第二十二話 ハプニングの多いお泊り
着替えをどうしたらいいのか頭をフル回転していると、お風呂場から楽々と沙羅のキャッキャッしている声が聞こえた。
「沙羅、おっきくなった?」
「ちょ、ちょっとやめてください!?」
「着替え着替え着替え着替え……」
耳を塞ぐように呟く。
衛生的にも制服を着させるわけにはいかない。
となると、やはり俺の服しかなかった。
二人が着られそうな服を引っ張り出してきて、ドアの前で叫ぶ。
「楽々ー! 沙羅ー! ごめん、服のこと考えてなかった! 中に入っても大丈夫?」
「はーい! いいよー!」
「だ、大丈夫です」
前回こうやって鉢合わせしてしまったので、学習したのだ。
二度目は流石に確信犯だと思われかねない。
扉を開くと、洗濯機の上には制服が置かれていた。
「制服、洗っておくね?」
お風呂場のスモーク越しに、二人のシルエットが見える。
当然だが、少し肌色で刺激が強い。
「ふふふ、いいよー。律はえっちぃだね」
「楽々! 律くんは優しいだけですよ! ――お願いします……」
洗濯ものを勝手に洗うのはエッチなのか……と思いながら、制服を持ち上げた。
その瞬間、はらりとカラフルで小さなものが落ちる。
それは――ピンク色と白の下着だった。
なぜ気づかなかったのだろうか。
普通に考えればわかることだ。制服の下には、下着を履いているということを。
慌てて拾い上げようとしたら、もう一枚、黒と白の下着が落ちる。
「え、あ、あええああ!?」
まずいと思っていたら、楽々の声が聞こえる。
「大丈夫ー?」
「だ、だいじょうぶ! 何もない!」
こんな場面見られてしまったらなんて思われるのか……。
出来るだけ見ないように拾い上げ、洗濯物に入れた。
洗剤を投入、水が入っていくことを確認して、その場を後にする――。
「律、黒と白の下着は沙羅のだよー! 可愛いよねー! あ、ピンクはもちろん私の――」
「こ、こら楽々!? 一体何を言ってるんですか!?」
まさかの情報に驚き、ごめんっ、と断りを入れて出て行く。
最悪だ、変態だと思われたかもしれない……。
放心状態でソファに座っていると、湯上りの二人が出てきた。
もちろんすぐに謝ったが、大丈夫ですよと言われた。
二人は俺が用意したTシャツにズボンというラフな格好で、なんだかそれも申し訳なくなる。
泊まっていいと言うならば、それなりの準備をしておくべきだった。
「ふうー、気持ち良かった。律も入ってきたら? お湯もまだ温かいしよ」
それじゃあお言葉に甘えて、というのも自分の家なので少し変だが、心を落ち着かせたいのでそうすることにした。
再び脱衣所に戻り服を脱いでいると、家に楽々と沙羅がいるのか……となんだか恥ずかしくなる。
身体を洗って湯舟に漬かっていると、洗濯機が終了した音が鳴り響く。
その数秒後、入るねーと楽々と沙羅が入って来た。
スモーク越しなので当然見えないが、反射的に湯に潜ってしまう。
「律くん、制服とその……下着干して置いていいですか?」
「も、もちろんだよ!」
わざわざ聞いてくれるなんて、沙羅は丁寧だ。
ふう、これでなんとか…‥と思っていると、扉が少しだけ開く。
「お背中流しましょうかー?」
「ら、らら!?」
「こら、楽々! やめなさい!」
「ふふふ、はーい!」
からかわれている……。
最後に、沙羅が「ごめんなさい、閉めておきますね」と言ってくれた。
それもまた、恥ずかしい……。
着替えてお風呂場に出ると、ようやく少し気分が落ち着く。
勉強疲れもあったので、どっと眠気も来た。
「おかえりなさい、お水どうぞ」
「ああ、ありがとう」
キッチンは使っていいと伝えていたので、どうやら用意をしてくれていたらしい。
湯上りの火照った体に、冷たい水は最高だ。
「ふわああ、なんだか眠たくなってきちゃった……」
寝ぼけ眼で目を擦る楽々。その姿は、いつもより妹っぽく見えた。
「あ、布団の用意するね」
そういえばすっかり忘れていた。
両親用の布団を引っ張りだそうと襖を開ける。
「あれ……あれ……どこだ?」
しかし……どれだけ探しても見つからなかった。
両親にメッセージを送ってみると、「クリーニングして一度実家に置いてるよ」と返信が来る。
最悪だ……。
「ごめん……僕のせいだ」
そのことを二人に説明したが、ソファで寝ますよと気を遣ってくれた。
それは流石に申し訳ない。
「俺のベットで眠ってもらえないかな。二人なら余裕だと思う。流石に申し訳ない」
「ええ!? それは悪いですよ! 私たちがお邪魔している立場ですし。ソファで構いません」
何度伝えても、頑なに沙羅は首を横に振ろうとしない。
その様子を見ていた楽々が言う。
「あ、いい事考えた!」
「「いい事?」」
俺と沙羅が、同じく言った。
◇
「じゃあ私が先に寝ころぶね、ほら、まだ二人分眠れるよ!」
楽々が俺のベットで横になって、ちょいちょいと手とこまねいている。
なんと彼女は三人で寝ようというのだ。
「ちょ、ちょっと待って!? 流石にそれはダメだよ!?」
「なんでダメなの?」
「男女が同じ布団だなんて……」
「でも、律は何もしないでしょ?」
しないよ、するわけがない。と返答したが、じゃあ問題ないんじゃない? と返された。
そういう問題じゃないと思うけど……。
「もう遅いですし、明日も学校があるので、楽々の言う通り三人で眠りましょう。律くん、私からもお願いできますか?」
突然、真剣な瞳で沙羅が言う。俺と同じで反対すると思っていたが、びっくりした。
「ほーらー沙羅も言ってるし、律律、おいでー」
「え、あ」
「律くん、どうぞ」
背中を押されて、楽々の隣に潜り込む。
その後、沙羅が電気を消して隣に入って来る。
そして気づく、楽々と沙羅に挟まれていることに。
「て、ていうか、真ん中はあれじゃない!? せめて壁とかのほうが!?」
「もうー今から移動するのが面倒だよー」
「律くん、大丈夫ですよ。私たち、信頼しているので」
信頼? 信頼って!? 俺は自分を信頼してないよ!?
「ふぁああ、おやすみー」
「はい、おやすみなさい。律くんも」
「え、えええ……はい。おやすみ」
とんでもないことになった。
こんなこと修にバレたら……。
果たして眠れるのか……困惑している左右から、二人の息遣いが聞こえる。
「ねえ」
耳元で楽々の声がして、心臓がドクンと鳴る。
「ど、どうしたの?」
「気づいてる?」
何が、何がだ? 頭をフル回転させるが、何もわからない。
「私と沙羅、下着履いてないんだよー」
「楽々、それは言わないでおこうって話したじゃないですか!?」
「ふふふ、おやすみぃ……むにゃむにゃ」
「もう……すいません。律くん、忘れてください……。おやすみなさい」
「は、はい……」
それから数分後、楽々はすぐに眠ったのか、吐息が耳に当たる。
体勢を変える。今度は沙羅が眠ったのか、吐息が当たる。
下着を履いていない二人……楽々の足がゆっくり近づいてぎゅっと絡みつかれる。
振りほどこうにも眠っているので申し訳ない。
どうしようと困っていたら、今度は沙羅が腕を回してくる。
「むにゃむにゃ……律く……ん」
「律……す……」
ああ、どうやら俺は寝不足になりそうだ……。
——————
サポーターさんが付きましたので、短いですが限定SSを公開しています!
本編を見ている方であればより一層楽しめる内容を書いて行こうと思っています(*´ω`*)
リクエストもある程度受付できたらいいなと思っているので、ご報告です(*´ω`*)
【とても大事なお願い】
ランキング上位を目指しています!
この作品もっと多くの人に知って読んでもらいたいです!
『面白い!』
『楽しみ!』
『笑えた!』
そう思っていただけたら下にある星『★★★★★』と
作品のフォローしてもらえると、励みになります!




