渡りに船
戦いが終わり、後に残る問題は今後彼女はどうすべきなのか、という点。
「……このまま帰れば、間違いなく私は処刑されて終わりだろうね」
と、フィリスは言う。
「今回の作戦について否定的な立場の同胞でも、さすがによくやったと賞賛するようなことはないと思うよ」
「味方になる魔族はいないのか?」
「いないこともないけど……」
そう言った後、フィリスは俺の目を見た。
「でも、後悔はしていない……疑問は多数あった。正直、彼らがやろうとしていること自体に、否定的だったし、止めようとするなら戦うことになるだろうと予想もしていた」
「同胞と戦ってでも止めなければ、いけないと思ったか」
「うん」
「そうか……なら、そうだな。ここから君はどうしたい?」
問い掛けにフィリスは眉をひそめる。
「どう、というのは?」
「君は魔族の攻撃に疑問を抱き、そこに俺に命を脅かされる、という点もあって協力することになった。後悔していないというのは真実だろうけど、後に残ったのはもし魔族の領域に戻れば処刑……戻れないとなったら、どこか安全な場所を探すしかない」
「そうだね」
そう返事をしたが、フィリスの顔にはどうすればいいのかわからない、という雰囲気が見て取れた。無理もない。右も左もわからない場所に残されたわけだから。
……俺としても、ここで「後は好きにしろ」と放り出すつもりはなかった。契約という形になったにしろ、魔族討伐に手を貸してもらえたのは事実だ。なら、
「なら、俺の仲間にならないか?」
「……え?」
「契約によって縁ができたわけだし、そのまま放り出すというのも寝覚めが悪い……それに、俺としては打算的な意味合いもある。魔族の情勢などをある程度知っている存在が仲間にいれば、色々と動きやすくなると思って」
そう説明したが、フィリスとしては困惑している様子。それを見て俺はさらに説明の加える。
「俺は現在、魔王に関する調査をしている。君が疑念を抱いているように、魔王と二度戦った俺自身も、今回魔王の指示でやっているという魔族側の行為に疑問を持っている。本当に魔王は復活したのか? あるいはどういう理屈で行動しているのか? その疑問を解消することが、再召喚された俺の役目だと思っている」
「……あなたに協力することが、陛下の真実につながると?」
「少なくとも、君が単独で調べるより、一緒に動いた方が真実が判明する可能性が上がると思わないか?」
問いにフィリスは頷く……その点については納得したみたいだ。
「で、どうだ?」
「……あなたの仲間は納得するの?」
「俺がリーダーである以上は、納得させるさ。あ、ただ魔族であることを公にするつもりはないし、可能な限り魔法か何かで種族は偽装するよ。もし露見したとしても、俺と一緒にいれば少なくとも危ない目に遭うことはない……と、思う」
「私にとっては、渡りに船という話かな」
そう言いつつ、フィリスは小さく息をついた。
「うん、私はそれで構わない……というより、他に選択肢はないかな。あなたにそう言ってもらえたこと自体、非常にありがたいことだと思う――」
その後、メルが砦にやってきて改めて事情を説明。その時点で時刻は夕刻を迎えており、今日は資料の検証などもあって野営することになった。
「ヘレナについては、トキヤの方針であれば否定しないでしょう。種族の違いにより衝突する可能性は否定しませんが」
そうメルは言いつつ、俺とフィリスの顔を交互に見る。
俺達は砦の外で火を囲み話をしていた。既に食事は終えており、メルはこれから夜通し資料などを確認をするらしい。
「私もトキヤの案に賛成です。彼女に敵意はない……トキヤに手を貸して魔族を討伐した点については、刃を突きつけられ衝動的な部分も大きかったでしょうけれど」
そう言いつつ、メルはフィリスを見据え、
「あなたはフリューレ王国を救うことになった……種族がたとえ魔族であってもそこは変わりません。あなたの今後を含め、サポートします」
「……ありがとうございます」
「お礼はいりませんよ……トキヤ、食事の前に資料室を軽く調べましたが、魔王に関する直接的な情報、というのはさすがに見当たりませんでした。精査すれば何か出てくるかもしれませんが……」
「その点については期待していないよ。さすがに現場レベルで魔王の現状について情報を共有しているとは、俺も思っていない」
俺はそう言いつつ、自身の見解を述べた。
「ここにいた、フィリスを除く魔族は魔王が復活したと心の底から信じ、指示に疑念を抱いていない……というより、フリューレ王国へ攻撃を仕掛ける魔族達は、疑念を抱かず指示に従う者達ばかりなんだと思う。現在、魔王が本当に復活したのか……それを含め、真実は一部の魔族のみで共有して、誤魔化しているのかもしれないな」
「……神族が裏切ったツォンデルの一件と関係あるでしょうか?」
「関係はあると思うが……がここについては検証していく必要があるだろう」
そう言うと、メルは一つ頷いた後、俺に今後の方針について改めて説明を始めた。




