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第15話:ドラマの成功と新たな戦い――朱音マリア、“映画主演”に名乗りを上げる

『暁の声』が社会現象とも言える大ヒットとなった翌週。


朱音マリアのもとには、連日数十件の仕事依頼が舞い込んでいた。


雑誌、CM、トーク番組――

だが、そのどれもが、彼女にとっては“通過点”でしかなかった。


彼女が目指すのは、

「映像の中で、生きて、殺されて、蘇る女優」になること。


そしてそのためには、映画――それも本格的な人間ドラマ映画での主演が必要だった。


 


そんな中、一本の企画書が彼女のマネージャーのもとに届く。


映画タイトル:『夜のこえ


ジャンル:社会派ヒューマンドラマ

脚本・監督:清家修一(日本アカデミー賞監督賞3回受賞)

製作:東日フィルムスタジオ

内容:戦後直後の東京を舞台に、貧困と偏見を背負って生き抜いた若き女性記者の半生を描く


「……主演候補に、あなたの名前が入ってる」


マネージャーが、封筒から抜き出した資料を読み上げる。


「東條遼真が消えた今、枠が空いたんでしょうね。あなたを推したのは――監督の清家本人らしいわよ」


マリアは静かに目を閉じた。


清家修一――“セリフを喋るな。目で全部語れ”という過酷な演出で知られる鬼才。

業界内でも女優を泣かせて有名な存在だ。


だが、同時に“認められれば世界が開く”とも言われていた。


 


「……やります。やらせてください」


 


しかし翌日、彼女の名前が正式にオーディションリストに載ると――

反発の声が、すぐさま上がった。


「テレビドラマでちょっと当たっただけで映画主演とか、浅すぎる」

「清家監督の映画に“話題性だけの女優”が出るなんてあり得ない」

「やっぱり元恋人スキャンダルで売れたからだろ」


映画界は、テレビとはまた違う“派閥”と“上下意識”が濃い世界だった。


マリアがそこに飛び込むというだけで、既に敵視する者たちが動いていた。


 


その動きの中で、ある女優の存在が浮かび上がる。


橘えりか(27)――映画賞常連、若手実力派の頂点に立つ女優。


清家監督とも旧知であり、主演候補の最有力とされていた。


その彼女が、業界紙のインタビューで意味深に語る。


「演技って、時間をかけて積み重ねていくもの。

私は、一時の話題では立てない。そんなのは“舞台”じゃなくて、ただのショーよ」


誰に向けた言葉かは、明らかだった。


 


それを聞いたマリアは――

ただ、黙って台本を開いた。


そして、こう言った。


「演技で黙らせるしかない。言葉じゃなくて、“本物”で殴るの」


 


一週間後。

『夜の聲』主演最終候補者による、公開演技審査が始まる。


場所は老舗撮影所の試写ステージ。

審査員席には、監督・清家修一を筆頭に、映画プロデューサー、脚本家、そして国際映画祭のディレクターの姿もあった。


演技課題は、次の通りだった。


課題:焼け跡の東京。配給所に子どもを連れて列に並ぶ母親の心情を、セリフなしで演じよ。

※制限時間:1分30秒。演出補助なし。無音。無背景。感情のみで伝えること。


順番が回ってきた。


舞台の中央に、マリアがひとり立つ。


照明が当たる。

カメラが回る。

観客席は静まり返る。


彼女は何も言わない。


ただ、歩く。


まるで戦後の瓦礫の中を、一歩ずつ進むように。

時折、小さな手を振り返って気遣い、胸に抱える空の缶を見つめる。


笑おうとする。でも笑えない。

目だけが、かすかに泣いていた。


――1分30秒が過ぎる。


照明が落ち、静寂の後に、拍手も歓声もない“完全な沈黙”が場を包んだ。


その沈黙を破ったのは、清家監督の低い声だった。


「……もう一度、演じろ。次は、子どもが“死んだ”後の母親だ」


厳しすぎる追加要求。


だがマリアは――頷いた。


「お願いします」


その瞬間、“復讐”で得た演技は、“芸術”へと昇華しようとしていた。

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