騒動終結へ
そして、結果から言うと――メルが語ったとおり、懸念する必要は一切なかった。
まず勇者トキヤが現れた、という時点で城の中へあっさりと入ることができた。そこから十年前、共に戦った騎士と顔を合わせた。
今は騎士団長をやっている彼に対し、メルは魔族の一件を話すと彼は血相を変え詳細を確認。すぐさま情報を上層部へ渡すべく動き出した。
で、俺とメルは少しの間城内の客室で待機することに……城に入り一時間ほど経過した時点で、俺はフィリスのことが気になった。
「宿の中にいれば問題ないとは思うけど……」
「大丈夫だと思います。それに連絡手段も用意していますし」
楽観的に語るメルは、俺に対し微笑を浮かべた。
「昔からトキヤは心配性ですよね」
「……色々な可能性を考えておいた方がいいだろ?」
「ええ、それは否定しません……さて、情報を渡して後はフリューレ王国次第ですが、どうするのかまでは私もわかりません」
「確度の高い情報だから動くとは思うけどな……場合によっては手を貸してくれとか言われる可能性あるけど」
「かもしれませんね。その場合は協力しますか?」
「もちろんだ」
そう答えた直後、ノックの音が舞い込んだ。こちらが返事をすると扉が開き、
「トキヤ殿、久しぶりだな」
そう告げ現れたのは、知り合い……この国で大臣を務める男性だった。執政を担うことを示す純白のローブに加え、白髪混じりの黒髪にやや面長の御仁。
十年前も要職に就いていたのだが、それは今も変わっていないらしい。名前は――
「お久しぶりです、ノヴァ大臣」
「敬語でなくともいいさ。トキヤ殿とは対等でいたい……と、挨拶はここまでにしておこう。どうやらフリューレ王国は深刻な状況に立たされているな」
そう告げるノヴァ大臣に対し、俺は一つ尋ねる。
「持ってきた情報については――」
「陛下が城内にいたことが幸いし、すぐに討伐部隊を編成せよとの指令が下った。現在は人員をどうするかなど確認作業を行っているところだ」
そう述べた後、ノヴァ大臣は目を細めた。
「とはいえ、だ。今回の情報と共にエルフや神族が魔族に手を貸しているという事実……それを踏まえれば、この城内にもそうした人物がいないとも限らない」
「……大丈夫なのか?」
「ただ、そこは心配しないでほしい……というより、こうした状況に備えがあった、という方が良いか」
「備えか……」
「本当はそんなことをする必要など、ない方がいいのだがね」
俺とメルは頷く……味方を疑わなければならない、というのは非常に悲しい話だ。
けれど十年前の戦争では、そうしたこともあった……だからこそ、フリューレ王国上層部は色々備えていた、という話だろう。
「魔族の情報などもかなり細かいため、後はフリューレ王国で対処できるはずだ。もっとも、トキヤ殿に話を持っていく可能性はゼロではないが……」
「俺達はレメイトで待機する。そこに仲間も残しているからな……ひとまず、それで問題ないか?」
「ああ、助かるよ」
安堵したようにノヴァ大臣は言う。俺に協力を取り付けよと指示を受けていたのかもしれない。
「ちなみにだけど」
と、俺は大臣へ一つ問う。
「今回の件について、王はどういう反応だったんだ?」
「驚いた様子を見せていた。それと同時に今後のことも考えなければならないと」
「……これからが大変そうだな」
「まったくだ。現在でも国内はガタガタだからな……しかし、踏ん張らなければならん。ここは私たちの手腕が問われるところだな」
そう述べると、ノヴァ大臣は俺に礼を示した。
「国を代表し、今回の件について礼を。勇者トキヤ、ありがとう」
「俺としては当然のことをしただけだから……あ、そうだ。一つぶしつけな質問で申し訳ないんだけど……」
「どうした?」
「王と直接話をすることはできるのか?」
問いにノヴァ大臣は申し訳なさそうな顔をした。
「残念だが、謁見は難しい」
「そうか……」
「何か陛下と話したいことが?」
「まあ、な……とはいえ無理強いするつもりはないよ」
それに、謁見では話せない内容だし……胸中で呟いた時、
「ただ、対話ができる機会はあるだろう」
「……それは?」
「トキヤ殿も知っているであろう、天王会議だ。まだ公にはしていないが、日程が決まった」
へえ、それは――俺は一つ頷き、
「なら、俺も会議の日程に合わせて動くとするよ」
「どういう目的だ?」
「俺は現在魔王に関する調査をしている。復活したらしいが、動きがおかしい……そう考えている。だから現在の魔王の状態がどうなっているかなど、調べるのが役目だと思っている」
「なるほど……今回のことで礼とはいかないが、フリューレ王国も何かしら調べることにする。その情報提供をしよう」
「ありがとう、助かるよ」
――ひとまず、フリューレ王国内の騒動はこれで片付くだろうか。
内心でそう考え、それを祈りつつ……俺はノヴァ大臣といくらか話をした後、城を出たのだった。




