9話 スキル検証
それから外で待機していたセリファに案内されて、修二はある小部屋へと通される。
「護衛ってことは、部屋は外廊のこの護衛室でいいかしら」
質素ではあるが、清潔で落ち着いた空間だ。
それにかなり広い。
「ここを一人で使っていいんですか?」
「もちろん。自由に使ってくれていいわ」
「なんだか申し訳ないな。こんなに大きな部屋を一人でだなんて」
「護衛は今はあなただけだから気にしないでいいのよ。それに、あなたはこれから神殿の一員なんだから。ほかにも必要なことがあればなんでも言ってね」
「ありがとうございます」
セリファが去った後、修二はベッドに腰掛けた。
昼食までの時間、好きにしていいと言われ、この時間を利用して昨夜の続きを検索しようと考えた。
「エックス」と心の中で唱えると、青い光の画面が現れる。
「さて。今日はバグについてもっと詳しく調べてみるか」
『クリムゾン・ファンタジア レベル反転バグ』
そう検索すると、いくつかの投稿が表示された。
【@gamegod_2099: クリファンのレベル反転バグは伝説だよな 誰か成功した奴おる?】
【@rworiguvdf: 例の同人ゲーの反転バグ 条件が複雑すぎて再現できた人ほとんどいないらしい】
いくつかポストを検索した結果、その条件というのは以下のすべてを満たす必要があるようだ。
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①ヴァレスに奉られている聖剣に触れる
②ヴァレスの端に存在する井戸の中に落ちる
③ヴァレスの外に棲息するブラックウルフに襲われる
④オーリアの神殿で祈りを捧げる
⑤水晶の洞窟で死なずにボスまで行く
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「なるほど」
このバグは非常に条件が厳しく、成功例もほとんどないようだ。
しかし、もし成功すれば一気にレベル99になるというのは魅力的だった。
「聖剣に触るや井戸に落ちるってのはもうダメだな。村から追放されたわけだし」
ブラックウルフに襲われるというのは、これは経験済みだった。
「あとは…オーリアの神殿で祈りを捧げるか。これはできそうだな」
偶然にも神殿の一員となった。
これはタイミング次第でいつでも可能に違いない。
「それと水晶の洞窟ね。どこにあるんだろう」
修二はさらに『クリファン 水晶の洞窟 場所』と検索してみた。
【@deexplorer: 水晶の洞窟はオーリアの西にある レベル10以上推奨】
「レベル10か」
修二は改めて自分のステータスを確認する。
「ステータスオープン」
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名前:ユーク
職業:村人
レベル:1
HP:100/100
MP:10/10
力:5
敏捷:3
知力:4
スキル:エックスリンク
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レベルは1のまま。
「まあ、モンスターは何も倒してないんだから当然か」
さらにバグに関しての検索を続ける。
そこで「見えない武器」のバグが存在するというポストを見つけた。
【@huntervic: クリファンの見えない武器バグ オーリアの武器屋で閉店間際に特定の手順で武器を購入すると、表示されない最強武器が手に入るという 正規の手段では絶対に入手できない幻の武器らしい】
「おお! これは使えるかも」
ほかにもバグに関して検索をするも、目ぼしいポストは見つからず。
ひととおり検索し終えた修二は、ふと友人のアカウントがどうなっているか調べてみることにした。
高橋竜也。
高校のクラスメイトだ。
【@ryu_takataka: 水嶋、まじで目を覚ませよ みんな心配してるぞ 京香もボロボロだ 頼むから戻ってこい】
「!」
そのポストを見た瞬間、修二の意識は突然現実へと引き戻される。
自分が交通事故に遭った身であるということ。
穏やかな異世界の環境にいるせいで忘れてしまいそうになるが、今も自分の命は危険な状況なのだ。
それを修二は再認識する。
【@kyoka_meguro0314: 修二君の手を握った 看護師さんが「声をかけ続けることは大事」って言ってくれた だから毎日話しかけることにする 聞こえてるよね?】
画面を見つめながら、瞳の奥から熱いものが込み上げてくる。
気づけば、リプライを送っていた。
【@isekai_villager_A: @kyoka_meguro0314 京香! 俺だよ、修二だ! 必ず戻るから! 絶対に諦めないからな!】
と送信するも。
【既にブロックされています】という表示が返ってくる。
「やっぱりダメか」
修二はため息をついた。
(でも突破口を見つけられる兆しはある。反転バグでレベル99になって、魔王を倒す。これが最短の帰還方法だ)
修二は固く決意した。
ヴァレスに戻って水晶の洞窟に挑む。
修二はさらに情報を集めながら、今後の作戦を練り始めた。
※※※
昼食後。
予定通りニャアンと一緒に冒険者ギルドに顔を出すことに。
「よーし!冒険者ギルドへ出発~!」
ニャアンが両手を合わせて興奮気味に言った。
小柄な体で人混みをすり抜けながら、彼女は時折振り返って修二を確認する。
その仕草がまるで子犬のように愛らしかった。
「おいおい、そんなに急がなくても…」
ヒーヒー言いながら付いていく修二。
相変わらず中年の体力はお粗末なものだ。
「早く早く~! お昼過ぎには初心者向けのクエストがなくなっちゃうんだよ!」
ニャアンは銀髪をなびかせながら小走りに進んでいく。
その背中を見つめながら、修二は思わず微笑んだ。
(こんな可愛い子が自分についてきてくれるなんてね)
もし彼女が現実の世界へ来たら、たちまち学校の人気者になるに違いない。
だが、すぐに京香の顔が脳裏に浮かぶ。
ハッとして自分の考えを打ち消した。
(何考えてんだ、俺は! 京香を待たせてるってのに)
二人は賑やかな大通りを抜け、ギルドの建物に到着した。
正面には巨大な剣と盾のマークが掲げられ、頑丈そうな木の扉が迎えてくれる。
重い扉を押し開けると、中は驚くほど活気に満ちていた。
様々な装備を身につけた冒険者たちが、食事をしたり、情報交換をしたり、時には大声で笑い合ったりしている。
「うわぁ。すげぇ…」
修二の言葉にニャアンはクスッと笑った。
「ユークさんって、本当に村しか知らないんだね」
「まぁそうだな」
「さあ、まずは冒険者登録からだよ!」
ニャアンが受付カウンターへと修二を引っ張っていく。
受付には若い女性が座っていた。
厳しそうな目つきだが、どこか母性を感じさせる雰囲気も持ち合わせている。
「いらっしゃい。何のご用件かしら?」
「冒険者登録をお願いします!」
ニャアンが元気よく答える。
「あら、ニャアンちゃんじゃない。久しぶりね」
「ミーナさん! 元気でした?」
「ええ、相変わらずよ。で、この方は?」
ミーナと呼ばれた受付嬢が修二を見る。
「この方はユークさん。私の護衛になってくれた人なの」
「護衛? でもニャアンちゃん。あなたに護衛なんて必要ないでしょ? あなたの回復魔法があれば十分なんだし。エリンダ様はなんて?」
「お認めになってくれました。いい護衛を見つけましたねって」
ニャアンは少し照れくさそうに答えた。
「ふーん。ならばエリンダ様のお考えがあるのね」
ミーナは納得したように頷き、修二に目を向けた。