17話 クリスタルゴーレム戦
それからさらに一時間ほど。
《エックスリンク》で得た情報を頼りに、正確なルートを選んでいく。
やがて。
二人は巨大な広間に辿り着いた。
「なんだろう、ここ…」
ニャアンが息を呑む。
今まで通過した場所よりも遥かに大きく、天井までの高さも10メートル以上あった。
そして、その中央には――。
(え? ひょっとして…。もうボスのフロアにたどり着いちゃったのか?)
奥に巨大な人型の生物が佇んでいるのが見える。
全身が水晶でできており、体の5ヶ所に赤く光る核のようなものが見えた。
間違いない、と修二は思った。
「クリスタルゴーレムだ」
修二は思わず呟いた。
「え…? あれが?」
敵は予想以上に巨大で、体躯は4メートルはある。
その威圧感は絶大で、ガレスが言っていたように、今のレベルで戦えるような相手には見えなかった。
「ニャアン。今、あいつと戦うのはマズい気がする。このまま引き返そう」
「う、うん…」
ニャアンも怯えた様子で頷く。
同じような印象を敵に抱いたようだ。
しかし、その時だった。
「グォオオオ!」
突然、クリスタルゴーレムが動き出した。
二人の気配に気づいたようだ。
「逃げるぞ!」
修二はニャアンの手を引いて、入ってきた通路に戻ろうとした。
が、少しだけ判断が遅かったようだ。
先回りした巨人に通路を塞がれてしまう。
「きゃっ!」
ニャアンが悲鳴を上げる。
「くっ…」
修二は透明の短剣を構えた。
今更逃げられないなら、戦うしかない。
「ユークさん! やるしかないみたいっ!」
「だな。ニャアン、左腕の核を狙い撃ちしてくれ!」
「わ、わかった!」
ニャアンは杖を構え、呪文を唱え始めた。
「精霊たちよ、力を貸したまえ」
その間に、修二は輝水晶を取り出し、短剣の刃に押し付けた。
輝水晶は短剣に吸収されるように消え、刃が青く光り始める。
(よし)
クリスタルゴーレムが巨大な腕を振り上げる。
修二はその動きを見逃さず、横に飛び避けた。
「グォオオ!」
腕が地面を叩き、衝撃で床が揺れる。
(今だ!)
修二は反撃のチャンスと見て、ゴーレムの腕に飛びかかった。
青く光る短剣をその腕に突き立てると、予想以上に刃が深く沈み込んだ。
「フレイム・ボルト!」
ニャアンの呪文が完成し、杖から炎の矢が放たれた。
それは敵の左腕の核に命中した。
「グアアアァァア~~!?」
クリスタルゴーレムが苦しげな叫び声を上げる。
それと同時に左腕の核が消滅する。
「やった! 一つ壊したよ!」
核はまだ四つもある。
当然、油断はできない。
「ニャアン、右だ!」
ゴーレムの右腕が不気味なスピードでニャアンに向かって伸びてきた。
ニャアンはとっさに身を低くし、攻撃をかわした。
「はぁっ!」
修二は短剣を再び構え、そのまま右腕に飛びかかった。
しかし、ゴーレムはその動きを予測したかのように、修二を弾き飛ばした。
(!?)
ドスゥゥーーン!!
壁に叩きつけられ、修二は一瞬気を失いそうになる。
「ユークさんっ!」
ニャアンが駆け寄ってくる。
彼女の手から淡色の光が修二を包み込み、痛みが和らいだ。
「サンキュ。助かったぜ」
修二は立ち上がり、戦況を確認した。
クリスタルゴーレムは再び通路を塞ぐように引き下がっていた。
やはりこのまま戦うしかないようだ。
「一気に攻めるぞ!」
「うん!」
修二とニャアンは左右から挟むように相手に接近した。
これまで培ってきた連携が光る。
修二は短剣で右腕を、ニャアンは魔法で胸部の核を狙う。
「うぉりゃあ!」
修二の短剣が右腕の核を貫く。
同時に、ニャアンの魔法が胸部に直撃した。
「グオオオオ~~!!?」
ゴーレムの体が大きく揺れる。
右腕と胸部の核が光り輝いて消失した。
「あと二つ!」
残るは頭部と腹部の核だけだ。
しかし、ゴーレムの動きは激しくなり、二人は攻撃がしづらくなる。
「くっ...」
修二は汗を拭い、呼吸を整える。
このままでは核を攻撃できない。
何か作戦が必要だ。
そこで修二はニャアンに囁いた。
「俺が足元に攻撃して注意を引くから、そのすきに頭の核を攻撃魔法で狙ってくれ」
「頭だね。わかった!」
二人は頷き合い、作戦を開始した。
修二はクリスタルゴーレムの足元に駆け寄り、輝水晶を付与した短剣でサッと斬りつける。
「こっちだ、こっちだ!」
敵の注意を引く。
それに釣られて、ゴーレムは頭を下げて修二を睨みつけた。
「今だ、ニャアン!」
「うん! スピリット・アロー!」
ニャアンの放った矢が、ゴーレムの頭部の核に命中した。
「グオオオッ!」
ゴーレムが苦しげに身をよじり、頭部の核が消失する。
「あとひとつ!」
しかし勢いづいたゴーレムは、最後の力を振り絞るように腹部を守り、周囲に水晶の刃を飛ばす攻撃を始めた。
「うわっ!」
鋭い刃が修二の頬を切り裂いた。
ニャアンも腕に傷を負う。
(くっ)
このままでは近づくことができない。
「どうしよう…?」
一度後ろに引き下がったニャアンが修二に細い声で尋ねる。
修二はさっと部屋を見渡した。
すると、広間の端に小さな水晶の塊が光っているのに気づいた。
(あれだ!)
修二は塊に向かって駆け出す。
それは大きな輝水晶の塊だった。
「こいつを利用すれば…!」
修二は塊をそのまま短剣に押し付けた。
すると、短剣が虹色に輝き始め、その光が部屋全体を包み込んだ。
輝く短剣を構えて、そのままゴーレムに向かって突進する。
「うおおおおぉぉぉぉぉ!」
渾身の力で短剣を振り下ろす。
クリスタルゴーレムの腹部めがけて。
ガギィィィン!!
光の刃が敵の全身を貫いた。