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Ep1.新たな日々の始まり

 中学2年目の、始業式の日だった。


 満開の桜で彩られた通学路をいつものように2人で歩き、新鮮な春風を肺に目一杯取り入れる。

 満杯になった胸には、春風だけでなく、新しい日々に寄せる期待と、少し緊張も詰まっていた。

 その感覚を2人で分かち合い、ワクワクとドキドキを乗せた声音で他愛もない話をしながら、2人が通う学校――東外(ひがしぞと)中学校へ向かった。


 2人は同じクラスだった。

 保育園からの友達――所謂幼馴染の2人だが、小学校では1回も同じクラスになれず、「中学校こそは!」と意気込んだものの、去年も同じクラスにはなれなかった。

 なので、初めて同じクラスになれて、お互いに心の底から喜んだ。

 席も前後ろでお隣さんだったし、なんなら班も同じっぽかった。

 今までの学校生活が嘘みたいに、歯車と歯車がガッチリ噛み合い、新しい学校生活は円滑に回り始めていた。


 始業式に赴く為に一度教室を出て、校長先生の長い話を聞いてまた教室に戻って来る。

 新しい先生がやってきて自己紹介をし、その次に班員との交流会がある。2人はちゃんと同じ班だった。

 最後に、2年生用の教材がどっさりと配られ、あっという間に放課の時間になった。

 終始ワクワクドキドキしている間に登校1日目は終わり、重たいリュックを担いで玄関へ向かう。勿論2人で。

 行きに見た桜をもう一度瞳に写しながら、明日への期待に再度胸を膨らませ、帰路を辿った。


 ――そして、お別れの時が来た。


 学校を出て約15分、小さい頃よく遊んでいた公園の近くにある「ト」のような別れ道から、2人は別々の帰路を辿ることになる。

 1日のワクワクが大きかった反動で、「バイバイ」する事がいつも以上に寂しかった。

 でも、「また明日」は去年とは違う。同じクラスだから、もっと長く2人で居られる。そう思うと、寂しさより楽しさの方が大きくなった。


 だから、「また明日」と――そう桐原心寧(きりはらここね)が言葉を紡ごうとした、その時だった。



「あの······っ!」


 柔らかい高音が、心寧の言葉を遮った。

 振ろうとした手が止まる。心寧の意識が、()に吸い付くように集中する。


 白い頬を薄く赤らめ、華奢な身体をもじもじとさせる彼が、上目遣いで心寧を見つめている。

 そんな彼の姿を見て、心寧はすぐに理解できた。なぜ自分は、こんなにも彼に、のめり込むように集中してしまっているのか。


 ――あまりにも、()()()()()からだ。

 元々、彼の事は美少女と言われても疑えないほど、めちゃくちゃ可愛いと思っていた。

 その証拠に、彼を初見で男の子だと見抜いた人を、心寧は見たことが無かった。自分だって、初めは女の子だと思い込んでいた。

 それだけ彼は可愛いのだ。赤ん坊の時から一緒にいるから、彼の可愛さは脳に染み渡っている。


 しかし、今目の前にいる彼は、今まで見たことのない別次元の可愛さを放っていた。

 まるで、魔法で人を虜にさせるサキュバスの様に、玲の魔力に心寧の心臓は絡め取られていた。


「··········」


「·············うぅ」


 自分から声をかけてきたくせに、言葉の先を言ってくれない彼。でも、不快感は1ミリも無かった。

 更に赤らむ彼の頬が、もごもごと揺れる薄桃色の唇が、自分を見つめる潤んだ瞳が、心寧の目を、脳を、彼一色に焼いてくる。

 彼の魅力に意識を駆られて、不快感なんて感じる余裕がない。そんなことしてたら、彼の魅力と魔力を取りこぼしてしまうかもしれない。

 だから心寧は、彼を見つめる事だけに集中していた。


「あ、え、えと」


 心寧による無意識下の熱い視線にあてられ、彼の頬が更に赤くなる。

 きょろきょろと目が泳ぎ、手と手を絡ませて、喉につっかえた言葉を吐き出そうと口をぱくぱくさせる。


 ――その様子を、心寧はジーっと見つめる。


「あ、あわ」


 いつしか彼の頬は真っ赤に染まり、丸い瞳は完全に涙目になっている。今にも泣き出しそうだ。

 しかし、心寧の様子は変わらない。そんなのお構い無しという態度で彼をジーっと見つめ続けている。


 ――だから、彼に限界が来た。


「――玲?」


 彼――胡桃玲(くるみれい)がいきなり大股で向かってきたところで、心寧はやっと我に返った。

 玲だけでなく、自分もまた知らない自分になっていた······と少し混乱する。

 しかし、その混乱を瞬きの間に掻き消し、再び玲に意識を集中させようとする。我に返ってもなお、心寧が玲に夢中になっていることに変わりは無かったからだ。

 欲望のままに、玲を見る。――その時にはもう、心寧と玲はゼロ距離だった。


「うお」


 玲の真っ赤に染まった顔を間近に見た次の瞬間、柔らかい感触が心寧の身体を包み込んだ。

 その直後、ふわっといい匂いが鼻に滑り込んでくる。玲ってこんなにいい匂いしたんだ、と冷静に分析出来ている自分が不思議でならない。


 ――だって今、自分は玲にハグされているのだ。

 漫画でよく見るカップルの様に、身体と身体が密着し、お互いの息使いを間近で聞きながら、()()()()()の温かみを感じる。


 ――あれ、この「大好き」は、一体どっちの······?


「好きっ、大好きっ!一緒にいて楽しくて、それで、ずっと一緒にいたいって思えて······!」


 心寧が一瞬モヤッとした直後、男の子とは思えない可愛らしい声が、心寧への想いを力強く紡ぎ始めた。

 健気で真っ直ぐな、好意。それくらいは心寧にも分かった。

 そして、渇望する。玲の好意を、想いを――告白を、心寧は心の底から求めていた。

 だから、一言一句聞き逃さないよう、今度は耳に意識を集中させる。

 

「それでねっ、その、心寧はすごく可愛いしっ、頼りにもなるしっ······あ、あとかっこよさもあって、えと、えと」


 辿々しい言葉だ。――それでもちゃんと、想いが籠もっていた。


「だから――これからもボクと、ずっと一緒にいて下さい! あ、つ、つまり、付き合って下さい!ってこと、です······」


 恥ずかしさで声が震え、それを隠そうと心寧を抱く力が強まり、最終的には恥ずかしさに負け、言葉が失速してしまった。

 ――でも、良かった。そんなこと、心寧にとってはこれっぽっちも重要じゃなかった。


 心寧はしっかりと感じていた。玲の自分を想ってくれる気持ちを。それを、頑張って伝えてくれたことを。

 そして再び、「大好き」への疑問が、心寧の心に表れる。

 モヤッとしたモノが心寧を取り巻き、刹那の沈黙を生む。

 でも、心寧は気づいていた。玲の自分に対する想いを聞いて、この「大好き」が、一体どちらのモノなのか――。


「オレも、玲の事が大好き」


 玲が自分にしてくれたように、今度は自分が玲に想いを伝える。

 その際、耳元で囁かれたがために玲がぴくっと身体を跳ねさせる。


 玲は、可愛い。それはそれはとんでもないくらい可愛い。健気で、純粋で、笑顔が可憐で、感情が分かりやすくて、小動物みたいで、守ってあげたくて――全部全部、可愛い。可愛くて可愛くて仕方がない。大好きだ。

 それだけじゃない。実は運動が得意なところとか、耳がめちゃくちゃ弱いところとか、一緒に遊んでて楽しいところとかも、大好きだ。

 もう疑いようがない。疑う必要もない。――この「大好き」は、「ライク」ではなく、「ラブ」だ。


 だから――、


「いいぜ。――付き合おう」


「ほ、ほんと!?」



 ――中学2年目の始業式の日、暖かい春の日に照らされ、女の子にしか見えない男の子は、男勝りな女の子に告白した。

 いきなりハグをするというなんとも大胆な告白だったが、返事はOK。晴れて2人は恋人になることが出来た。


 告白が終わり、密着した身体を離す。遠ざかる体温にお互い寂しさを感じつつ、「バイバイ」と言ってお互いの帰路を辿った。


 その時、玲も心寧も、恥ずかしさで悶絶しながら歩いていたのだった。

ご愛読ありがとうございます!作者のなおいです!


後書きでは、私が作品への愛を語ったり裏事情を語ったりして、気ままに行きたいと思います。つまりはただの自己満です。面倒くさい方は是非飛ばして下さい。


『男の娘彼氏とオレっ娘彼女』は元々、短編小説として出す予定でした。でも、どーーーしても玲と心寧の行く末を見たくなってしまったので、「よし、連載化しよう」とほぼ勢いで決断しました。

私の趣味嗜好が詰め込まれまくって出来たのが本作なのでね。そりゃもう短編小説で収まりきらない訳よ。


はい。私の自己満タイムは終了!それでは、次回Ep2でお会いしましょう!感想も待ってます!バイバイ!

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