異世界の大国
「まず、魔王の情報集めとして聞きたいこととしては、今年『天王会議』はまだ開催されていないのか、ということだが……」
この世界、というかこの大陸のキーワードを用いると、メルは首を左右に振った。
「まだですね。議題は間違いなく魔王に関するものでしょう」
「復活した魔王をどうするか……だな」
メルは頷く。なら、
「情報集めをしつつ、会議に首を突っ込んでもいいかな」
「会議の席に、ですか?」
「俺なら天王に直接質問しても、話聞いてくれそうだし。それが無理でも、開催場所に赴いて情報集めをすればいい。各国が魔王復活に対しどういう考えなのかを知る絶好の機会だからな」
――この世界、というか大陸には大小様々な国がある。ちなみに俺を召喚したジェノン王国は領土規模からすると小さな国だ。
そうした中、大国と呼べる国が四つある。その内三つは竜族、神族、エルフ族と人間ではない存在が国を治めているが、残り一国は人間の王様が統治している。
まあその王様だって特殊な魔法や先祖から継承された魔法の道具によって、常人を凌駕するほどの長さを生きているのだが……ともあれ、その四つの国がこの大陸における中核を担っており、その国々の王様は『天王』と呼ばれ、他国の王族とは別格の存在となっている。
そして四ヶ国は一年に一度、大陸中央に存在する完全中立の自由都市にて顔を合わせて会議を開く。これを『天王会議』と呼び、大陸内において重大な議題を話し合い、方針を決める。
魔王を二度倒した俺は天王達とも顔を合わせた経験もあるし、おそらく彼らが暮らす王宮へ赴いても話を聞いてくれるくらいの交流はある……もし会議が開かれるなら、そこで一堂に会するため、色々と話を通すのも早くなる。
ただし問題が一つある。それは、
「メル、天王会議の開催日は?」
「不明です。いつものように、開催一ヶ月前とかに公表されるのでしょう」
彼女の言う通り、開催日はギリギリまでわからない。そもそも大国の王様が顔を合わせるとなれば、スケジュール調整などが大変なのは自明の理。過去には予め日程を決めるということもやったようだが、開催日直前になって行けなくなった、などというケースが結構あったらしく、ならもう空いている時でいいじゃないか、ということでこういう形となっている。
正直、大国の王が動くというだけで関係各所の人が大慌てになるだろうから、大変だと思うんだけど……まあ、そうやって長い間やってきたのだから慣れているのだろう。
そういう理由から、会議を当てにするのもまずい……よって、積極的に自分から情報集めをしたいところだ。
「わかった、それじゃあ国を回るとする」
「はい、わかりました」
……と、彼女は答える。そこで俺は、次の質問を投げかけた。
「なら次の質問なんだが……メルはどうするんだ?」
問い掛けると、彼女は眉をひそめた。
「どう、とは?」
「……個人的な願望としては、手を貸してくれると嬉しいんだけど」
発言した俺に対し、メルは目を瞬かせた。
「……てっきり、ついていくのは当然とばかりに考えていたのですが」
「いやいや、メルだって仕事とかあるだろ」
「族長に報告書でも送れば、わかったと同意してくださると思いますよ」
軽いなあ……ここで俺はメルへ、
「不服だったら拒否してもいいんだぞ?」
「いえ、ついていきます」
……ちょっと言葉に力がこもっていた。ついてくるなと言われても、付き従ってきそうな雰囲気である。
「トキヤは一人では何をしでかすかわかりませんからね」
「信用ないってことか」
「過去を振り返ってください。一人で無茶をしたのは何回あったでしょうか?」
……うん、まあ。自覚はあるので何も言えないな。
「ともあれ、旅をするというのなら同行致します……ひとまず族長に報告書を作成して――」
「いや、ここはきちんと筋を通そう」
俺が言うとメルはこちらに視線を送り、
「というと?」
「ちゃんと挨拶に行くよ。長い旅になるだろうし、きちんと族長に面と向かって話をしておきたい」
「……トキヤがそう言うのであれば」
というわけで、今後の方針は決定。食事も終え、今日は眠ることに。
俺達は宿に戻ってそれぞれの個室に入る。俺は眠る支度を整えつつ、召喚されて以降のことを振り返る。
といってもまだ二日しか経っていないけど……メルとあっさり合流できたのは幸運だった。話が非常に早くなったし、旅の目標についても明確になった。
しかし、魔王復活……メルに話した通り、復活したというのであれば、再び戦争が起こってもおかしくない。だがどうやら、十年前とは事情が違う。
それが果たして何を意味しているのかは現時点で不明だが……魔族が動いているのもまた事実ではあるみたいだし、もし何か騒動があれば俺が参戦して解決していくべきだろう、と思う。
「一回目の旅では、魔族や魔物に関わることに首を突っ込み続けていたからな……」
その結果、俺は召喚されて数ヶ月でそれなりに有名になった……とにかく経験を積まなければならないという思いもあったし、また勇者だから……という責任感が自分なりにあったためだ。
実際は色々やり過ぎて「お前おかしいんじゃないか」と言われるようなこともあったけれど。勇者とはいえ、何もかも背負うような存在ではないと気付いた時には、俺は強くなり高位魔族とも張り合えるようになって、結果さらに戦いを繰り返すことになったのだが。
まあそれでも、色んな仲間と共に進み続けた二十年前の旅は、俺の中で楽しいと思えた瞬間もあった……。
「今回の旅も、そんな風になれたらいいけどな……」
まあとはいえ、メルとも会えたし決して不安はない……というわけで、明日も早いし寝るとしよう。俺はここで考えるのをやめて、眠ることにしたのだった。




