首都へ
翌朝、メルは夜通し資料を確認して情報をとりまとめ、山を下りる準備を整えた。
「ヘレナには昨日の内に状況によって首都へ向かって報告すると伝えてありますので、このまま向かいましょう」
「魔法による移動だな。街道を使わず、無人の野を駆けることになるか」
「はい……それで、フィリスさんについては――」
「呼びつけでいいよ」
メルの言葉にそう応じた後フィリスは、
「私のことは大丈夫。どうにかついていくよ」
「問題ないのですか?」
「魔法の才覚があるみたいだからな」
そう俺はメルへ解説する。
「魔族と交戦した際、俺の移動速度についていけたし」
「そうですか……ではひとまず私たちに追随してください。もし速度的にキツいようなら、私が補助します」
――そうして俺達は移動を始めた。レメイトから首都まではそう離れているわけではない……といっても、徒歩なら数日は掛かるのだが、魔法を使えば時間は大幅に短縮される。
俺とメル、そしてフィリスは森や人の目が届かないような荒れ地などを駆け、首都へと向かう。そうした道中で、
「メル、首都で宿を手配してフィリスをそこに滞在させよう。城へは俺とメルの二人だけで」
「はい」
頷く彼女。そこで今度はフィリスが一つ質問をした。
「宿の中に引きこもっていれば、魔族であることがバレることはない?」
「そもそも現時点で君の隠蔽は成功しているよ」
――移動前の時点でフィリスの気配が変わっていた。ヘレナのように気配を消し、パッと見ただけでは普通の人と見分けがつかない。
「君が暴れ出さなければ大丈夫……メルが君がいる宿の一室に魔法を使うという手もあるんだけど、逆にそんな処置をすると目立つかもしれない」
「宿から出なければ問題ないと思います。ただ万が一ということもありますので、即座に連絡を取れるようにしておきましょうか」
移動しながら首都について以降の段取りを決めていく。その間にもどんどん進み続け……太陽が頂点に昼に差し掛かる前に、首都であるダルディアにたどり着いた。
その外観は、レメイトの城壁すら子供だましのように思えるほどの分厚い城壁を持つ都市……俺が初めて訪れた時は、その圧倒さに立ち尽くしたものだ。
「ここが……」
フィリスもまた同様に一度立ち止まった……が、すぐに表情を戻し、
「ごめん、ひとまず中に入らないと」
「そうだな。城門では一応検問とかしていると思うけど……」
人の往来が非常に多い。とはいえいちいち人を止めて何かをしているというわけではない。
「簡易的な魔力検査とかをしているんだっけ?」
「していますが、魔族であるのを見破ったりする物ではありませんよ。精々魔法の道具を持っているな、というのを判別するくらいです。フィリスのことが露見するようなレベルではありません」
言いながら俺達は城門へと向かう。
「呼び止められる可能性もありますので、トキヤはギルド証を持っていてください。それを提示すればすんなり通れるかと」
「わかった」
――彼女の言葉通り、俺達は冒険者で武器を所持しているため呼び止められた。けれど俺がギルド証を提示した瞬間、
「……あなたは……そうですか、ようこそダルディアへ」
すぐに俺だとわかりあっさり通してくれた。
「よし、それじゃあ宿を手配して城へ向かおう」
こちらの言葉にメル達は頷き……その時俺は城を見る。
堅牢な城壁に合わせるような、重厚で壮大な白亜の城だった。十年前の戦争でこの首都も戦渦に巻き込まれたが、魔族があの城の中に踏み込んだことはなかった。ギリギリで踏みとどまった、と言うべきか。
俺は十年前の情景を思い出しつつ、その時と何も変わっていないなと思う……とはいえ、城の中身は大きく変わっているだろう。すんなり話を聞いてくれるかどうかもわからないが、とにかく行くしかない。
そして俺は大通りに面する宿を手配し、そこでフィリスは待機。俺とメルは、早足で城へと向かう。
「メル、まずは誰に話を通そうか?」
「道中で考えていました。まずは知り合いに声を掛けて、上層部へ繋がる人物を紹介してもらうか、そのまま話を通してもらうかしましょう」
「ここが最大の障害だが……運も絡むかな」
「トキヤは色々と心配しているようですが、私はそう懸念していません」
「どうして?」
聞き返すとメルは笑みを浮かべた。
「トキヤ、あなたの戦歴を考えれば」
「……俺は十年前、この国に貢献をしたし、今も国のために戦っているから、話を聞いてもらえると」
「はい」
本当かなあ……どれだけ貢献していても俺は勇者だが身分的には平民である。メルは問題ないと考えているようだけれど――
「ここは実際に城に行けばわかると思いますよ」
「……そうか。なら、急ごう」
俺が発言するとメルは頷きつつ城へ。さて、どうなるか……不安を抱えつつ、俺は首都の中を進み続けた。




