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第十一話 楽々と待ち合わせ

 誰かと待ち合わせをしたのはもう随分前の話だ。


 小学生の時だろうか、公園で待ちぼうけをくらって、夕日が落ちて、家に帰って親に楽しかったと嘘をついた覚えがある。


「えーと、どうしようかな……」


 一時間も前に到着してしまった。

 犬の銅像の前で待ち合わせ。今日は楽々と買い物に行く。


 沙羅と遊ぶ予定だったらしいが、生徒会役員で行けなくなったらしい。

 

 どこかで時間を潰してもいいが、この辺りは詳しくない。

 カフェなんてお洒落な場所で待つのも怖いし……スマホで漫画でも見てようかな。


 銅像の前のベンチで座ろうと、なんとなく小走りで駆け寄ると、誰かとぶつかってしまった。


「「す、すいません!」」

 

 顔を上げると、その相手は――楽々だった。


「楽々!?」「律!?」


 まさかの偶然、いや、それよりも……なんでここにいるんだ?


「ど、どうして楽々?」


 待ち合わせは一時間後。俺は遅れたらどうしようと思って早く着いてしまったが、楽々がここにいるのは変だ。

 だがその問いかけに、楽々は頬を紅潮させながら答えた。


「え、えーと……そ、その早く来ちゃって!? だから、待っておこうかなーって!?」


 一時間も? 椅子に座って? 

 楽々なら、色々な時間を潰せそうな気がするのに。


 よく見ると、楽々の恰好がいつもとは違う。


 肩だしの、確かオフショルダーと呼ばれる服を着ている。

 肌は真っ白で凄く綺麗なので、もの凄く可愛い。


 スカートは透け感のある白いスカートで、いつもより清楚感があった。

 胸元には、大きなリボンのようなものがついている。


「びっくりだよ。それより……楽々、今日の服凄く可愛いね」

 

 気づけば口から感想が飛び出していた。

 途端に恥ずかしくなってしまったが、楽々はもっともっと頬を赤らめた。


「あ、ありがとう……えへへ、嬉しい」

 

 それに比べて俺はいつもの服装だった。

 もちろん出来るだけ気を使ったつもりだけど、無地のTシャツに野暮ったいジーパン。

 なんだか申し訳なくなる。


「ごめん、俺ももっとお洒落だったらよかったのに」

「そんなことないよ! 律はいつもの律で大丈夫。それにとっても似合ってるよ」


 だけど楽々は、満面の笑みで言ってくれた。

 気さくで活発で、どっちかというとおおざっぱに見えるけれど、こういう時の気づかいは抜群だ。


「じゃあ、いこっか! いくつかお店周りたいんだけど、いいかな?」

「もちろん。今日は予定もないし、楽しみだよ」


 誰かとの待ち合わせ。


 今日は待ちぼうけを食らわなかったので、良い思い出が更新された。


 ◇


 試着室、楽々が花柄のワンピースを着ていた。

 くるりと一回転、スカートがヒラリと揺れる。


「ねえ、どう? 似合う?」

「うん……可愛いよ」


 普段は行かないようなお洒落な洋服屋さん。

 なんとなく手に取った服の値段をチラリと見たが、もの凄く高かった。


 この一着で、牛丼何杯食べれるんだ、と下らない考えが浮かんだ。


「……もしかして微妙?」

「ち、ちがう! 本当にか、可愛かったから……恥ずかしくて」


 恥ずかしい、恥ずかしい。とにかく恥ずかしい。

 周りもカップルが多いし、意識が高い人も多くてちょっと気まずい。


 ……と思っていたら、綺麗な店員のお姉さんが声をかけてきた。


「どうでしょうか、お気に召すものはありましたか?」

「あ、い、いえ。俺は付き添いなんで……」


 ガツガツ来られると困ってしまう。なんて反応したらいいかわからないし、売ろうとしてくるの場合はもっと最悪だ。

 その時、楽々が試着を終えて現れた。


「これ買おうかなー。あ、こんにちは!」

「こんにちは、ありがとうございます。お預かりしておきましょうか?」


 和気あいあいと話す二人は、別次元の存在だった。

 こんな時、誰かと話すことはあまりなく、どちらかというと放ってほしいと思ってしまう。


 早く終わらないかなとを最低なことを考えていたら、二人が俺に顔を向けた。


「律ー! 店員さん、カラーコーディネーターの資格持ってるから、見てくれるって!」

「え、ええ!?」


 さすがに嫌だとは言えず、されるがまま、なすがままに服を選んでもらうことに。

 確かに出かけるための服はほしいと思っていたけど、不安が募る。

 一体いくらのを買わされるのか……。

 

 こんな事なら、外で待っていればよかった……。


「そうですね。小顔なので、割と色は少し明るくても大丈夫ですね。これなんてどうでしょうか?」


 色々褒められているみたいだが、なんだか申し訳なかった。

 不安しかなかったが、店員さんは俺が思っていた以上に、いや随分と優しかった。


 ご予算は? 必要なものは? 今あるアイテムはどんな感じですか? と、丁寧に訊ねてくれる。

 押し売りなんて一切なく、どんな時に着る服なのかまで聞いてくれた。

 最後は「ほかのお店見てからお決めしたほうがいいですよ。色々と後悔はしてほしくないので」と言ってくれたのだ。


 今までずっと勝手に敵だと思っていたのが、申し訳なくなって、心中でもの凄く謝罪した。


「店員さん、いい人だった……」

「そうだね! 律すっごく似合ってたよ?」


 帰り際、俺はもう一度店に戻って、少しお洒落なシャツを購入した。

 インナーを変えることで着まわせるので、色々と使いやすいらしい。

 もちろん値段もお手ごろだ。

 楽々も、凄く似合っててかっこいいと言ってくれた。


「ありがとうございます! とてもよくお似合いでしたよ」

「いえ、こちらこそありがとうございました。……本当に楽しかったです」

 

 お姉さんは、ニコリと笑顔を見せてくれた。そして――。


「いえ、こちらも素敵なごカップル様のお相手が出来て良かったです。あ、そうだ!」


 へ……カップル? それからテクテクと、お姉さんはレジの裏から何かを持ってくる。


「こちら、お店限定のカップルクマなんです。学生さんですよね? 良ければ、鞄とかにつけてください!」


 差し出されたのは、青とピンクの小さな可愛いクマさんだった。

 楽々と俺は顔を見合わせて、互いに頬を赤くする。

 カップルじゃないとは、さすがに言いづらい。

 

「あ、ありがとうございます。是非付けさせてもらいますね」


 そう言って、外に出た。

 ごめんと言おうと思ったら、横で楽々が笑っていた。


「ふふふ。律、どうして否定しなかったの?」

「え、いや……えーと……」

「嘘嘘、意地悪な質問してごめんね。――ね、良かったら鞄に一緒につけよ? お揃いカップル、したいな」

「え、ええ!? 恥ずかしいけど……わかった」

「えへへ、わーい!」


 あ、でもこれ……学生鞄に付けて大丈夫かな?


 楽々派に……怒られないかな。

 


 翌日、出会って一秒で沙羅に問い詰められた。

 事情を話すと、沙羅は同じ言葉を子供のように繰り返した。


「ズルいです! ズルいです! ズルいです! ズルいです! ズル――」

 

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