魔王を二度倒した勇者のことを、当然ながら国々は放っておくわけがない、と」


 俺はそこで空を仰ぎ見た。


「……メルに言ったかどうか憶えていないけど、二十年前の旅が終わった後、そういう政治的な思惑が嫌で帰ったという面も強かったんだよな」

「そうなのですか?」


 ――旅の途中で、俺は嫌というほどすり寄ってくる人を見た。二十年前の俺は成人を迎えていなかったし、何より政治的な知識もなかったけれど……評判が上がるほどにそういう人物が増えてくることに対し、嫌気がさしてきた。

 俺自身、魔王を倒したらその功績によりこの世界に残ってもいいかなー、なんて思ったりもしていたのだが……そういう人々の姿を何度も見た結果、これは残ったらまずいことになるのではと考え始めたのだ。


「まあ、政治闘争に巻き込まれたら無事じゃ済まないよな、なんて子供ながらに思っていたから帰ったんだけど……ある意味、それは正解だったかもしれない」


 俺の言葉にメルは黙る。そんな彼女に俺は、


「あー、もしかして残る選択をする場合、そうした懸念があるとか考えている?」

「……確かに、魔王を二度倒し、現在も魔族に挑み功績を挙げている人物ですから、色々と憂慮すべき話ではありますね」


 そうメルは言ったが、


「ですが、あなたを支援する方々も多数いらっしゃいます。そうした方々を頼っても問題ないと思いますよ」

「頼る、か」

「例えばマヌエラに助けてくれー、と言っても色々と援助してくれるかと」

「……かも、しれないな」


 息をつく。そこで俺は思い直し、


「ごめん、急にこんな話をして」

「いいえ、大丈夫です……このデートにはトキヤが今考えていることを聞き出す意味合いもありますから」

「俺が考えていること……」

「はい」

「それを聞き出して、この世界に引き留めるための材料にする、みたいな感じか?」


 問い掛けにメルは頷いた。


「そうですね。少しでも確率を上げるために、やれることはやろうかと」


 そう述べた後、彼女は俺の様子を窺うように、


「それに……トキヤはきっと、最後の最後まで考えるでしょう。それこそ、この旅が終わって帰る手段を構築して……そこで初めて、答えを出すでしょう」


 俺がどういう結論を出すのか、わかっている様子……そこはさすが戦友、といったところか。


「トキヤはこのデート中に結論を出さなければ、などと考えているかもしれませんがその必要はありません……旅はまだ長いでしょう。私も答えは急ぎませんので、今日は楽しんでください」

「……わかった」


 そこで俺は思考を切り替え――メルと共に、次の目的地へと向かった。


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