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第六話 過去⑤ (合法詐欺師)



「内閣総理大臣 特別室私設秘書?」


錬の元を訪れた、久我真治と名乗る人物は、肩書だけ見ても、こんな辺鄙

な片田舎に足を運ぶ類の人間では無い。

実際、身に着けている服や腕時計の金額だけでも、新卒社会人の平均年収

を越える。

そんな相手に、萎縮しない訳が無い。

あっと言う間に久我が一方的に話すだけの関係になった。


「封印士?」

「そうです、何、品物を購入して処理をするだけの簡単なお仕事ですよ」

「はあ」

「勿論、処理した品物は、こちらが三割増しで買い取りますし、その他の

 品物は自由に売り買いなさって結構です」

「三割・・・生活出来るかな・・・・」

「大丈夫、税金関係は全て免除、生活の基本になる電気やガス、水道料も

 契約中は全て国が負担します」

「ぜ、全部ですか?」

「ええ、そうするだけの価値の有る仕事ですよ、封印士と言う職業は」

「そう・・・ですか」

「更に店も住居もこちらが用意します」


話を聞く限りは、異常な程の好待遇であり、無税など政治家や国家公務員

以上だ。

断る理由が見つからないと思い、承諾した。

最初は美味い話には落とし穴が有る、詐欺師の常套手段、そう思っていた

のに、話している間に全て忘れていた。


「ああ、それと封印士になる為の研修が三日程ります」

「まあ、それぐらいなら」

「では、こちらの契約書にサインをお願いします」

「は、はい、わかりました」


契約書は数十枚にも及ぶ分厚い物だったが、最初から丁寧に読み始めた練

の姿に、久我は徐々に不機嫌な様子を見せ始めた。

その無言の圧に、大した確認もせずに契約書にサインをしてしまった。

その事に一抹の不安を覚えたが、契約終了後、急に上機嫌になった久我の

姿に、何も言い出せずにいた。

それが後に自分を苦しめる事になるとも知らずにだ。


「では明日の朝、研修行く車を迎えを寄こしますから」

「はい、わかりました」


錬の元から帰る車の中で久我は、大きなため息をついた。


「ご苦労様です」

「何とか上手くいった、いやあ流石に疲れたよ」


一仕事終えたとばかりに、久我は後部座席のシートに体を埋ると、持って

いた契約書類を頑丈な容器に放り込んだ。


「それで、資質の方はいかがでした?」

「眉一つ動かさなかったよ、逸材だ」

「それは凄いですね、私はこの一瞬でも不快感で吐きそうでしたけど」

「普通はそうさ、私も護符を持って居なかったら耐えられたかどうか」


そう言うと久我は、背広の襟裏に貼られた護符を剥がし、丁寧に封筒に納

めた。


「この護符一枚で、俺の給料が吹き飛ぶからな」

「運転手で良かったですよ、私は」

「薄情な男だ」

「それで、明日は私が研修に連れて行けば?」

「いや、彼の事は秋月君に任せる、どうも同郷らしい」

「それは・・・・好都合?・・・・・ですな」

「何が言いたい」

「いえ、なにも・・・ただ事務所は静かになるかと」

「全く・・・・彼には強く生きて欲しいもんだ」


不穏な会話を乗せたまま、車は高速道路を東へ走っていた。


「大丈夫かな、でも爺ちゃんがやってた仕事だし、雇い主は国だし」


一方錬は部屋で一人、これからの事を考えていた。

久我の口車に上手く乗せられた気がしたが、それを否定する事は、祖父を

否定する気がしてそれ以上考える事を止めた。

それ以上に、明日の研修の方が気になった。


「多少苦痛かもって、なんだか大変そうだが、まあ、何とかなるか」


久我の言った苦痛がどれ程の物かは知らないが、大抵の事には耐えられる

だろうと思っていたし、そんな経験もしてきた。

それどころか、明日、用意する物の心配をしていた。

相手に不快感を与えない服装や、挨拶は?

持って行くのは筆記道具だけ?洗面道具や寝巻は?

食事を残したら怒られる?

おやつは、五百円まで?

子供の頃の学校行事など、全て不参加に近かった練は、奇妙な高揚感さえ

感じていた。


「はは、子供か、俺は」


だが、そんな感情も翌日に迎えに来た久我の事務所の人間の塩対応に消し

飛んでしまった。


「ネクタイが曲がってます!髭剃りも頭髪も不合格!爪も切って無い!」

「は、はい、すいません」

「朝食はキチンと取ったんでしょうね?」

「いえ、まだ・・・・・」

「しっかりして下い!」

「ごめんなさい・・・・・」


朝一で襲来して来た秋月女史の第一声は、錬への小言の嵐だった。




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