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三度目の異世界召喚

 現在、色々理由があって無職の俺は、今日も職業安定所に通い何の成果も得られず帰ることになった。


「うー……」


 呻き声を上げながらゾンビのように歩く。黒いスーツ姿でそんな歩き方をすれば異様に見えるかもしれないが、人目を気にする余裕もなかった。

 現在は失業保険をもらいながら生活をしているが、少ない貯金を取り崩し始めており、すぐにでも仕事を見つけないとまずい状況である。


 とはいえ、現在四十手前かつ特別な資格もないとくれば……別に選り好みしているわけじゃないのだが、雰囲気とかそういうので採用してもらえない。けれど生きるためにはあがき続けるしかない。


「……まあ、今までの人生を振り返れば大した話じゃないか」


 そんなことを呟く……それについて面接で語れないのは残念だが。

 ともあれ、当面は職安に通う日々を過ごすことになるだろう……そこで気持ちを切り替え、家に帰る前に何か食べて帰ろうと思った。


「問題は所持金か……」


 財布を取り出す。中身を確認するとお札はなかった。コンビニにでも立ち寄れば残り少ない貯金を下ろすこともできるのだが、先が見えない状況である以上は少しでも節約すべきだろう。

 よって、食べられる物は……今度はスマホを取り出して店を確認。立ち止まり、いくらかスマホを操作していた時、


「……ん?」


 足下が、なんか光っている……夕方前ではあるけど、アスファルトの道路が光を反射しているにしてはずいぶんと明るい。

 というか、俺が立っている地面が真っ白くなっている……スポットライトが当たっているはずもなく、一体何事かと驚愕する……というのが、普通の人の反応だろう。


 でも俺は違っていた。右手にスマホ、左手に財布を持った状態で――俺は叫ぶ。


「おい、まさか……これで三度目だぞ!?」


 その言葉を、周囲の誰かが聞いていたら眉をひそめていたことだろう。だが人はいても俺のことを見ている人間は皆無であり、そうこうしている内に光が地面からせり上がり、俺の体を飲み込んだのだった。






 ――俺、白井怜哉しらいときやは過去に異世界へ召喚され、世界を二度救った勇者である。


 そんなことを語っても「何言ってんだコイツ」と白い目で見られること間違いないのだが……残念ながら事実であり、しかも本日三度目の異世界召喚を受けてしまったらしい。

 白い光に飲み込まれながら、色々と考える……まるで走馬灯のようでありつつ、俺は光の中で小さくため息をつきながら、過去召喚されたことを思い出す。


 一度目の召喚は十六歳の時。高校を入学してようやく慣れ始めた初夏の時期。登校していた時に俺は光に飲み込まれた。

 呆然となり白い光が消えた先にあったのは、豪華絢爛な広間。王様がいる、玉座の間と呼ばれていたそこで、俺を召喚した魔法使いは告げた。


「勇者を、どうか……世界を災厄へと誘う魔王を討つべく、我らに力をお貸しください」


 ポカーンとなっている学生服姿の俺は、完全に現実感をなくしつつ……玉座の間にいる人全員が俺にすがるような目を向けていたのが印象的だったのを憶えている。


 そんな言葉に対し俺は内心「いや、無理無理」と冷静にツッコミを入れたのだが……どうやら俺はこの世界で勇者となれるだけの資質を持っているらしかった。

 元の世界では平々凡々の高校生だった俺だが、この世界にとって類い希なる力を所持しているとのこと。で、召喚された直後に宝物庫に案内されて「好きな武器をどうぞ」と言われ、制服姿で武器探しを始める羽目に。


 言われるがまま武器を手にして勇者として活動を始め……俺は二年の歳月を経て、魔王を倒した。倒してしまった、という表現が正確だろうか。その冒険譚はたぶん、ライトノベル十冊分くらいはあるだろう。

 そして最終的に俺は元の世界へ戻った。世界を救った勇者として異世界に残る選択肢もあるにはあったが、元の世界で自分がどうなっているのか気になったし、まあ他にも色々理由があって、元の世界へと帰った。ちなみに戻った際は十六歳の高校生として戻ることができた。


 ……けれど話はそれで終わらなかった。二度目の召喚は二十六歳の時。つまり十年後に再び召喚された。


「お久しぶりです、勇者殿……そして大変申し訳ありません」


 そんな口上から俺は魔王が復活してしまったのかと察し、言わばゲームの続編みたいなもんかと呆然としながら思った。

 で、また同じ剣を握って再び魔王と戦う羽目に……やっぱり本にして十冊分くらいで、二年くらいかかって倒すことに成功。最終的に俺は再び元の世界へ同じように戻った。


 だが、まだ物語は終わっていなかったらしい――三度目の異世界召喚。真っ白い光で何も見えなくなった中、俺は勘弁してくれと心の声を上げることとなった。


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