彼女の趣味
翌日、ヘレナとフィリスは早朝から一足先に宿を出て観光を始めた。俺が起床した段階で既にいなくなっていたので、よほど楽しみにしていたらしい。
まあずっと魔王を調査する、ということで張り詰めるのも良くないよな……俺は少し反省した。これからは観光とかに意識を向けることにしよう――
「まあ、そう気にする必要はないかと思います」
買い物を始める段階で反省する旨をメルへ伝えると、彼女はそう発言した。
「ヘレナはそもそも最強になることが目的で、フィリスの方も魔王調査そのものが目的ですし」
「そんなものか?」
「今回ヘレナが提案したのは、おそらくフィリスのことがあるからでしょう。これから旅をしていく中で、神族と魔族が手を組んで戦うかもしれない……実戦で連携するきっかけはつかんだと思いますが、互いをより理解していればさらに強くなれる」
「まあそうだな……結局、ヘレナは今後の戦いのことを想定して、発案したというわけか?」
「そういう意図もある、といったレベルかと。観光の町で色々見て回れば、戦いのことを忘れる時間もあるでしょう」
そうだといいな……思いつつ、俺達は買い物を進めることに。
旅をする上での必需品などをまずは購入していく……メルはこういう面でもしっかりしており、どこで学んだのか経済的な目も養っている。雑貨などを一つとっても、これは安いから買いだとか、これはもっと安い店があるとか見極めて、上手く買い物を進めていく。
「こういう役割はメルにしかできないよな」
いくらか買い物袋を持った俺は、前を進むメルへ発言する。
「俺だったらぼったくられても気づかなそうだし」
「トキヤはこの世界の人ではないので仕方がないでしょう」
「……物価の把握とかは、二十年前の旅路でもしっかり知識にあったよな」
「色々と知識を吸収すること……私の趣味の一つですからね。町中をただ見て回るだけでも、この町の物価はどうだとかなど、わかることは多いですよ」
なるほど、俺はただ町並みと人の流れくらいしか見ていないけど、メルはしっかり町に実情などを観察しているというわけだ。
「さすがだな、メルは」
「褒めても何も出ませんよ」
チラリと俺の方向を見てそう告げた後、再び前を向く。心なしか、褒められて嬉しいように見えるのは……気のせいだろうか。
俺はなんとなくじっとメルの後ろ姿を見る。エルフで超がつくほどの美人とくれば誰もが振り返ってもおかしくないが、目立たないように気配を消しているのか魔法でも使っているのか、メルに注目する人はほとんどいない。
……彼女とは二十年前からの付き合いで、右も左もわからない俺のことを助けてくれた。よって俺にとってメルは旅をする仲間であり、魔王に挑んだ戦友であり、またこの世界で助けてくれた恩人でもある。
ふと、それ以外の感情はあるのか自問自答した。それは当然、恋とか愛とか呼ばれるものなわけだが……、
「……なあ、メル」
「はい、どうしましたか?」
振り返る彼女。太陽光によってキラキラと輝く青い髪と、俺を射貫く視線は一枚の絵画になってもおかしくないくらいの美麗さだった。
「……次は何買うんだ? もしかさばる物だったら、一度宿に戻った方がいいのかと思ったんだが」
俺はそう問い掛けた……取り繕ったような言い回しだったのは、ギリギリでバレていない、と思う。
「次は薬草の類いなのですが……荷物を持つのが嫌であれば宿に戻りますか?」
「いや、まだ余裕はあるよ……この調子だと一日かかりそうだな。昼食はどうする?」
「適当な時間帯で宿に戻って、食堂で済ませるかお店を回ってみるか考えましょうか」
「わかった」
返事をした後、俺はメルに追随する形で歩き続ける……そこでふと、俺は思いつくことがあった。
とはいえこれは、あくまでただの勘でしかない……のだが、
「……どうするかな」
一言呟く。それはメルの耳に入らなかった。
やがて、数軒店を回った後に俺達は一度宿に戻り荷物を置いた。そして道中で見つけた店に入り、昼食をとることに。
「旅は長くなりそうですし、こんな風に買い出しする日を作る必要があるかもしれませんね」
「かもしれないな……ま、急ぎの旅というわけじゃない。しっかり旅の準備をして、いつ何時戦いが起こっても問題ないようにしておくべきだろう」
こちらの言葉にメルは頷く……やがて料理がきた。俺は向かい側に座る彼女を見て、
「……メル、食べながらでいいんだが、一つ質問いいか?」
「はい、どうぞ」
メルが答える。俺はそこで……少し考えた後、
「これはあくまで俺の勘だから、聞き流してもらって一向に構わないんだけど」
そう前置きをして、
「理由はともかくとして……ヘレナとフィリスは、俺達を二人にするために今回観光と称して町に留まるよう進言したんじゃないか?」
その問いに――食事を進める彼女の体が止まった。




