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静寂の中  作者: ちんや
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夢と現と

初心者です。

稚拙で読みにくくてすみません。

1.

天井を見ていた。いつもの天井。特に何かを考えていたわけでもないし、特に意味もない。ただただ見ていた。


天井にはシミがあった。いつもと同じところにある黒いシミ。見ようによっては人の顔に見えなくもない、どことなく愛嬌のある形。


いつも視点を定めることなく天井を見上げているが、気が付くとそのシミを眺めている。


いつからこうして眺めているのか。いつ起きていつ眠りに落ちて、今日が何月何日で何曜日かも曖昧だった。


窓から入る日差しから、昼か夜か何となく分かる程度。


小腹が減った感覚があるけど、起き上がって何かを食べようともしない。


「ああ、何…」をやっているんだ、とは声が続かなかった。何もしてなかったからだ。


視界が歪み、天井のシミがぼやける。


水滴が耳の穴に入ってこそばゆい感覚を覚えて、自分が泣いていることに気がついた。


何かをすることに何の意味も無くなってしまった世界のなかで、ただただ涙を流していた。


こうして横になり、静かに生を全うすることが正しい生き方である、ということを思い出す。


思い出したからといって涙を止める術が分からず、結局そのままでいた。


静かに死んでゆくこの世界で、ただただその様を眺めながら何も出来ずに自分も死んでいく。


ふと、窓の方に目を向けると、差し込む陽射しの加減で大分時間が経っていることに気がついた。


来る。


あいつらの世界がやってくる。


そう思い、再び顔を天井の方に向ける。


愛嬌のある形の黒いシミがそこにある。


いつもと同じところにいつもと同じシミがある。


涙は止まっていた。


2.

アルバイトのために購入する履歴書の記入例にはいつも自分の名前があった。


ありそうで中々ない名前。少なくとも本人はそう思っていた。


名字が田中、名前が太郎。ミドルネームはもちろんない。


自分以外の田中太郎に会ったことはない。


皆から「たっちゃん」と呼ばれていた。田中の「た」なのか太郎の「た」なのか。とにかく「たっちゃん」だ。


「親父が持っていた、昔流行った漫画の双子の片割れもそう呼ばれていたなあ」と思っていたが、本人は漫画とは違いボクシングや野球はしたことないし、新体操部の美人な幼なじみもいない。いたって普通の王道帰宅部高校生だった。


高校二年生の太郎は、田中家に生まれた父が、初めて生まれた息子につけた名前を恨むことはあったが、感謝なんてしたことがなかった。


ただ、学力も体力も運動神経も良く言って中の中程度、友人そこそこ彼女はいない。


そんな自分を振り返ってみると、なるほど名は体を表すとはこのことかと思ったりもした。


もやもやグダグダだらだらで多感な時期の太郎があの事に気付いたのはいつのことであったか。


最初はちょっとした違和感だった。何となく気になる程度。


次第に首をかしげる頻度が増していった。


ただ上手く説明出来ない感覚であったため、家族や友人に話すこともなかった。


「なんだかなー。」と一人でもやもやしながら学生生活とアルバイトに勤しんでいたある日、太郎は突然高熱に見舞われた。


特に咳や鼻水、喉の痛みといった風邪症状もなく、ただ高い熱が出た。


自宅のベッドで「頭が割れるように痛いっていうけど、こんな感覚?」そんな事を考えながら目を閉じた。


3.

太郎の目がゆっくりと開く。真っ白な天井が視界に入る。


身体は動かないし、声も出ない。ただ、両目だけは何とか開けていられた。


ふと、両親が視界に入って来た。驚いたような表情で何事か言いながら太郎を見下ろしていた。


そして、母親が視界から消え、しばらくして見知らぬ女性を連れてきた。


髪を栗色に染めた、小柄だがかなり綺麗な女性だった。


体格の割には大きな胸が張り出し、腰がくびれた服装をみて看護師ということがわかり、自分が病院のベッドに寝ていることに気がついた。


「わざわざ呼びに行かなくてもナースコールで呼べばいいのに」と母親に対して思った気がする。


次に看護師が、少し汚れた白衣を着た白髪混じりの太った男性を呼んできた。


これまた太い首に真っ黒な聴診器をかけた医師が何事か話しかけているが、話しかけてくる内容が上手く入ってこない。


顔色が悪く肥満しきった身体つきをみて「医者の不養生にもほどがあるだろ。」とかなり失礼な事を心のなかで口走っていたし、何よりも、少し前から小柄な美人看護師に、黒い影のようなものが覆い被さるようにして立っていたからだ。


背景を透けさせないほどの大きな暗い影。


影に捕まえられていることに、看護師は気付いていない様子で太郎を見下ろし続けている。


不意に影の漆黒の身体の中に深紅の口腔と、白々とした無数の牙が現れた。


影の広げた大きな口が、看護師を包み込みゆっくりと看護師の頭をボリボリと音が聞こえてきそうな様子で食べ始めた。


多分看護師は叫んでいたのだと思う。絶叫は聞こえてこないが、看護師も影に負けず大きく口を開けていたからだ。口を限界以上に広げすぎたため看護師の顎が外れてしまった。


頭を噛み砕かれていく激痛で、看護師の愛くるしい、くりっとした目は血走り、外れた顎に多量の涎が流れ落ちてくる。


そして、彼女はまるで奇妙なダンスを踊るように足をバタつかせ、両手をむやみやたらに振り回していた。


その両手は影に当たると思いきや、虚しくするりと影の身体を通り抜けてゆき、ダンスを止めることはなかった。


不思議なことに、おびただしい量の血渋きが飛び散り、噛み砕かれた頭蓋骨の欠片や頭髪、脳の一部が両親や医師、床へと巻き散らかされても三人とも何事も無かったかのように太郎に話しかけてくる。


「おいおい」と思いながらも、どうすることも出来ず、看護師はその愛らしい顔を時間をかけて噛み砕かれていった。


今では看護師の抵抗は止み、両手が重力に従ってだらりと垂れ下がり、彼女の身体は痙攣し始めていた。


看護師の頭を半分ほど食べ終わると、影から黒い触手のようなものが、ピクピクと痙攣し続けている看護師の身体へ伸びて行き、彼女の服を剥ぎ取っていった。


下着も全て外され、形のよい大きな乳房が現れた。痙攣に合わせてたわわに揺れる胸に目を奪われる。


半分になった頭部以外は完璧なプロポーションを保つ看護師の身体を、影から延びた触手が今度はゆっくりと解体し始めた。


薄く割れた腹筋が左右からバリバリと裂かれ、ヌメヌメとした臓器が次々と体内から摘出されていく。


すらりとのびた看護師の手足は、根本からブチブチとネジ切られていく。


影はバラバラにした身体の部品を一通り愛でると、今度は此処彼処に投げ捨てていった。


医師の白髪は看護師の血液で深紅に染まり、看護師の千切れた腸が首に巻き付き聴診器を隠してしまっていた。


余りにも非日常的な光景に恐怖を覚えるよりも、「人って中々死なないんだな。それにしてもグロすぎだろ。」と自分の想像力の逞しさに辟易していた。


やることの無くなった様子の影が、今度は太郎の方にやってくる。


相変わらず残った三人はこの惨劇に気付いた様子もなく、影の存在も無視して太郎に話しかけている。


覗き込んでくる影の、顔とおぼしき部位には大きな口以外に何も付いていない。


しかし、明らかな意思をもって太郎を覗き込んでいるように見える。


影の大きな口が歪んだ。


笑ったようだ。


そして、次の瞬間、突然太朗の視界がブラックアウトした。












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