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5 第一村人

 ……ガタゴトガタゴト。


 徐々に音の発信源は近づいてくる。

 ウトウトしていた私も、大きくなってきたその不自然な音に気が付き顔を向ける。そこには私の待望の一団がゆっくりと此方へ向かって来ているのであった。


「あっ!? 第一村人発見!!」


 音の正体は二頭の馬が引く幌馬車であった。

 近付いてくる異世界第一村人の一団は、二台の馬車を列にしてのんびりと平原の道を進行していた。周りにも複数の人間が馬車を守るように歩調を合わせて歩いており、漸く人の存在を見つけた私は嬉しくなって道の真ん中に飛び出す。先頭を歩くスキンヘッドの男がそんな私に気が付いて周囲に向かって声を上げた。


「ちょっとストップだ! 止まってくれ!」


 何だ、どうしたと周りにいた人間も此方に気付き注目が集まる中、スキンヘッドの男は背中に担いだ得物の握りに右手をやり周囲を警戒し始めた。様子のおかしいスキンヘッドに私も近づくことができず、私と一団との間に距離は保たれたままスキンヘッドが訝しむように私へ視線を向ける。


「おい嬢ちゃん、こんな所で何をしてるんだ?」

「何をして? えっと、そこの木の所に座って人が通るのを待ってたんですけど」

「待っていただと」


 私の言葉を聞いたスキンヘッドは、自身の背中からゆっくりとした動作で得物を正面へ持ち直した。それによりスキンヘッドの体に隠れていた武器がその全容を現す。見ただけで分かるほどの重量感がある両手持ちの戦斧。それを持つ両腕は筋肉が盛り上がっているが、その筋肉モリモリの腕で構えた戦斧で私をどうしようというのだろうか。

 ヤバい気配を漂わせたスキンヘッドが一歩二歩と此方へ向って前進しだした。


「ちょ!! ちょっと待って!!」


 両腕を突き出し「待て」のジェスチャーをしながら後退るが恐怖で足が縺れて尻もちをついてしまった。

 止まれと念を送りながら両腕を突き出し続けるがスキンヘッドは止まらない。


「嬢ちゃん、人が通るのを待っていると言ったな。人が通ったらどうするんだ? 仲間でも呼ぶのか?」

「へ? 仲間?」

「素直に話すなら殺しはしない。他の奴らは何処にいる?」

「いやいや、何の話よ。仲間なんていないから!」


 仲間も何も初めて会った人間は、今まさに私の頭をかち割ろうとしているスキンヘッドなのに何を言っているのだろうか?

 スキンヘッドは私の言った言葉の真偽を見極めるよう、ジッと此方の様子を窺っている。


「じゃあ嬢ちゃんはこんな所で何してるんだ?」

「いや、だから人が通るのを待っていたんですけど……」

「……」


 先程と同じ答えを返したら眉間のシワが深くなった。このままでは頭をかち割られてしまう。


「ちょっと道に迷ってしまったんで、道を聞ければなーと思いまして」

「こんな所でか?」


 辺りを見回すが見晴らしの良い平原が一面に広がっている。道も縦に伸びる一本道だ。こんな所でどうやって迷うんだと私の言葉を怪しむスキンヘッド。このままでは頭をかち割られてしまう。


「そうなんです。気が付いたらこんな所に居て、道も分からず一人きりで、私……グスッ」


 わざとらしく品を作り泣き真似ををしてみる。チラッと上目遣いでスキンヘッドの様子を窺うが眉間のシワは相変わらずだ。


「……。おいっ、そっちは何か気配はあるか?」

「いえ、この辺りに人の居そうな感じはありませんよ」

「そうか」


 馬車周辺に居た人たちも私の様子に警戒したのか、各々武器を構えて周囲を探っていたようだ。辺りに何もなさそうだという事が分かったのか皆は武器を仕舞う。


「道を聞くって、嬢ちゃんはこれからどうするんだ?」

「取り敢えず何処か近くの町へ行ければと思ってたんですけど」

「家は何処にあるんだ?」

「家ですか? 家には多分……二度と帰れないです」


 何度も死に戻りした今なら分かる。最初に神の所へ行った時も、私は命を失いあそこへとたどり着いたのだと。私はあの夜に電車に巻き込まれて死んでしまったのだろう。思い返すと嫌な死に方をしてしまった。賠償金とか大丈夫だろうか。お父さんお母さん、最後まで迷惑かけてゴメンナサイ……


「此処から二日行けば町に着くが……」


 本当に泣きそうになってしまった私に気遣ってかスキンヘッドは家の事についてはそれ以上聞いてこず、未だ地面に尻もちをついたままの私へ手を差し出してきた。


「ちょっと付いてこい」


 手を掴んで引っ張り起こされ、そのまま私は連行される。

 並んで歩いて改めて感じたのだがこのスキンヘッド、滅茶苦茶デカい。身長が二メートルを遥かに超えている。ズルズルと引き摺られるように彼の仲間たちが居る場所へと連れていかれ、更に驚く。細身の兄ちゃんも髭面のおっさんも、そこにいる人間は皆が滅茶苦茶デカかった。全員が二メートルを超えていた。


「プッチさん、ちょっといいか?」

「外に出ても大丈夫そうかな。どうしたんだい?」


 スキンヘッドが声をかけると、皆で守るようにしていた馬車の中から一人の男性が顔を出した。プッチと呼ばれた男性は優しそうで、少し頼りなさそうな風貌をしている。ヒョロヒョロなのにこの人もデカい。

 皆が何故こんなにデカいのか、その疑問を持った直後、答えは発覚した。


「この嬢ちゃんなんだが迷子らしい。近くの街まで行きたいそうなんだが、子供一人だと危なくてな」


 驚いた私は遥か頭上にあるスキンヘッドの顔を見上げる。今、私の事を子供って言ったよな。スキンヘッドに掴まれたままの私の腕を確認すると、そう言われれば私の腕は子供っぽい肉付きをしていた。髪が真っ白になっていたのは流石に気が付いたが体が小っちゃくなっていたとは。改めて自身の体を見直し、目線は胸元へ行くが……うん、小っちゃくなっていることに全く気が付かなかった。


「こんな所で迷子かい? うーん……そうだね。お嬢ちゃん、名前は何て言うんだい?」


 プッチの質問に逸れていた思考が戻る。そして思わずため息をつきそうになる。異世界でもやっぱりこの質問はされるのか。

 人と人がコミュニケーションを図る際に最初に行う名乗り合うという行為を、私は前世から苦手としていた。


「……玉緒です」


 武田玉緒。それが私の名前。子供の頃からお婆ちゃんみたいな名前と言われ恥ずかしかった。それがあって自分の名前を名乗るとき、何時も少し躊躇してしまう。因みにお兄ちゃんの名前は武田新右衛門だ。友達からは坊主が出てくるアニメの影響で『新右衛門さん』と必ずさん付けで呼ばれていた。

 何故自分の子供にこんな名前を付けたのか、両親のセンスを疑う。


「タマオデスさんか、変わった名前だね」

「いや、タマオデスじゃなくてタマ……」


 ああ、そうか。別に前世の名前を名乗る必要はないのか。

 お父さんお母さんゴメンナサイ。私は異世界で新しい名前で生きていきます。

 その時、サラリと肩から流れる真っ白な髪が目に入った。


「私の名前は『ルミ』です!」


 元気いっぱいで新しい名を答える。それはフィンランド語で雪を表す言葉。雪と書いてルミと読むキラキラしたパターンのアレだ。子供ができた時に名付けようと考えていた候補の一つだが自身で名乗るとは思わなかった。いやー、役に立ってよかった。


「ルミさんだね。僕たちはこの先にある街に向かっているんだが、子供一人じゃ危ないし一緒に行かないかい?」

「はい、よろしくお願いします」


 プッチは私を御者台に乗せ、自身も隣に乗り込み手綱を握る。


「よし、じゃあ行こうか」


 周りに声を掛け、私を含めた一団はまたゆっくりとした足取りで町までの道中を進み始めた。

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