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6 異文化

 ……ガタゴトガタゴト。


 新たに私を加えた一団が町へ向けて歩みを再開させた。


「今晩は野宿して明日の昼には街に着くからね」

「はい」

「街の名前はトルスウッドっていうんだけど知り合いとか居るかな? ちゃんと家まで帰れそう?」

「えーっと、さっき迷子って紹介されたんですけど……」

「ん? 違ったのかい?」


 私が子供になっているなんて予想外だった。適当に旅人を装って、街に着いてから今後の事について考えようと思っていたのに、私が子供となると話が変わってくる。親もいない家も無い子供が街中で自由に生活ができるのかは分からないし、現に今も同行しているというよりは危険だからと保護されている状況だ。この隣に座るプッチは人が良さそうだし、多少は事情を話して街へ着くまでの間に情報収集と今後の方針を決めておいた方が良さそうだ。


「いや、迷ってたのは本当なんですけど、実はどこかの街で一人暮らしを始めようかと思ってまして」

「えっ!? 君一人で?」

「はい、それで街で何か子供でもできそうな仕事って心当たりありますか?」

「子供でもできる仕事……か、エドガーさん、冒険者ギルドって登録は十歳からでしたっけ?」

「そうですね。でも嬢ちゃん、歳はいくつだ?」

「歳ですか? 私、いくつに見えます?」


 並ぶように歩きながら話を聞いていたスキンヘッド、名前はエドガーっていうのか。自分でも何歳なのか分からないので聞いてみる。本当の年齢も言いたくない年齢だし……。


「俺は子供いねえからよく分からねえな。七~八歳くらいか?」


 プッチの方を向くとエドガーに同意して頷く。


「そうだね、それくらいに見えるけど」


 八歳か。それくらいに見えるなら十歳だと言い切ってしまえば大丈夫か。


「やだー、私そんなに若くないですよー! 今年で十歳になったんですよ、もー」


 隣を歩くエドガーの肩をパンパン叩きながら、合コンのノリで十歳だとゴリ押す。


「ホントかよ? まぁそれでいいけど、流石に嬢ちゃんが一人で生活していくのは無理だと思うぞ」

「えっ? 何でですか?」

「モンスターを狩ってる新人の奴らだってその日暮らしが精一杯なんだ。十歳の子供じゃ小遣い程度は稼げても、生活していける程稼げるとは思わんぞ」


 多少の頭脳労働くらいはできると思うが、そんな仕事を子供にやらせてくれるとは思わないし、肉体労働も難しい。そんな私でも稼げる仕事なんて、あれば絶対怪しい仕事だろう。


「そうですか。とりあえず他に当ても無いんでその冒険者ギルドっていう所で仕事探してみます」

「ああ、街には孤児院もあるから生活できそうになかったら行けばいい。保護してくれるだろう」


 孤児院か。長い間、気ままな一人暮らしをしていたのに、誰かの世話になりながらの集団生活は抵抗あるな。それならまだ森の中で自給生活していた方が気楽で良さそうだ。森で二度死んだ私が生きていけるならだが……。


 会話が途切れたので気になっていた事を聞いてみる。


「あの、これって何を運んでるんですか?」


 私の後ろ、荷車の中には大量の木箱がぎっしりと詰め込まれており、先程から馬車が揺れる度にキンキンと甲高い音がしていた。


「これは鉄だよ。僕は街で鉄具屋をしていてね。材料になる鉄のインゴットを定期的に仕入れに行っているんだよ」

「それで俺たちはその護衛だ。最近は盗賊も増えてきてるんで、この仕事も命懸けだよ。少しは色を付けて下さいよ」

「アハハ、何かあったら頼りにしてますから」


 プッチは呑気に笑っているが、怖いなこの世界。普通に盗賊とかいるのか。魔物は闊歩しているし治安は最悪とか一人旅とか絶対無理だな。


「そういえば最初に会った時、仲間は何処だとか言ってたのは私の事を盗賊と間違えたんですか?」

「何それ? そんな事言われたの?」

「はい、そうなんですよ! その背負ってる武器を構えながら私に向かって来て!」

「仕方ねえだろ、それが仕事なんだから。いきなり道の真ん中で立ち塞がったら誰でも警戒するだろ」

「いやでも武器まで構えなくてもいいじゃないですか。私のどこが盗賊に見えるんですか?」

「アハハ、エドガーさんは頼りになるなぁ」


 プッチは呑気に笑っているが、笑い事じゃない。もしあのままエドガーが襲い掛かってきていたら私は最後の手段に出ていたし、その結果全員が消し炭になっていたかもしれないんだぞ。私を含めて……。


 自分の事を話すと面倒な事になるかもしれないので余計な事は言わないように、今日の野営地に着くまでの間、私はプッチとエドガーと世間話をしながらこの世界の情報収集に励んだ。



 ◇



「今日はこの辺りにしておこうか」


 少し景色がオレンジに色付き始めた頃、プッチの指示で今日の野営地が決定する。

 馬車を停車させ、先に降りたプッチの手を支えに私も馬車を飛び降りる。


「あいたたた」


 同じ姿勢で固まった体をほぐし、尻を摩る。馬車に乗るのは初めてなので最初は楽しかったのだが、路面の悪さや馬車の作りもあってか乗り心地は最悪だった。この一団に合流したのは昼を過ぎていたので、数時間乗っていただけで疲れてしまった。


「お疲れ様。じゃあ僕たちは準備をするから少し待っていてね」


 皆、野営には慣れているのか指示を出し合う事も無く、それぞれが己の役割を果たしていく。することが無い私は適当な石に腰かけ、皆の様子を眺める。

 プッチら鉄具屋の人間は三人。二台の馬車の手綱を握っていたプッチと従業員の一人はそれぞれの馬の世話をしに行き、もう一人の従業員は今晩の料理を作り始めた。材料を手際よくカットしていき大きめの寸胴の中へ。最後に手の平を寸胴の中へ向けたので何をしているのかと思ったら、急に手の平から水がドバドバと溢れ出した。適量入ったのか水を止め、事前に石で作っておいた竈へセットする。ただその竈は薪の準備などされていないのでどうするのかと思ったが、従業員は一枚の金属板を竈の中へ差し込んだ。アレは何だと見ていると従業員が離れた時には竈に火が灯っていた。板から火が出ているようで、それが寸胴を温めている。簡単な野菜スープを作っているだけなのに、謎技術が満載でとても興味深い異世界クッキングだった。


 一方、エドガーの冒険者パーティー。人数は五名でパーティー名は牡牛の盾というらしい。プッチが仕入れに行くときは専属で護衛をしているらしく、リーダーのエドガー、片手斧と盾を扱う無口な男サイラス、弓と短剣を扱う双子のレオとリオ、気弱そうな魔法使いのケニーという五名だ。

 サイラスはエドガーより更に大きい筋肉の塊。何も話さないので、どんな性格かは分からない。レオとリオはまだ二十代だろうか、なかなか格好は良いが二人の違いが全く分からない。服装、装備、顔に声まで瓜二つで、エドガーに見分けがつくのか聞いてみたが返事を濁された。そして恐らく十代であろう一人だけ若いケニー。彼は何故このパーティーにいるのだろうか。攫われてきたのではないのかと心配になる。

 そんな五人は現在、レオとリオが薪を集めに周囲にある木に向かい、サイラスとケニーは休む為のテントを張っている。そしてリーダーのエドガーは全体が見渡せる位置、すなわち私の側で何か異常がないか武器を構えながらウロウロしている。せっかく休んでいるのに、気になるからジッとしていてほしい。


 サイラスとケニーの様子を窺うと、どうやらテントを立て終えたようだ。サイラスは立ち上がり、傍に置いてあった小さなカバンを持つとその中に手を突っ込んだ。そして引っ張り出したその手には、遥かにカバンのサイズを上回る大きさのモノが掴まれていた。マジックでも見ているかのように小さなカバンから荷物を引っ張り出していく。


「おおっ!!」


 エドガーは思わず声が出てしまった私の視線を追い、その原因が分かったのか再び周囲の警戒に戻る。引っ張り出した荷物は二つ目のテントだったようで、サイラスとケニーも再びテントを組み立て始めた。

 次々と謎アイテムが出てくるので見ていて楽しいが、ふと思う。私の今晩のご飯はどうなるのだろう。馬車に乗せてもらい寝床を準備してもらい、その上ご飯まで呼ばれるのは少し気が引ける。かといって子供だけほったらかして、自分たちだけ食べるような不人情な人たちではないと思う。お金があれば払いたいが現在の私は素寒貧。払いたくても払えない。

 どうするか悩むが答えは出ないので、取り敢えず少しのご飯で大丈夫なようにお腹を膨らませる事にする。アイテムボックスにはまだ拾っておいた食材はあるので、謎の果実を引っ張り出して噛り付く。


 シャリシャリ……。

 ふと気がつくと、エドガーが私を見ていた。


「嬢ちゃん、何喰ってるんだ?」

「森で拾ったんですけどエドガーさんも食べます? あんまり美味しくないですけど」


 一つ取り出しエドガーに差し出す。一瞬ビクッとしたエドガーは恐る恐る果物を受け取る。


「待て。今何処から出した?」

「え? アイテムボックスですけど」


 視線を果物にやり、ゆっくりと噛り付くエドガー。美味しくなかったのか渋い顔になってしまった。


「二人で何食べてるんだい?」


 馬の世話を終えたのかプッチがこちらに歩いてくる。


「森で拾ったんですけどプッチさんも食べます? あんまり美味しくないですけど」

「待てっ! 嬢ちゃん!」

「へ?」

「ルミちゃん! 腕が……」


 エドガーがあちゃーという感じに頭に手をやる。私は待てと言われたから動きを止めているが、プッチはアイテムボックスに突っ込んで消えた右腕を見て驚いている。確かにこのままでは気持ち悪いのでゆっくりと引き抜き、取り出した果物をプッチに差し出した。


「アイテムボックス……」

「ええ、この嬢ちゃんレアスキル持ちですよ」


 プッチも一口果物を嚙り渋い顔だ。


「嬢ちゃん、レアスキルはあまり人前で見せない方がいい。色んな奴が利用しようと寄ってくるし、最悪命を狙われるぞ」

「そうだね、悪用しようと思えば色々使い道はあるスキルだから、自分の身を守れるようになるまでは秘密にしておいた方がいい」

「そんなに珍しいんですか? さっきテントもあの小さなカバンから出てきましたけど?」

「アレはそういう道具だからいいんだよ! それにアイテム袋も結構レアな道具なんだぞ」


 違いがよく分からないな。もう少し話を聞きたかったのだが、晩御飯ができたというので話を打ち切られてしまった。

 皆が集まったところで車座になり食事を開始しする。無事に私の分も用意されており、メニューはベーコンと野菜のポトフに乾燥した硬い黒パン。シンプルすぎて物足りなかったが、皆モリモリと食べていた。

 食後は少し談笑し、夜の見張りは冒険者組に任せ鉄具屋と私はテントで休ませてもらう。日が沈んでそれほど経ってはいないので眠たくは無かったが、横になり目を閉じているといつの間に眠っていたのか、気が付いた時には外で太陽が昇り始めていた。

感想、レビュー、誤字、評価、その他、いただけると私の鼻息が荒くなり投稿スピードが3倍になります。

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