魔族の暴走
――そして、砦に戻ってきた残る魔族を、俺は一刀のもとに切り伏せた。
文章で言うとたった一行で終わってしまったのは理由があって、何の疑いも警戒もなく戻ってきた魔族を、奇襲によって斬って終わってしまったためだ。倒した三体とも、フィリスの才覚には及ばないにしても、ちゃんとした実力を有する存在であったのは間違いない。だが、虚を衝くことで……その実力を発揮させなかったため、こうした結末を迎えることができたわけだ。
「……さて、調べたいところだが」
俺はそう言いつつ、フィリスの案内を受けて砦奥に存在する作戦室を訪れた。
地図などが無造作に開きっぱなしになっている部屋だった。資料が乱雑に床へと置かれ、軽く見回しただけでも人手が必要そうに思える。
「うーん……さすがにメルを呼ぶか」
「あなたの仲間?」
「そんなところ……あ、でもまだ安全は確保できていないか?」
「この拠点にいた魔族は私以外滅んだよ。魔物も生み出した個体は全て私の指揮下に入ったから、現時点で悪さはしていない」
「魔物を消すことはできるか?」
「自壊させるよう命令させないといけないけど、一斉にそうした命令は付与できないから時間は掛かるよ」
「わかった。とりあえず魔物を消してもらって――いや、ちょっと待った」
俺は部屋の片隅にある台座を見て取った。そこに、占いで使うような水晶球らしき球体が置かれている。
「あれは……」
「通信用の魔法道具だね」
フィリスが告げた。
「他の場所にあれを用いて連絡している光景を見たことがある」
「……使い方はわかるか?」
「うん、操作方法は見てたから」
「なら、そうだな……フリューレ王国に攻撃を仕掛けようとしていただろ? それを止めることはできるか?」
「できると思うけど……問題は私が通信して怪しまれないか。あと、単純に作戦中止と言っても理由を聞かれるよ。どうしよう?」
問い返すフィリスに、俺は腕を組み考える。
「うーん、そうだな……あ、こういうのはどうだ? レメイトの町へ攻撃を仕掛ける算段だが、勇者トキヤが入り込んだという情報が入った。現時点で直接交戦するのは避けたいため、ひとまず町から出て行くのを待つことにする、と」
「それなら、作戦を遅らせることはできるかも……私が連絡する理由はどうしよう?」
「他の魔族達は作戦決行するタイミングを見計らい、勇者トキヤを観察するため動いている……という感じでどうだ?」
「わかった。ならそれで話をしてみる」
「よし、その間に俺は仲間と連絡を取ることにするよ――」
というわけで俺は、廊下に出て魔法を使ってメルと連絡を取ることに。ちなみにこういった通信魔法は、ある程度相手のいる場所なんかをわかっていないと難しいため、仲間同士で話をすることはできるが、電話みたいに不特定多数の人と話はできない。
で、俺が現状について話をすると、
『……せめて、私やヘレナに状況を伝えた方が良かったのでは?』
「そこは悪かったよ。でも、魔法で連絡を取って二人が来るのを待っている余裕はなかったと思うし、なんというか勢いでいけそうな気がしたし……」
『……まあ、トキヤの判断なので私はとやかく言いませんけどね。とりあえず、現状危険はないんですね?』
「ああ」
『わかりました。私が今から向かいます』
「ヘレナはどうする?」
『検証自体は夜まで続くので、今回は不参加ということで』
「わかった……それじゃあ待っているぞ」
『はい』
通信魔法を終える。そこで部屋に戻ると、フィリスは作業を終えたところだった。
「勇者トキヤが現れた、ということで待ってくれるみたい」
「それは何よりだ……どこまで時間稼ぎできるかわからないけど、国へ報告し対処してもらえるくらいの余裕はあるかな」
そこまで言った時、俺はフィリスを見据える。
「……ここまでやった上であえて聞くんだが、後悔はないのか? 俺は今から、魔族討伐を行うためにフリューレ王国へ連絡するわけだが」
「……私自身、今回の一件については否定的な見解だし、再び戦争を仕掛けようとしている魔族もわかっているはず……失敗すれば、破滅すると」
そこまで言うと、フィリスは一度視線を逸らし、
「先ほど語っていなかったけど、同胞達の中には攻撃に反対する一派もいる……特に陛下の現状がおぼろげな以上、今一度熟考すべきだと」
「君はそういう魔族に近しいのか」
「そうだね……なんというか、ここにいた同胞達を含め、作戦に参加しているのは暴走しているように思える」
「……そうか」
俺はフィリスから内心複雑な感情を抱いているのだと察した。まあ無理もない……まさか勇者に手を貸すなんて、想像すらしていなかったことだろう。
「君は暴走する魔族を止めるために動いた……って、ことでいいのか?」
「そういうことになるかな……」
「それで、君はこれからどうする?」
問い掛けにフィリスは何も答えない……というより、答えられないという方が正解だった。




