最悪の想定
城を出た俺とメルは手配した宿でフィリスと合流。時間的にも移動は辛かったので、今日のところはここで休むことに。
夕食のために宿を出て酒場に赴き、俺はひとまずメルにヘレナの状況について尋ねることに。
「メル、ヘレナの方はどうだ?」
「私がトキヤと合流する前の時点ではまだまだ検証途中でした。さすがに一日では作業は終わらないようで」
「そうか……ま、レメイトに戻って後は待つことにしよう」
「わかりました。フィリスのことについてはトキヤが報告した時点で伝えていますが、勧誘したことは当然話せていませんので、問題があるとするならここですね」
そうは言うが、彼女はあまり心配していない様子……他ならぬ俺の方針ならヘレナも従うという感じだし、衝突することはまあないだろうと考えているらしい。
「後は経過観察ですね……フリューレ王国の動きは素早かったので、大きな戦いになることなく解決してほしいですが」
「こればかりはフリューレ王国の力次第、かな。情報が漏れる危険性なども、ノヴァ大臣の言動からすれば低いみたいだし……魔族を倒しきれるのかが最大の懸念事項か」
そう言いつつ、俺は山中での戦いを振り返る。
「……メル、これは俺の感想なんだが」
「はい」
「戦った魔族……いや、俺が再召喚されて以降を含めても、交戦した魔族の技量は、正直高位魔族と比べれば低いように思える」
そう感想を述べた瞬間、興味深そうにフィリスがこちらを見た。俺はそれに気づきつつも言及はせず、
「かといって、下っ端連中が謀略を繰り広げているというわけでもないとは思うんだが」
「……仮に魔王の命令だとしても、実働部隊の実力を踏まえるともっと良い配下がいるだろう、という話ですか?」
「戦争によって多くの魔族が滅んだけど、魔王の側近なんかは生きているわけで、フリューレ王国襲撃に対しより良い配下を用意できなかったのかな、という疑問がある」
そこで俺はフィリスへ目を移す。
「そっちはどう思う?」
「……確かに、あなたの言うとおり陛下の側近なんかは動いていない……これはあくまで私の見解なのだけれど」
「ああ」
「……元々陛下とはあまり縁がなくて、今回初めて作戦に起用するようなケースが多かったように思える」
「それは、実力とか関係なく?」
「たぶん……作戦に成功すれば、今以上の地位が得られる……みたいな感じで指示に従っている同胞もいたかな」
「報酬で釣っているパターンか……」
俺が呟くと、フィリスの話を聞いていたメルは見解を述べた。
「作戦を任せる魔族の選定は、おそらく意図的なのでしょう。あえて事情を知らない魔族に指示を出し、意のままに動かしている……問題は誰がこの指示を出しているか、ですが」
「……魔王ではないな」
俺はそう断言する。
「俺はフィリスの話を聞いて魔王は復活していないと確信した。理由は話せないが、だからこそ魔王の威光を使って配下が魔族を動かしているんだと思う」
「……理由が気になりますが、それは全てが終わった後に語られるものですか?」
「たぶんな」
「たぶん……まあいいでしょう。トキヤがそう言うのであれば、そういうことなのでしょう……ただ、そうであるとしたら一体誰がそんなことを……そして、作戦に参加している魔族は騙されているということになるのですが」
「俺は魔王が復活していないと確信しているが、まだまだわからないことが多い。よって、もっと詳しい情報を得るために動きたい……幸い、天王会議が開かれる。そこで情報を集める、というのが当面の目標かな」
「天王達から話を聞けば、何かわかると?」
メルの問いに俺は頷く。
「ああ、たぶん情報を持っていると思う……それが断定できるだけの根拠がないため、公にしていないみたいな感じだと思っているんだけど……」
「それが真実かどうかは、天王にお尋ねするしかないですね……わかりました、トキヤの方針に従いましょう。そしてトキヤの見解が正しいとするなら、魔王と戦うようなことにはならなそうですね」
「そうだな……と、言いたいところだが最悪のケースは想定しておく。魔王……あるいは魔王に匹敵する力を持つ存在との戦い。それを考慮し準備はしておく」
「陛下に匹敵……」
フィリスが呟く。そんな魔族がいるとは信じられない面持ちだ。
「陛下は絶対的な力を持っていた。それに比肩しうる存在というのは……」
「あくまで最悪を想定しての話だよ。現実にそういう存在がいるかどうかは……まあ、可能性は限りなく低いだろうな」
俺はそう言及しつつ、話をまとめる。
「今後はフリューレ王国内で待機し、騒動について見守る。俺達は最悪の事態を想定し、色々と準備をしつつ天王会議で情報を得るため動く……もちろん、会議前にも情報収集は継続する。これでいいか?」
問いにメルは頷き、少し遅れてフィリスも頷き同意した。
「……では、話を変えますが」
するとここでメルが口を開いた。




