理解してしまった者
「俺がこの事実に気づいたのは、マヌエラのやった歴史編纂の仕事……その内容を確認したためだ」
沈黙するマヌエラに対し、俺はさらに話を続ける。
「人間視点で魔王の動向を調べていた……それだけで戦争の真実に気づけるかと言われれば微妙ではあるけど、頭脳明晰なマヌエラだ。何か違和感を抱き、編纂対象外のことも調べ始め……結論に至ったのではないかと推測しているんだが」
「……その見解は、正解だよトキヤ」
感服した、という雰囲気でマヌエラは返答した。
「魔王の動向などを調べていて、ふと疑問がよぎった。そこで興味が出て調査を開始し……結果、推測できてしまったと言うべきか」
「それで研究者を辞めたのは、もし今後事が露見したらどうなるかわからないから……というわけか」
「正直、研究を続けていても問題はなかっただろう。だが、いつか……私が知っていると察する者が出てきたとしたら……あるいは、私自身の口から何か出てしまえば、それで全てが終わる」
「マヌエラは口が固いし、喋らなければ問題ないと思うんだが。それに、確たる証拠を手にしたわけでもないだろ?」
「もう一つ理由がある。真実に気づいた以上、国に頼って何かをする、というのに嫌気がさした」
「……なるほど」
戦争の――魔王の真実は、彼女にそうさせるだけの理由にはなるし、納得がいく。
「二つの理由で私は研究者を辞めた……トキヤは、口ぶりからするとあの戦争について最初からわかっていたのか?」
「戦争後、真実を知る存在から話を聞いた」
「それは……なるほど、魔王を二度倒した事による特権、か?」
「そんなところかな……それに、俺は元の世界へ帰るつもりだった。別に話してもいいだろうと考えたのかもしれない」
「だが今、トキヤは戻ってきているが」
「何か干渉してくるかなと思っているんだが、現時点で何もないな……ま、いずれ直接話す機会はあるだろう。魔王の調査をしているし、俺から誰かに真実を漏らすようなこともない。接触は穏当なものになるはずだ」
俺の言葉にマヌエラは頷く……そして、
「少ない情報で辞めた理由まで察することができるとは……探偵も目指せるんじゃないか?」
「俺は魔王の真実を知っていたからこそ、気づけただけさ……それで、マヌエラ。理由が理由だから俺の口から君のことを誰かに話すことはないんだが……なぜ辞めたのかと、君のことを調べる人間はまだいる」
「あー、もしかして調べてくれと話が回ってきたのか?」
「そうだ。そちらとしてもあんまり嗅ぎ回られると面倒だろう? そういった人物が真実に行き着く可能性は限りなくゼロに近いだろうけど……」
「口裏を合わせておいた方がいいだろうと」
「俺が調べた結果、こうだったと語れば、ある程度納得してもらえると思うんだが……どうする?」
尋ねると、マヌエラは腕を組み考え始める。
「ふむ、そうだな……実を言うと、それなりの理由は考えていたんだ。ただそういう風にしても、別の意味で干渉してくるかなと思って説明に使わなかったんだが」
「どういう理由だ?」
「病気だよ。魔力に関する病が見つかったと」
ふむ、病か……それで研究者を辞めました、というのは確かに理屈としては筋が通る。
「余計に構われる可能性を考慮して、この理由は採用しなかったんだが」
「……なら、こういう風に理屈をつけるのはどうだ?」
俺からマヌエラに提案を行う。それに彼女は了承し――口裏を合わせることとなった。
後日、酒場で食事をしている時に俺はマヌエラから聞き出したことをメル達へ報告する。その内容は、
「病……ですか」
「マヌエラ自身、心配させまいと理由は語らなかったみたいだな」
そう俺は語る……理屈としては魔力に関する病が見つかり、研究を続ければ命に関わるものだ、というもの。
「研究者を辞めた直後から、密かに治療を続けていたらしい……もし治ったら研究職に戻るつもりだったが、その間に結婚なんかをして、主人を支えるという決断をしたらしい」
「現在、病状は……」
「俺達に手を貸すくらいは問題ないと。ただ、専門的な研究は難しいだろうと言っていた……元々、戦争を終えた後から調子が悪い時はあったらしいから、まあ無理をした結果という感じらしいな」
俺の説明にメルは頷きながら話を聞き入る……うん、納得はしているみたいだな。
「これまで語らなかったのは、治る可能性もあったし、あと何より主人の迷惑になる可能性もあったと」
「例えば病を抱えていると知られれば、政争的な意味で主人に迷惑が掛かるかもしれないと」
俺が頷くと、メルは「わかりました」と応じた。
「依頼人にもそのように伝えておきます」
「これで納得してくれるのか……?」
「おそらくは。さらにフォローとして病に関してあまり触れない方がいいと言っておきます」
「ああ、頼むよ」
……大丈夫そうだな。というわけで、魔族の騒動と共にマヌエラに関することもひとまず解決したのだった。




