新たな目標
「フィリス、あなたに伺いたいのですが」
「うん」
頷くフィリスに対し、メルは一つ問い掛けた。
「私たちの旅に同行するという形になりますが、あなたが勇者と共に旅をすることで、魔族側で不利益を被る存在はいますか? 例えばあなたの両親など――」
「十年前の戦争で親族は滅んでいるから、心配はいらないよ」
そうフィリスが言う……それは別の意味で心配になるんだけど。
「あなた達が気に病む必要はないよ……例えば私が人間の味方をして捕まるような同胞はいない。だからこそ、すんなり仲間になることを受け入れたんだけど」
「そうですか、わかりました……では次の質問を」
深くは訊かず、メルは話を変える。
「あなたの年齢を教えてもらっても?」
「年齢?」
「言動からずいぶんと大人びていますが……あなた、思った以上に年齢が低いですよね?」
え? 眉をひそめた時、フィリスから驚きの言葉が漏れた。
「教えるのはいいけど……十三」
「は!?」
今度は俺が驚いた。そこでメルは合点がいったように、
「所作が幼いと思っていたんですよ……その年齢ならまあ納得します」
「ちょ、ちょっと待て、その年齢であんな山中に連れてこられたのか!?」
「うん」
――これまでと一変、幼げな雰囲気を持たせた同意の言葉が返ってきた。
「年齢言っちゃったからもう取り繕わないけど……突然戦災孤児を預かる施設に私を滅ぼそうとしたアイツがやってきて、半ば無理矢理フリューレ王国に連れてこられた感じ」
「それは、まあ……ご愁傷様というか……魔族は、君の潜在能力を知って?」
「そうみたい。アイツはパパの知り合いだったらしくて、才覚があるって最初から知ってたみたい」
……年齢が低いからこそ、利用できると考えた面もありそうだ。
「というわけで、ちょっと辟易していた面もあるよ。扱いも悪かったし」
「……メル、ヘレナにもこのあたりの事情を話して穏当に接するようしてくれ」
「わかりました……事情を知れば、ヘレナも納得すると思いますよ」
それならいいけど……沈黙しているとメルは俺へ告げた。
「今回の旅に同行する……というのも、考える必要があるでしょうか?」
「う、うーん……」
「私は目的を果たすまでは旅を続けるよ」
と、フィリスが口を開いた。
「それに、安全な場所なんてどこにもないし……」
「……生き残る方法がこれしかなかったにしろ、安住の地は見つけ出したいな」
「魔王の調査の過程で、フィリスの今後についても考えるべきでしょうか」
「そこまでしてもらわなくても……」
「いや、君が魔族の領域に戻れなくなったのは俺の責任でもある。なら、色々と手を貸すさ」
と、俺はフィリスに明言した。
「十年前の戦争時、人間側に手を貸した魔族という存在もいるにはいた……そういった存在と顔を合わせて話を通すのも手だな」
「確かに、同じ魔族であるなら……」
俺とメルが話し合う間も、フィリスは「別にいいのに」みたいな顔をし続ける。そんな態度だが、現状は俺にも原因がある。なら、面倒を見ないと。
新たな目標が出きたな……そんな風に思いつつ、俺はメルへ言った。
「フィリスのこともおいおい考えていくとして……明日、レメイトへ戻る。今日と同様に魔法を使って戻るとして、メルはヘレナの検証手伝いを」
「はい……屋敷へフィリスも連れて行きましょうか」
「それが無難かな。マヌエラならあっさり受け入れてくれるだろ」
「わかりました。ヘレナともこの間に交流するということで」
うん、フィリスについてはひとまず方針が決まったかな……。
しかし、十三歳か。山中にいた魔族が才覚により引っ張ってきたはいいが……十年前の戦争ならこんなことはしなかっただろう。
魔王には戦争を起こすだけの動機があった。けれど、子供を最前線に送るような真似はしなかった。魔王もさすがにそれはまずいと判断したのだろうし、けれど今は作戦を進める魔族の自由にやらせて……いや、好き勝手させている。
「……なあ、フィリス」
俺は一つ彼女へ疑問を向ける。
「君のような年齢の魔族が、他の拠点いたりするのか?」
「私が知りうる限りはいない……悪い意味で私は例外だったのかも」
「それだけ君の能力を欲していたと」
「準備をするのに強い力を持つ同胞が必要だった、という話だと思う」
強い力、か……俺は彼女の実力を片鱗くらいしか確認していないけど――
「勇者トキヤと一緒に戦えるかどうかわからないけど、頑張るよ」
「その言及はありがたいけど、事情を知ってしまうとあんまり前には出させたくないな。ま、無理矢理働かせるようなことはしない……それだけは約束するよ」
「わかった」
コクリと頷くフィリス。思わぬ形で仲間になり、今回の旅が終わった後の面倒も見る必要が出てきそうではあったが……まあそれでもよいか、と思ったりする。
ただ、もし危険な戦いがあるとしたら……それに備え、フィリスの能力については確認しておかないといけないか。俺は頭の中でどうしようか方針をまとめつつ、食事を続けたのだった――




