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Ep2.二味は違う登校模様

「おはよー、玲」


「おはよっ、心寧」


 玲と心寧が付き合い始めて、1ヶ月とちょっとの時が経過した。


 輝く朝日を全身に浴びながら、今日も2人は一緒に登校する。

 小学1年生の時からのルーティーンである、公園で待ち合わせて一緒に登校するというのは、恋人になっても変わらなかった。

 ただ、変わったこともある。公園で待っている時や登校中にやたら心臓が高鳴っていること、――そして、途中まで手を繋ぎながら登校していること。


 恋人になった翌日、玲が早速心寧の手を握ってきた。

 その大胆な行動に心寧の心臓がどデカく跳ね上がったが、玲も玲で耳まで真っ赤にして恥ずかしがっていた。

「······誰かに見られちゃうぜ?」と心寧が問うと、「ここらへんは、東外中の生徒はいないから······」と返された。

 玲と心寧の登校時間が早いということもあるが、玲の言う通り、公園を出てから10分くらいは、東外中学校の生徒と出くわすことは殆どない。というか、そもそも人通りが全く無い。

 ただ、大通りに出ると、流石に東外中学校の生徒がちらほらと見えるようになる。

 そこまで行ったら、繋いでいた手をぱっと離す、という新しいルーティーンが出来てしまっていた。


 そして今日も、2人は手を繋いで登校する。

 玲の女の子の様に小さな手と、心寧の滑らかな手が、重なり、熱を交換し合い、その熱がドキドキの燃料となる。

 ずっと感じていたい感触だが、大好きな人との時間は早いもので、手を繋いで居られるのは、あともう2分くらいしか無い。

 段々と辺りが騒がしくなっていく事が、この手繋ぎ時間の終わりを急かしているようで、ここらへんまで来ると、ドキドキの間に寂しさが入り込んでくる。


 あぁ、もう少しで終わりか――と心寧が考えていた、その時だった。


「あっ」


 玲が一瞬、手を離した。大好きな人の温もりが突然消えたせいで、寂しさが声に出てしまったが、玲はすぐに手を繋ぎ直してくれた。

 でも、手の繋ぎ方が変わっていた。

 心寧の指と指の間に玲の指が入り、まるで絡め合っているかのようにお互いの手の感覚がより鮮明に伝わる、そんな繋ぎ方······、


「恋人、繋ぎ?」


「······うん」


 心寧の問いかけに、こくんっ、と頷いてくれる玲。耳が真っ赤だ。

 その反応を見て、自分の顔もまた熱くなっているのを心寧は感じる。

 やはり、可愛すぎる。付き合い始めてからというもの、玲の事を「可愛すぎる」と思うことが圧倒的に増えていた。


 玲は度々、こういった恋愛的な事を進んでやってくれる。

 3日前には、別れ際にバックハグをしてくれた。「あの日以来、やってなかったから······」という説明付きで。

「だったら、前じゃねぇのか?」と心寧が聞くと、「前はその、恥ずかしすぎる、から······っ」と玲が答えた。バッグハグでも思いっきり恥ずかしがっていた。


 何故玲の事を「可愛すぎる」と思ってしまうのか――その正体を、流石に心寧は気づいていた。

 バックハグの時も、現在進行系で恋人繋ぎしている時もそうだが、「可愛すぎる」と思う時の玲は、いつも()()()()()()()()()のだ。

 そして、この『恥ずかしがっている玲』が魔性の魅力を放っているのだと、心寧は考えた。

 考えた上で、自分がその魔性の魅力にまんまと掛かっているということも認めざるを得ない。


「······可愛いやつめ」


「ふえっ」


「あ、やべ」


 ――聞かれた。ついつい本音が口走ってしまった。

 ただの呟きだったが、恋人繋ぎが出来る距離は結構近いのだ。案外聞き取れてしまう。


 ちらっと玲を見る。顔を真っ赤にして、口を金魚みたいにぱくぱくとさせている。もう沢山見た顔だ。恥ずかしがっている。

 自分が、玲を恥ずかしがらせた――そう思った瞬間、今までとは違うドキドキが自分の中で生まれたのを、心寧は感じた。

 このドキドキの正体はなんだ?――と思ったのも束の間、自分の顔がニヤついてしまっていることに気づいた瞬間、正体がなんなのか理解できた。


 単純な話だ。玲を恥ずかしがらせた事に――『可愛すぎる玲』を自分で作れたことに、心寧は興奮していた。

 今までは、玲が心寧への好意を行動に起こしたものの、結局は恥ずかしがってしまう、というパターンで『可愛すぎる玲』を見れていた。

 しかし今、心寧から玲に好意を伝えた。もしかしたら初めてかもしれない。

 そうしたら、自分でじわじわと恥ずかしがっていく玲とは違う、「ぼんっ」と爆発的に恥ずかしがる玲を見ることが出来た。


 ――この初めての経験が、心寧の新しい扉を開く事になる。


「――へぇ、嬉しかったんだ。オレに『可愛い』って言われて」


「あ、いやっ、その」


 今、自分がもの凄くゾクゾクしているのを心寧は感じる。

 ――見たい、もっと見たい。毎日毎日、自分の心臓をドキドキさせて、脳の容量を奪ってくる、魔性の魅力を放つ玲の顔を。しかもそれが、自分で作れるのだ。

 そう思うと居ても立っても居られず、大通りに出る直前に立ち止まって、玲をもっと、可愛がりにかかる。


「······それとも、嫌だったのか?」


「いやっ、そういうわけじゃ······」


 まず手始めに、意地悪な質問をしてみる。自覚はある。だからやっている。

 その意地悪な質問に、玲は面白いくらい心寧の想像通りにおどおどしてくれる。

 目が泳ぎ、その泳いだ目が心寧の目と焦点が合うと「かぁ」っとなり、恋人繋ぎしていない方の手をこねこねとしている。100点満点中120点の回答だ。心寧に余計に火が付く。


「じゃあ、答えて。――嬉しかったか、嬉しくなかったか」


 心の底から溢れ出す欲望を抑えられないまま、玲の肩を引き寄せ、耳元で甘く囁く。

 耳が弱点な玲はぴくっと身体を弾ませる。そこもまた想像通りだ。


「もし、答えてくれねぇのなら······このまま耳、いじめちゃおうかな」


 引き寄せるだけでは満足できず、玲の身体を包み込む。そうすれば、玲は逃げられないし、耳を攻めるのもやりやすい。

 そして言葉でも追い打ちをかけ、玲の退路を完全に潰した。

 玲にとっては絶望的な戦況。それを理解したのか、玲の薄桃色の唇が小さく開き――


「うれし、かった」


 と、心寧の耳元で甘く囁かれた。


「――っ!」


 その健気な玲の回答が油となって、心寧に灯る欲望の火に注がれる。

 今までの玲の一挙手一投足も油となっていたが、今の――言葉にするなら、『恥ずかしくて堪らないのに観念するしかなかった玲』は、尋常じゃない量の油を注いだ。

 そして、ただの火は燃え盛る炎へと昇華し――抑えきれなくなる。


「わっ、ちょっ、心寧っ?」


 心寧に腕を引かれ、丁度いいところにあった路地に、玲が半ば強引に連れ込まれる。

 人目に付きにくい、朝にしては薄暗い場所だ。――先に進むと少し早く大通りに出られるが、表の道を通ったほうが気持ちが良いので、あまり通ってはいなかったが。


 そこで改めて、心寧が玲の華奢な身体をガッチリと確保する。その際、玲は恥ずかしさと疑問で軽く混乱を起こす。

 これから一体、何をされるのか――と玲が考えている時だった。


「ひゃっ」


〈ふぅー〉っと、耳に息を吹きかけられた。

 その不意打ちに、ついつい声を出してしまった玲。

 そんなに良い反応をしてしまえば、心寧の炎に更に油を注ぐ事になる。


「なに?気持ちいいのか?」


「や、ちが――ひっ」


 弁明の隙さえ与えられず、2度目の〈ふぅー〉が玲を襲う。

 何やら、心寧の様子がおかしい。付き合って1ヶ月とちょっと、こんなに大胆に行動を起こされたことは無かった。


 いつも行動を起こすのは玲の方だった。手を繋いでみたり、バックハグしてみたり――他にも、遊ぶ約束をしたり、別れ際に「好きっ」って言ってみたり。

 でも、今は違う。やり方が少し意地悪ではあるが、心寧は紛れもなく、玲への好意を行動に表していた。

 それは、さっき心寧に伝えたように、嬉しい。凄く嬉しい。なんだけど······、


「ぅ、んっ」


 大好きな人の柔らかい身体を全身で感じて、その大好きな人が自分の弱いところを執拗に攻めてきて――好意は嬉しいけど、これは流石に、恥ずかしすぎる。

 手を繋ぐ時も、バックハグをする時も、恥ずかしかった。でもこれは、自爆した恥ずかしさとは違う、また別の恥ずかしさだと玲も感じていた。


「可愛いなぁ〜、玲は。まぁそんなところが好きなんだけどね〜」


 時には息を吹きかけられ、時には甘い言葉で誘惑され、時には後ろに回った心寧の手に頭を撫でられる。

 心寧に抱きつかれているため逃げることは出来ず、それを良いことに散々愛でくり回される。

 嬉しいのか、恥ずかしいのか、はたまた気持ちいいのか······どれが正解か分からず、どうにかなっちゃいそうだ。


「ほんと、玲って細い身体してるよなぁ〜、女の子みてぇ。――これで胸もあったら、完璧に女の子だな」


 心寧が変な事を言い出した。

「女の子みたい」と言われることは数え切れない程あるし、そもそも初見で男の子だと見抜かれた事がないが、「胸があったら」なんて言われたのは初めてだ。自分で考えたことも無い。

 たとえ自分が女の子っぽくたって、胸は主に女の子にあるものだ。

 だから、女の子っぽいだけの男の子な自分に胸は無いし、男の子っぽいけど女の子な心寧に胸はあるのだ。


 そう考えたところで、玲はやっと気づいた。――小さい頃の心寧には無かった、柔らかい双丘の感触に。


「あわっ!?」


 大胆な心寧やら耳がぞくぞくするやらで全然気づかなかった、2つのふにゅっとした感触。

 ······というか、告白した日も同じハグをしたのに、告白することに集中しすぎてたせいか、全然気づいていなかった。


 そういえば、ブレザーの上からでもはっきりと分かるほど、心寧の胸は成長していた。周りの生徒と比べても、心寧は大きい方だったと記憶している。


 意識をすればするほど、一際柔らかい感触がより鮮明になり、玲の心臓を「ドキドキ」では言い表せない程跳ねさせる。

 心寧は気づいていないのだろうか?それとも、気にしていないだけなのだろうか?分からない、分からないけど······、


「だ、だめっ、もうっ」


 色んな要素が重なりすぎて、玲は既に限界一歩手前だった。


 耳が弱いのはとっくの前に知られていたので、悪戯されることは度々あったのだが、こんなに攻められたのは初めてだ。

 耳攻めだけでもだいぶしんどいのだが、心寧に対する想いや関係の変化がプラスで乗っかり、更にプラスして、ハグされていることや胸の感触などが乗っかっている。

 身体は火照って、息は上がって、喉からはヘンな声が出て――その状態で、一体何分耐えられていたかは分からないが、体感はもの凄く長く感じる。

 長い長い、心寧からの刺激的すぎる愛情表現。――それも何時しか、終わりを迎える。


「っ」


 背中に少しの痛みを感じ、心寧が意識を覚ます。

 その痛みの正体は、ぎゅうっと力が入った玲の手だった。心寧の激しい猛攻に耐えるために、自然と力が籠もってしまったらしい。


「――っ!」


 少しの沈黙を挟み、やっと気づく。――自分が、何をしていたのか。

 玲を人気の無い路地に連れ込み、ハグをして、玲の弱い耳を散々いじめて、「可愛い」とか「好き」とか言っちゃったりして――。

 まるで理性を失った獣の様だ。気づけば、心の底から溢れ出る欲望のままに、玲を喰らっていた。


 このままでは不味いと思い、玲と距離を取ろうとする。が、この路地はギリギリ人2人が並べるくらいしか道幅がない。玲の顔は依然として目と鼻の先にある。


「「はぁ、はぁ」」


 息の上がった自分の目の前に、自分以上に息を上げた玲が立っている。


 蕩けた表情が、柔い目線が、赤く染まったもちもちの頬が、再び心寧を誘惑してくる。

 ――ついゾクゾクしてしまう。玲の今の顔を見ていると、取り戻せた理性がまたぶっ壊れそうだ。それだけの破壊力がある。


 元々、玲は表情変化や感情表現に富んだ性格だ。その為、もう殆どの表情を見てきたつもりだったが――恋人となり、玲はよく新しい表情を見せるようになった。

 今の顔もまた、心寧が初めて見る表情だった。『玲の表情図鑑』の空きスペースがまた埋まる。

 

「――ゴメン、玲。その、意地悪な事、しちまって」


 一仕事終えた心寧を捕らえたのは、散々玲を攻めたことに対する罪悪感だ。

 今まで愛情表現した事が無かったとはいえ、これは流石にやり過ぎた。

 もしかしたら、嫌われたんじゃないか――と不安が渦巻き、心寧の体温を奪って行く。


 ――しかし、その不安に感じる必要なんて無かったのだ。


「いや、いいよ。······そのっ、嫌じゃなかったし、心寧から何かしてくれるのは初めてだったから――ちょっと、嬉しかった」


 照れ照れとした様子で、でもはっきりとした口調で、玲が心寧を許してくれる。

 心寧を庇う為に、お世辞を言ってくれている可能性も無くはなかったが――真っ直ぐな玲の目に心を射抜かれた心寧に、お世辞を言っているという考えは無かった。


 ――こんなの、大好きになるに決まってるではないか。


「大好き」


「っ!」


 今度は口を滑らせてではなく、自分の意思で好意を伝えた。

 その不意打ちに玲が肩を跳ねさせるのを見届けてから、「早く行こうぜ」と玲の手を引き、妙に満たされた気持ちを感じながら、路地を抜けるのだった。

ご愛読ありがとうございます!作者のなおいです!


今回は、2人の登校模様を書かせて頂いたのですが······とんでもないモノが出来てしまいましたね。

いきなり路地に連れ込み、玲を逃げられないように捕まえ、愛でまくる······。なんとも刺激的なお話に仕上がってしまいました。

いやぁ、本当は恋人繋ぎで終わりの想定だったんですけどねぇ······なんか、書きたくなってしまいましたね。はい。


まぁ、可愛かったからいいだろ!


って事で、Ep3を楽しみにしてて下さい!それでは!

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