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第十四話 辿る想い 秋月 琴音



「知らなきゃ、彼の全て・・・・・・」


その日の内に琴音は自らの想いを成す為の行動を起こした。

父親の伝手で探偵事務所を紹介して貰い、錬の情報の収集及び定期的な監視報告を

依頼した。

勿論かなり高額な費用が掛かるのだが、自分で負担しようとした琴音に両親が待っ

たをかけた。


「もし怪しいアルバイトに誘われでもしたら、どうするんだ!」

と、父親の抗議。


「娘の初恋を応援するのは私だけの権利よ!」


と、母親の主張。

この異常な程に過保護な暴走夫婦のせいで、琴音は一切の費用を負担する事無く、

錬の情報を手に入れた。

そして当然の様に日本の最高学府の受験に成功した。


「そんなに思い悩むなら、告白して横から掻っ攫ちゃいなさいよ」

「ううう、でも、それで嫌われでもしたら・・・・・」

「何言ってるのよ、当たって砕けろよ」

「砕けるのは嫌よ!」

「じゃあ、その変な女に取られても良いの?」

「絶対に嫌!」

「はあ、どうしろって言うのよ・・・・」

「あうう・・・・・・」


高校三年になった練に初めて彼女が出来た事を知った、当時大学生だった琴音は荒

れに荒れた。

相談を受けた親友が匙を放り投げた末に焼却を選択する程に荒れた。


「こうなったら、取られない様に神にでも祈るしかないわね」


いっこうに行動を起こさない親友に、それが片思いの産物で恋に臆病な琴音の本質

名のだろうと、ならば自分はただ見守るだけしか出来ない、そう思っていた。

しかし、それは大きな間違いだった。

琴音の恋心は、常識の見えない逸脱した世界に存在していた。


(あの女に錬の素晴らしさが理解できる訳が無い)

(必ず錬を不幸にする筈、だから私が救済するの)

(この先、何者も錬に涙を流させる事を私は許さない)

(私が錬を幸せにする、全ての悪意は私が排除してみせる)

(錬は髪の毛一本から爪先まで、全て私の物、私が保護するの)

(その為にも力が、地位が、権力が必要だわ)


琴音は精神的だけではなく、物理的に、肉体的に、そして合法的に錬の全てを支配

(本人は保護だと信じて疑わない)する事を望み、その為の努力を続けていた。


「待っててね、練」


大学のサークル活動を無視し一切の誘惑を排除、飲み会は言うに及ばず、昼の誘い

さえも断り続けた。

実際、美人の部類に入る琴音は入学初日から、ナンパの集団に遭遇したが一顧だに

せず全て無視した。

琴音の目的は唯一つ、司法試験に合格。

そして法曹界の巨人である父、雄吾の後継者としてその影響力と人脈、そして保有

する要人の私的な秘密までをも受け継ぐ事を望んでいた。

その為の努力、その為の我慢、その為の雌伏だった。

その後、琴音は順調に司法試験を突破、卒業を待たずに父親の伝手で最高権力者の

私的なスタッフとして勤め始めていた。

だが、順調に思えた琴音の計画が大幅な軌道修正を迫られる事態になった。


(どうして封印士の名簿に錬の名前が載ってるの!)


一ヶ月前までは、ブラックで有名な会社に勤めていた筈だった。

同時に琴音の方も、移動した新しい部所で学ぶべき物が異常で異質で、更に多岐に

わたって膨大な量だった事も有り、習得に没頭せざる得なかった。

せっかく邪魔なあの女と別れたと報告がが来て安心のあまり油断していたのも事実

だった。

まさか彼の生き甲斐でもあった祖父母が火災に巻き込まれて死亡していたなどとは

夢にも思わなかった。

迂闊だった、こんな時にこそ錬の傍で支える筈ではなかったのか。

しかし、一頻り後悔した後、直ぐに前向きな思考に切り替えた。


(曲がりなりにも同じ職場になったんだから、出会いの機会が増えるわ)


当初は驚いて動揺したが、見方を変えれば自分の職場に新入社員が来たと考える事

が出来る。

つまり、先輩社員として錬の事を気に掛けても、何ら問題が無いはずだと考えた。


(こんな危険な仕事、私がしっかり支えなきゃ)


最初にこの部所の説明を受けた時には、何かのネタつくりの場所なのかと思った。

下手な漫画よりもファンタジー要素に溢れ返っていたのだから。

だが、説明と研修を受けるに従って、如何にこの仕事が危険に満ちているかと言う

事に気が付いた。

そこに錬がやって来たのだから、大人しく猫をかぶっている状況では無くなった。

一刻でも早く安全を確保する必要がある。


「あのねえ、ただの新人にサポート役なんて付けられる訳がないんだよ」

「なら、せめて装備だけでも」


今まではこの組織内で確固たる地位を得る為に、少しづつ影響力を増やす事に腐心

してきたのだ。

実際に若い者達や現場で動く者達の相当数が琴音の精神浸食を受けていたが今は

そんな物より錬の安全が最優先だった。

直ぐに上司である久我の執務室に押し掛けた。


「却下、あれが一つ幾らすると思ってるの、簡単に”はい、どうぞ”って渡せる代物

 じゃ無いんだよ」

「しかし、何か起きてからでは」

「何も起きないって、下級呪物なんだから気分が少し悪くなる程度さ」

「しかし」

「話はここまで、私も忙しいんだよ」

「・・・・・失礼しました」


だが、練の為にも簡単に引き下がれる訳が無い。

毎日、久我の執務室へおしかけたが頑として首を縦に振らない。

そしてそれに辟易したのか最近では、官邸に避難して戻らない事も起きていた。

この日も久我の説得を諦め自分のデスクに戻るとパソコンの画面を見つめた。


「いっそ、お父様か伯父様に・・・・さすがに無理ね」


いくら琴音に甘い両親や親族だとしても別の組織に介入するには、それ相応の根拠

を提示する必要があるが、その資料に辿りつけないのだ。

核心的資料は全て紙媒体で、各機関の金庫に収まっているのだ。



「これだからアナログ世代は・・・・・」


琴音が焦っているのには理由があった。

ここの部所で最初に与えられた仕事は、新人への洗礼とも言える資料整理だったが

琴音はその膨大な無駄情報を内包した資料を、自作のプログラムソフトに全て叩き

込んだのだ。

時間は掛かったものの、結果は直ぐに画面の上に現れた。

不合理で異質な人と金の動きが一目瞭然だった。

このプログラムは琴音が組織の弱みや不正を密かに手に入れる為の、非常に邪な考

えの元に生み出された物だ。

明示されたのは、僅かな下級呪物の増加とそれに伴う経費の低下である。

どちらもごく微量な物だが、理屈に合わない。

これを未来予想として仮想世界で加速させると、危険度が急上昇するのだ。


「私と錬の未来の為にも、今のうちに問題は排除しなきゃ」


だが後日、この認識が甘かったと痛感させられる事になった。




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