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第八話 楽々と沙羅 姉妹のside

 楽々《らら》――side。


 高校の入学式前。


 田舎から都会へ再び舞い戻る。

 緊張と不安を感じていた。

 私は沙羅とよく思い出話をする。


 幼い頃、ひと夏の間だが、毎日のように遊んだ男の子の話だ。


 名前は千堂律くん、年齢は同じだった気がする。

 私のことをいじめっ子から助けてくれた人。


 今は新幹線の中、沙羅は隣で窓を眺めていた。

 何を考えているのか、表情ですぐわかった。


「また律のこと考えてたでしょ?」

「え、えええ!?」

 

 姉妹だからか、すぐにわかってしまう。

 私たちはずっと律のことが忘れられなかった。


 短い間にもかかわらず、数えきれないほどの思い出があったからだ。


「でも……楽々もでしょ?」

「えへへ、そうだね。どこかで会えるかなー? もしかして同じ高校だったりして」

「ふふふ、だったら凄い奇跡ですね。もし神様がいるなら、そういう悪戯いたずらしてくれても構わないんですけどね」


 心残りだったのは、お別れをちゃんと言えていないことだ。

 パパとママが事故で亡くなって、私たちは離れ離れになった。


 ただ、叔父さんと叔母さんは大好きだし、今まで育ててくれたことにも感謝してる。


「ねえ沙羅、もし会っても私たちのこと覚えてると思う?」

「どうだろう……。なんとなくだけど、律くんは覚えててくれると思いますよ」

「そうだといいなあ! 沙羅、もし見かけても抜け駆けはだめだよ」

「ぬ、抜け駆けって……。――でもそれは、楽々もですよ」

「ゆびきりげんまんする?」

「……そうですね……」


 もじもじしながらも、沙羅は小指を突き出す。こういうところがとっても可愛い。

 私と沙羅が千堂律くんのことを覚えている大きな理由が一つある。


 もちろん楽しかったこともそうだが、私たちにとって初めての友達だからだ。


 私たち姉妹は、一卵性双胎児として生まれた。けど、近所の子供たちはそれを怖がってしまった。

 あの頃は言動も似ていたし、どっちがどっちかわからないと確かに怖いのかもしれない。


 だけど、千堂律くんだけは違った。

 初めはびっくりしてたけど「沙羅と楽々」私たちをちゃんと別人だと扱ってくれた。


 別れるまで、一度たりとも私たちを姉妹を間違えたことなんてない。


 私と沙羅は仲良しだし、本気の喧嘩なんてしたことはない。

 だけどやっぱりお互いに一緒にされすぎることを無意識に嫌がってしまっている。


 私は楽々で、お姉ちゃんは沙羅。

 その違いをちゃんとわかってくれたのは、今までで千堂律くんだけだ。


「沙羅、もうすぐ着くよ」

「はい、楽々。これからが楽しみですね」


 ◇


 沙羅――side。


 高校入学式を終え、千堂律と再会した日の夜。


「楽々、奇跡って起こるんですね……」


 気持ちが抑えきれませんでした。嬉しくて嬉しくて、もしかして変な顔になっていたかもしれません……。


「びっくりした……。ねえ沙羅、私変な顔してなかった!? 大丈夫だった!?」

「わ、私もです!」


 お互いにふふふと笑い合い、緊張が少しほぐれる。

 驚いたことに、律くんは私たちのことを覚えていてくれました。


 それも鮮明に。


 カラオケルームでは律くんがいなかったので残念だったけど、楽々のおかげでゆっくり話すことができました。

 それにしても、やっぱり律くんは凄い。


 話している途中も、教室で会ったときも、私と楽々を一目でわかった。


 一緒にかき氷を食べたり、私がまだ話すのが苦手だった時にも、律くんはゆっくりでいいよと言ってくれた記憶が最近のことのように蘇ってくる。


 それにあの時より、格好良かった……です。


「沙羅、めちゃくちゃ顔に出てたよ?」

「え? な、何がですか!?」

「律のこと、格好いい~! って思ってたでしょ?」

「え、えええ!? ……はい……」

「やっぱり。でも、私も思ったよ?」


 どうやら顔に出てしまっていたようです。顔から火が出るほど恥ずかしい……。

 楽々は堂々としていてやっぱり凄い。私も見習わないと……。



 後日、楽々から聞いたのだけれど、律くんが虐められていた子を助けようとしたらしい。

 あの頃からまったく変わってない。


 やっぱり、律くんは律くんだった。私も嬉しい。



 図書室で本を読んでいると、律くんが声をかけてきてくれた。

 どうやら私と同じで本が好きらしい。


 そしてクレープまでご馳走になった。

 つい嬉しくて楽々に言ったら、ズルいと怒られてしまった。確かに……逆なら私も悲しい。


「ごめんなさい。気づきませんでした……」

「ううん、沙羅がそんなに楽しそうな顔してるの久しぶりに見たよ」


 そういえばそうかもしれない。でも、楽々も楽しそうだ。

 一日に一回、いや二回、いや、三回は律くんの名前が自然と私たちの間で出る。


 それから私は、律くんを夕食にご招待したと伝えた。

 それを聞いて楽々が慌てる。


「えええ!? 大胆なことしたね……」

「そ、そうかな? でも、そうかもです……」

「よし、片付けするよ沙羅! そして律くんにお花の香りがする! って思わせよう! 名付けて、ドキドキワクワク女子の香り大作戦!」

「な、なるほど……そうですね。今のうちに献立も考えておきましょうか。男の人を呼ぶなんて、初めてですもんね」


 そして後日、律くんは私たちの自宅へやって来てくれました。


 花の香り大作戦、成功したらいいなあ。


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