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ようこそ、"そちら側"へ ~逃れられない怪異の招待状~  作者: silver fox
第13章:狐狗狸(コックリ)さんが教えてくれた、お前を陥れた裏切り者の名前

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第6話:呪いの侵蝕――孤立と精神の崩壊

 儀式の翌日、三人の日常は急激に崩壊し始めた。


 最初に異変が起きたのは、指を乱暴に離して逃げ去った詩織だった。悠人が茜のアパートから帰宅した後、詩織に連絡を入れたところ、電話に出たのは彼女の母親だった。母親によれば、詩織は高熱を出し、ベッドから起き上がれない状態が続いているという。さらに深刻なのは、彼女が精神的に不安定になり、終始怯え、誰かが自分を見ていると怯える異常な言動を繰り返していることだった。彼女は、儀式の最中に「途中で手を離すと呪われる」という絶対的なルールを破ったこと、そして悪意に満ちたメッセージを直接浴びたことで、集団パニックの最初の犠牲者として隔離された状態となった。彼女の体調不良は、自己暗示や憑依されたという恐怖からくる精神的な引きずり(祈祷性精神病や感応精神病の兆候) であり、既に正常な状態に戻ることは難しくなっていた。


 一方、悠人と茜もまた、精神的な影響から逃れられずにいた。


 悠人は、ポケットの中に硬貨がある限り、その重さ、冷たさ、存在感を常に意識し続けた。夜になっても、硬貨から伝わってきた「シネ」の激しい震えと、紙を削る音が耳から離れず、悪夢にうなされ、不眠が続いた。彼は仕事中も集中力を欠き、常に誰かに見られているような視線を感じるようになった。これは、コックリさんを行った後の「実話」として報告される不調や悪夢の典型的症状であり、彼の神経衰弱はピークに達しつつあった。


 茜も同様だった。彼女はアパートの一室に引きこもり、カーテンを閉め切って過ごしていた。彼女は悠人に対し、「部屋の隅から、キツネのような目が私たちを見張っている気がする」と、恐怖を訴えた。彼女が信じ切った狐狗狸(きつね、いぬ、たぬき)の霊が低級霊として現実に作用しているという心霊現象説は、彼女の精神の中で強固な現実となっていた。


 儀式によって、三人は社会から孤立し、それぞれが自身の恐怖と対峙する状況へと追い込まれた。潜在意識の暴走が生み出した現象は、個人の精神世界を完全に侵食し始めていたのだ。


 ***


 儀式から二日目。悠人は、自分と茜の精神状態が極限まで追い詰められていることを感じながらも、詩織が逃げたことで、呪いの矛先が残された二人に集中しているのではないかという新たな恐怖を抱き始めていた。


 悠人が茜に連絡を取ると、茜の声はかすれており、明らかに眠れていない様子だった。


「ねえ、悠人。正直に言ってよ」


 茜は突然、それまでの会話とは全く異なる核心を突く質問を投げかけた。


「あれ、誰かが動かしてたでしょ? あなたじゃないの?」


 悠人は愕然とした。彼は、硬貨が勝手に動いたのは、自分や茜の潜在意識がもたらした不覚筋動の結果だと信じ込もうとしていた。だが、茜の口から出たのは、他意識介入説、すなわち「友達の悪ふざけ」、または「自身に都合の良い答えに指を移動させることで、参加者全員がその答えに支配される」という悪意ある操作の可能性を問う言葉だった。


 悠人自身も、詩織の職場のライバルの名前「田中理沙」が指し示されたとき、そして何より「シネ」の文字が高速で往復したとき、誰かの意図的な操作(他意識介入)か、あるいは悪霊の憑依しかありえないと疑念を抱いていた。その疑念が、今、茜によって言葉として突きつけられたのだ。


「馬鹿言うな。俺は動かしてない。お前こそ、詩織を驚かせるために、わざと『シネ』なんてやったんじゃないのか?」


 悠人は反射的に、自身の恐怖と疑念を茜へとぶつけた。悠人の現状への不満やストレス、そして茜の享楽的な好奇心という、彼ら自身の負の感情が、互いの不信感となって爆発した。


 コックリさんという遊びは、霊魂の存在を匂わせることで心理的な不安を煽り、集団ヒステリーの温床となる危険性がある。このゲームの真の恐怖は、霊の存在そのものではなく、人間同士の信頼関係を破壊し、互いを呪いの元凶として見なさせるという点にあった。


「嘘つき……あんたの潜在意識が、私たちを呪ったんだ!」


 茜はそう叫んで電話を切った。


 悠人は、ポケットの中の硬貨の重さを強く感じた。彼らは、たった一晩の「遊び」で、友情を失い、精神を蝕まれ、そして互いに「呪いの実行者」として疑い合うという、救いのない孤立状態へと陥ってしまった。そして、彼らの運命を決定づける硬貨は、まだ三日以内に使われることなく、悠人のポケットの中で、静かに呪いの発動を待っていた。


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