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第四話 相崎楽々の告白

 驚いたことがある。


 入学式を終えて数日が経過したが、幼い頃の記憶が上書きされた。


 当然、いや、もちろんだが、相崎姉妹の話だ。


「相崎さん、全問正解よ」

「えへへー!」


 楽々はその底抜けの明るさとは反対に――いや、これは失礼か。

 頭脳明晰だった。

 もちろんそれは沙羅も意外ところがあった。いやこれも失礼か……。


 普段は大人しいのに、スポーツも万能なのだ。

 体育の時、女子生徒が阿鼻叫喚している光景を良く見かける。


 天才姉妹、最強姉妹、千年に一度の姉妹、なんて言葉が次々と生まれていた。


 いやでもまあ、間違ってはないと思う。


「で、どっちがタイプなんだ?」


 休み時間、修が訊ねてきた。

 俺たちはすっかり仲良くなっていた。入学前は陰キャラとか陽キャとか分け隔てようとしていた自分に腹が立つほど、修は何時も自然体だし、優しいいい奴だ。

 で、ちょっとだけエロいけど。


「俺的にはさ、楽々もいいんだけど、やっぱり奥ゆかしさのある沙羅のほうが……なんかこう、いいよな!?」

「楽々に聞こえたら殴られるよ……」


 あれから仲良くなったので、今でも学食でご飯を食べたりしている。

 俺の高校デビューは満足のいく結果ではなかったが、それなりに充実していた。


 学校では楽々派、沙羅派、というものがあり、この議論は毎日どこかしらで行われている。

 ちなみに俺はというと――秘密だ。


 放課後、修は野球部へ。

 楽々と沙羅はいつも通りだが、人気者の宿命で誰かに拉致られていく。


 俺は教室の掃除当番だったので、掃除を終え、ゴミ捨て場に向かっていた。

 そして、見たくもないものを見てしまう。


「おい、てめえ、持ってこいっていったよなあ?」


 それは、いじめだ。

 心が――えぐり取られるようだった。


 上級生が、恐らく二年生を脅している。

 俺は、修たちのおかげといってはあれだが、普通に見られているので、いざこざには巻き込まれていない。


 だが、中学時代のことは……思い出したくもなかった。


 だからこそ高校デビューに命を賭けていたと言っても過言ではない。

 目の前の光景見た瞬間、心臓が音を鳴らす。この場から消え去りたい。今すぐにでも離れたい。

 そうすれば、この気持ちは収まるはずだ。


 先生に言うか? いや、駄目だ。絶対にあの後、酷いことになるからだ。

 それは経験でわかっている。


 どうしたらいい……。携帯で動画を撮影しようにも教室に置いてきてしまった。


「なあ、わかってんだろうな?」


 過去の記憶とフラッシュバック、もう一度彼が殴られそうになった時、気づいたら足が動いていた。

 上級生たちは少し驚くが、俺が一年生だとわかってほっとしたらしい。


「なんだ?」


 凄んだ声と、威圧感のある表情。

 こわい、こわい、やめておけばよかった。

 でも……もう、嫌だ。もう負けないと決めたんだ。


「や、やめろよ!」


 俺は言ってやった。


 ◇


「ったく、なんだこいつよえーじゃねえか」


 気づけば地面に倒れていた。

 お腹が痛い。おそらく殴られたのだ。

 もう二度とされたくないと思っていたのに、どうしてこんなことに。


 見捨てられなかった。いや違う、自分を守りたかった。過去の自分を、見捨てたくなかった。


「あーこいつ、相崎姉妹と仲良くしてる男じゃね?」

「あ、俺も見たことある。生意気だったんだよなあ」


 最悪だ。目立たないようにしたかったのに、もう駄目だ。

 もう一度殴られると思い、体を硬直させ亀のように防御しようとしたら、誰かが叫ぶ。


「何してんのよ!」


 その声は、楽々だった。


「相崎楽々……」


 上級生は驚いていた。彼女は有名人だからだ。

 分が悪いことはわかっている。


「ち、ちげえんだよ。こいつがさあ――」

 

 楽々が近寄ってきて、思い切り上級生にビンタする。


「律が悪いことをするわけがない。あんた達、絶対に許さないから」


 楽々が睨み、凄んだ声で上級生は怯えて固まっていた。


「大丈夫?」


 楽々派俺の肩を持ってくれた。

 情けなくも、いや、楽々のおかげで助かった俺は、その場から一緒に離れた。

 去り際、いじめられていた子、といっても先輩だが「ありがとう」とい言ってくれた。

 俺は、過去の自分を助けられた気がして、少し嬉しかった。とはいえ、楽々のおかげだが……。


 擦り傷もあったので保健室に行こうと楽々言われたが、虐められていた子のことも考えて、大事にはしたくなかった。

 迷惑はかけたくない。


「わかった。じゃあ、ちょっと待ってて」


 そう言うと、楽々はどこか消えていった。戻って来た時には消毒液一式を持っていた。

 保健室から、無断で持って来たらしい。

 なんとまあ……行動力が凄い……。


「ごめん……」

「何で謝るの?」

「自分じゃ勝てないのに、楽々に助けてもらって……」


 最低だと、自己嫌悪に陥りそうだった。

 自分からクビを突っ込んだのに、楽々に助けてもらうことしかできない。


 弱虫で、最悪な――。


「変わらないんだね、律は」

「え?」

「え? 覚えてないの?」


 何のことだかわからかった。楽々は絆創膏を貼りながら、俺に言う。


「昔、私が公園で虐められてた時、助けてくれたでしょ?」


 そういえば……思い出した。

 地元の小学校の上級生が、公園は俺のものだと言い張り、楽々の髪を掴んだ。

 俺はまだあの頃気が強くて、思い切り蹴りつけて、楽々を助けた。


 もうあんな強さは残ってないけど……。


「……思い出した。でも、……強かったのはあの時だけで……」


 情けない、と思ったとき、楽々が首を横に振る。


「立ち向かう勇気があるのは、律の強さだよ。何も変わってなくて、私は安心したし、誇らしいよ」


 ほら、これでバッチグー! と、最後に背中を叩かれる。


「痛いんだけど……」

「それと、一個だけ嘘ついたのわかる?」


「嘘?」


 何気なく楽々が言った。いや、よく見ると頬が赤くなっている?


「結婚しようねって約束、実は私はまだ本気にしてるんだけど」


 その後、俺は自分がどんな顔してたのか覚えていない。






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