4 転生Ⅲ
「うーん……」
意識が覚醒していく。
最早見慣れた景色が眼前に広がっている。と言っても光は一切無く何も見えないのだが……。
「よっこいしょ」
立ち上がり周囲を確認。四方の壁は淡い光を放っており相変わらずの幻想的な空間だが、本日三度目となる私の感動は半減のさらに半減で四分の一になってしまっていた。
私は異世界へ何をしに行っているのだろう。魔法を使う度に周囲を道連れにしてこの部屋へ戻ってきているが、魔王を討伐するまで私はこのカミカゼアタックを繰り返さないといけないのだろうか。
その時、部屋に声が響いた。
「目が覚めましたか、旅人よ」
「神様、質問があります!!」
私はピンと右手を伸ばし虚空に向かって声を上げるが、ボットと化した神様に私の声が届くことは無かった。
「ここは神の回廊。貴方が住んでいた地球から我が司る星ミルアースへと生まれ変わる魂が、ほんの一時だけ留まる次元の狭間」
やっぱり無駄か……。
定型文の説明を聞きながら私は部屋の中央へ。
「お願いします。ミルアースを……」
腕を組み話が終わるのを待っていると、床からニョキっと台座が生えてきた。
「中央の台座の前へ」
既に所定の位置にスタンバイ済みでも再生される音声に変わりはないようだ。
ため息をつきながら質問を淡々と消化していく。
◇
質問
好きな食べ物は?
1、肉
2、魚
3、野菜
この質問何か意味があるのかな? 今までは1番を選んでいたが2番にしてみる。
さらに次の質問も消化していよいよ最後の質問。
最後の質問
貴方が求めるものは?
1、立ち塞がる障害を断ち切る剣(選択済み)
2、壊れる事のない鋼の体
3、全ての人に与える癒し(選択済み)
4、圧倒的な魔力(選択済み)
前回でも変化のあった最後の質問。今回も変化があり更に選択済みの選択肢が増えていた。1番と4番は私が選んだ事のある選択肢。3番は選んだ事はなかったが選択済みになっている。
2番以外に指で触れていくが何も反応は無い。仕方なく残された最後の選択肢に触れる。
「それでは準備が整いましたので、そちらの道を進んでください。どうかミルアースを。そして良き人生を」
またこの部屋に戻された時、この最後の質問はどうなっているのだろうか。死んでしまっても……次は本当にあるのだろうか?
異世界へと続く道が現れた。不安が湧き上がる気持ちを押さえ、神様の声を背に重い足取りで新たな道を進み始めた。
ザザーン……ザザーン……
歩いていると突然景色が切り替わり、目の前が青一色に変わった。いや、青色だが真ん中から上下で色が分かれている。
そして香る磯の匂い。聞こえてくる音は波の音か。澄み渡る青空と深い青色をした海の景色が美しく、暖かな海風が現代社会に疲れた私を癒してくれる。
足元を見ると私の足の数センチ先から地面は無くなり、三十メートル下で岸壁に波がぶつかり白い水飛沫を上げていた。
「ひぃぃ……」
慌てて後退った為に足が縺れて後方へ転倒したが、その勢いのまま転がって崖っぷちから距離を取る。
危なかった。ぼーっとしてあと一歩足を踏み出していたら崖下へと転落していた。次は死に戻りできるか分からないとか思っていた直後にこの仕打ち。神様は完全に私を殺しにきているだろこれ!
危機一髪のピンチを乗り越えバクバクする心臓を落ち着かせながら周囲を確認する。片側は一面の海、反対側は脛丈の雑草が茂る平原が広がっていた。これまでの鬱蒼とした森の中と違い世界の大きさを感じられる風景だ。
このスタート位置の違いは何なのだろう。まさか質問であった好きな食べ物の違いでスタート位置が変わってるとか。肉好きは森で魚好きは海、じゃあ野菜好きは何処だ。野菜は作物だから人里スタートとかありえそう。野菜が正解だったか。
よく分からない考察はこの辺りにしておいて、体についた砂を払って行動を開始する。周囲には相変わらず人の痕跡は見当たらない。左右の海岸沿いを見てみるが此方を進むのは足場も悪そうで、山などもあり見晴らしは良くない。漁村が見付かればいいが、こんな歩きにくそうな道中で人に出会える可能性は低く思う。遠くまで視界の利く平原を歩いて人を探す方が良いだろう。
「さて、行きますか」
方針の決まった私は最後にもう一度海の景色を眺めてから、海に背を向けて歩きだした。
二時間くらいは歩いただろうか。平原は起伏もなくかなり先まで視界がきくので、途中何度も野生の動物を発見した。遠目に見ても大型の動物と分かるそれらに鑑定してみると、赤い文字で何たらバッファローやら何たらタイガーやら見たことの無い名前ばかりが浮かび上がる。とりあえずどれが危険な動物かは分からないので迂回して近づかないように進む。幸いにも襲われることなく進むことができ、私は漸くそれを発見した。
「これ道だよね」
現代人の私には絶対にそうだと言い切ることが難しい道のようなもの。車二台がギリギリすれ違える程度の幅だけ雑草が薄くなり、平原を分断するように上下へ伸びていた。これが道なら何方へ進んでも人の暮らす場所へ行くことができるだろう。ただ現状の装備がワンピースと皮のブーツのみという事を考えるとなるべく早く人里へ行きたい。人が通るのを待つか、適当に進むか。
んーっと悩んでいると近くにある一本の木が目に入った。
「取り敢えず休憩するか」
ずっと周囲を警戒しながら歩きっぱなしだった。木の根元に腰を下ろし一息つくと体が疲れていた事を実感する。此方に来てから何も口にしていなかったとアイテムボックスから適当に一つ果実を取り出す。
「すっぱ」
リンゴのような見た目の果実は味は兎も角、多く含んだ水分が喉を潤してくれる。むしゃむしゃと一つ平らげ、アイテムボックスからもう一つ適当に果実を取り出す。
「すっぱ」
モモのような見た目の果実は味は兎も角、多く含んだ水分が喉を潤してくれる。むしゃむしゃと一つ平らげ、食欲も無くなったので空を見上げぼーっとする。危険な場所だという事は理解しているが暖かな気温に緑の香るそよ風が気持ち良い。
……ガタゴトガタゴト。
疲れた体に空腹感が満たされたことでウトウトしていた私に、その音は近づいて来るのだった。
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