表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
PR
22/24

第22話:最後の問い――朱音マリア、“何のために演じるのか”

都内某所、落ち着いた音楽スタジオの一角。

朝の光が差し込む静かな撮影セットに、朱音マリアが現れる。


今日は、NHKドキュメンタリー特番の収録日。


映画『朱音マリア』公開を前に、

世界中のメディアが彼女の“内面”に注目していた。


インタビュアーを務めるのは、報道でも信頼の厚いベテランキャスター、加賀谷真由子。


彼女は開口一番、こう尋ねた。


「朱音さん。あえて本人役で主演するという今回の映画――

怖くはなかったですか?」


マリアは、少しだけ笑った。


「はい。怖かったです。……でも、“怖くない演技”って、たぶん、誰の心にも届かないんですよ」


 


画面が切り替わる。

これまでの出演作品の一部が映し出される。

再起のきっかけとなったドラマ『桜花に堕ちる』、

ヴェネツィア受賞作『夜の聲』、

そして、高校演劇への“帰還”。


 


インタビューは、核心に迫っていく。


加賀谷は、ふと手元のメモを見てから尋ねた。


「朱音さん。今、もし“16歳の自分”に会えるとしたら、何を伝えますか?」


マリアは、少しだけ黙ってから、こう言った。


「――ごめんね。

あの時は、“自分が壊れたこと”を、自分のせいだって思い込んでた。

でも、本当は、誰もが壊れていいし、泣いていいし、逃げてもよかった」


「ただ……そのあと、もう一度立ち上がったことだけは、誇っていいと思う」


 


画面の外で、撮影スタッフのひとりが泣いていた。

マリアの言葉は、“芝居を超えた何か”を届けていた。


 


そして最後の質問。


加賀谷は、静かに尋ねる。


「朱音マリアさん。あなたは、何のために演じているのですか?」


その問いに、マリアは長く息を吐いた。


少し空を見てから、答える。


 


「昔は、“認められるため”でした。

それが奪われた時は、“復讐のため”だった。

演技で“証明”したかったんです、自分には価値があるって」


「でも今は――“自分じゃない誰かを、ひとときでも救えるなら”、それでいいと思っています」


「人は、生きてる限り、誰かになりたいって願う。

その誰かを、私が演じられるのなら。

“あなたはひとりじゃない”って、伝えられるのなら」


「……私は、そのために演じます」


 


静かな空気が、スタジオを包む。


加賀谷は、深く頷いて、マリアに手を差し出した。


「……ありがとうございました。

あなたの言葉が、今日、たしかに誰かを救ったと思います」


 


収録は終了した。


その夜、ドキュメンタリーの予告編がネットに公開される。


【予告】

「朱音マリア、語る。“私はなぜ演じ続けるのか”」


視聴者からは、早くも多くのコメントが寄せられた。


「この人の言葉、胸に刺さる」

「演技じゃないのに、涙が出た」

「“ざまぁ”じゃない。“赦し”なんだな、この物語は」


 


翌日。

映画『朱音マリア』の公開日が正式に発表された。


初日:11月3日 全国拡大ロードショー。


プレミアム上映のチケットは、数時間で完売。

「過去と現在を、演技で赦した女優」の人生を描くこの作品は、

今や“観る者すべての物語”となろうとしていた。


 


朱音マリアは、静かに台本を閉じた。


その手には、もう迷いはない。


演じることで、人を救う。

それが、彼女が生きる“理由”だった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ