出会い
4.
太郎の熱は入院二日目夜には何事も無かった様に下がっていた。
そして、入院四日目には全身に異常がなく退院可能であるということを、その大きな身体とは正反対に控えめな声で、どこかに感情を置き忘れてきたかのように無表情な医師から、ボソボソと説明を受けた。
医師も両親も麗しの美人看護師のことを誰も触れないし、誰に尋ねても「あの場には三人しかおらず看護師はいなかった」という。
太郎の目が覚めたときに母親が呼んできたのは太郎の担当医だったらしい。
なるほど、やはりあの異常な惨劇は高熱が見せた夢だったようだ。
病室は何事も無かったかのように清潔その物である。
どこにも頭蓋骨の欠片や千切れた手足や内臓は見あたらなかった。
当たり前だよなと思いながらも、どこか釈然としない思いで、首をかしげつつ太朗は入院五日目の退院の日を迎えた。
二階にある太郎の病室を後にして、両親と一緒にナースステーションに挨拶をし、階段を降りようとすると、廊下のソファーに黒いニット帽を被った細身の女性が腰かけているのが目についた。
夢の中の看護師と違い愛くるしいという感じではないが、肌が透き通るように白く、どこか中性的でかなり美人な部類に入る女性だった。
女性の履いているデニム生地のホットパンツからは、スラリとしているが、それでいてしっかりとした肉付きの艶かしい脚がのびていた。
太郎は彼女のことー恐らく二十歳前後、を勝手にセクシーさん呼ぶことにした。
女性の切れ長の目が太郎を見つめてきたため、太郎は軽く格好をつけて会釈をした。太郎から挨拶を受けた女性は驚いたような表情を見せた。
驚きの表情はすぐに消え、女性は右の口角を軽く上げた。笑ったようだ。
「おめでとう。」
彼女はそんなことを言った気がする。口元の動きでそう思っただけだ。
何を言ったか聞き直そうとしたが、すでに女性は太郎の方を向いていなかった。
両親は彼女に気付いている様子はなく、今日の夕飯のことを話している。
太郎は首をかしげながらーすっかり習慣となっていた、階段を降りていった。
「セクシーさん…。親がいなければ是非ともお近づきになりたかった。」そんな度胸もないくせに不埒なことを考えながら帰路に着いた。