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第二十三話 異変



《ほれ、あの角徳利、呪物のなりかけじゃ》

(えっ!伊万里の蛸唐草じゃねえか、高いぞ、これ)

《どうせ国から金が出るのじゃろう、気にするな》

(そりゃそうなんだが・・・・)


江戸中期、古伊万里の蛸唐草角徳利ともなれば数十万円はする。

特に今セリに掛けられようとしている物は最上手である。

勿論、無傷ならば。


《まあ、底に大きな傷が有る、そこまで高額にはならないだろう》

(マジか!助かった)

《国の金じゃというのに・・・・・・貧乏性も甚だしい》

(うるさいよ)


結局6万円程で落札出来たのだが、それでも錬には不満だったらしい。


《当分治りそうにないのう・・・・・》


錬が育ってきた環境を考えれば当然なのだが、流石にこのままでは私生活に支障

をきたす可能性がある。

湖月が頭を抱える程にだが、それでも事有るごとに矯正した結果は徐々に現れ始

め、近頃は呪物では無いそれなりの品物を落札するようになった。

まあ、これは三つほど理由があった。

一つは店舗が新しく大きくなり、それなりに客が来るようになった事。


「流石に店の体裁が・・・・・・」


貧相な品揃えと商品数では店舗と釣り合わない。

そして二つ目が琴音の存在だ。

流石にすぐ同棲とはならなかったが、朝早くから夜遅くまで、更には休日全ての

時間を錬の世話に注ぎ込んだ。

完全な通い妻状態だ。

おまけに錬が交換会と呼ばれる競売場に出かける際は、必ず琴音が店番をした。


「留守の間に招かれざる客が来ては大変だから」


注意したくとも、この漠然とした理由では頭と口の回る琴音に異を唱えがたい。

特に彼女を良く知る者ほど、その困難さと費やす時間の膨大さに白旗を直ぐに掲

げただけでなく、被害の拡大を防ぐために周囲を説得する有様だ。

実際には、少しでも錬を支えたいという、とても利己的な理由からだ。

そして三つ目が銀鼠・湖月の存在である。


《あれは贋物だな、思念の残滓が全く無い》


湖月は呪物だけで無く、その品物が生み出されてから今までに染み重なりあった

人の想いや情念を感じ取れるらしい。

これは鑑定眼を手に入れたに等しく、経験の浅い錬にとってはいきなり目利きに

なった様な物だった。

現に金を持っている事が知れ渡ると、錬を食い物にしようと、多くの人間が贋物

や新物を売りつけ様と群がって来たが、そのすべてを弾き返した。


「どう、これ蔵からでたばかりの古九谷の皿だけど」

「いえ、私には過ぎた品ですので遠慮しておきます」


人を騙す為だけに作られた贋物を古い箱に入れて来たが瞬時に湖月が見抜いた。

その後、直ぐに別の男が声を掛けて来た。


「蕎麦猪口のコレクションを売ってくれと頼まれてさあ」

「これとこれなら一つ三万で買いますよ」


贋物だらけの中に仕込まれた囮用の本物二点だけを指摘すると、男は渋い顔をし

たまま引き下がった。

そんな事が何度も続けば、錬を見る周りの目も変わって来る。

時折変なガラクタを競り落とすが贋物には決して騙されない確かな鑑定能力をも

った若い目利きと評価され始めた。

そんな日が続いたある日、珍しく湖月が緊張した声で話しかけて来た。


《奴は何者だ!》

「奴?誰だ?」

《あの痩せた背の低い長髪の若い男だ》

「俺も今日初めて見る顔だ、確か買い出し人とか言ってたな」


一般の民家から古美術品を買い、それを競売で売る事で生計を立てる者を、この

業界では買い出し人と呼ぶが、情報が溢れている今の時代では殆んど見かける事

が無くなってしまった職種で、ハッキリ言って絶滅危惧種である。


(あの男がどうかしたのか?)

《呪詛を纏って、いや、憑りつかれかけていると言ったところか》

(何だって!)

《へたをすると既に影響を受けているかもしれん》

(呪霊クラスじゃないか、なぜそんな物が!)

《わからんが、まともな手段で手に入れたとは考え難いな》

(・・・・・盗品か)

《可能性は高い》


もし政府が管理している筈の物なら大問題である。


(まずは確認しなけりゃどうにもならないだろう)

《そうだな、何とかあの男と繋がりを作れ》

(やってみる)


交換会が終わり男が一人になった所で声を掛けたが、思いのほか簡単に後日には

品物を見せて貰える約束をとりつけた。

どうやら、名刺を出すふりをして財布の中身を見せたのが効いたようだ。


(あれは・・・・・・ヤバイな)

《近よれば鈍いお前にも感じ取れるか》


経験の浅い錬は意識を集中させないと、呪詛を見る事も感じる事も出来ない。

湖月に指摘されて初めて認識出来たのだ。


(ああ、気持ち悪くて仕方が無い)

《間接的でこれでは、本体は悪意の塊だな》

(・・・・・考えたく無いぞ)


だが問題は低級限定の錬に処理する資格が無いという事だ。

本当なら組織に報告しなければならないのだが・・・・・・・。


「遭遇する事など無いと言われて、対処方法をきいていないんだけど」

「そんな事を言われたの?」

「うん、全く相手にしてもらえなかった」

「あの屑職員、ただじゃおかないわ!」

ああああああああああああああああああああああああああああああああああああ

当然、直属の上司になる琴音に報告したのだが、まさか装備の使い方さえ説明し

ていないとは夢にも思っていなかったらしい。

本来なら遭遇場所に固定させ、その効力が切れる三日の間に上級封印士に報告対

処して貰うらしい。


「そもそも上級封印士に会った事が無いし何処に居るかも知らない」

「それも聞いてないの!」

「うん」

「上級って、全員が神職よ」


才能を見出され特殊な訓練を受けた数人が上級封印士となり、全国の神社に配置

されているらしい。

つまり数の少ない上級封印士を補助する為に錬達が居るのだ。


「今回は俺と湖月で処理をしたい」

「・・・・・・・・理由を聞いてもいい?」

「ええと、笑わないでくれるかな」

「勿論」

「恥ずかしいんだが湖月が言うには上級職を超える潜在能力が俺にはあるらしい」

「本当?凄いじゃない!」


当然ながら琴音が錬を否定する事など有り得ない。

上級封印士を凌駕する力を得れば、組織内でも上位に近い力を得る事になる。

平社員がいきなり部長になる様なものだ。


「でも、危険じゃないの?」


その言葉がこれからの懸念材料でも有る。


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