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3 転生Ⅱ

「うーん……」


 意識が覚醒していく。

 さっきのは何だったのだろうか。不思議な体験をした記憶はある。だがそれが夢か現実なのかハッキリしない。

 深く考え込んでいたからか、もしくは目の前に映る景色に情報量が少なかったからか、暫くしてから私は仰向けに倒れているのだと気が付いた。


「よっこいしょ」


 掛け声と共に体を起こし周囲を確認する。そこは間違いなく私が見知った場所だった。


「目が覚めましたか、旅人よ」


 部屋に響く声。キョロキョロと部屋を見回すが誰もいない。


「ここは神の回廊。貴方が住んでいた地球から我が司る星ミルアースへと生まれ変わる魂が、ほんの一時だけ留まる次元の狭間」


 前回聞いた説明。周囲は淡く光り空は吸い込まれるような闇が広がっている。私は以前に今と同じ体験をし、そして此処から異世界へと旅立った記憶がある。あの経験は一体……?


「お願いします。ミルアースを救って下さい。今から二十年後、ミルアースに魔王が誕生します。そして終末に向かう戦いが、世界各地で巻き起こります。戦いを収めるためにはあなた方、地球からの旅人の力に頼るしかないのです。どうか、どうか我が子らを助けて下さい」

「神様! あの、さっき私は……死んでしまったのでしょうか!?」


 本当に私は死んでしまったのか?

 神様が見せた、ただの夢だったのか?


「ミルアースは地球と違い、魔法とスキルが存在する世界です。此処、神の回廊は神と魂が触れ合える唯一の空間。神が生まれ変わる魂に直接力を与えることのできる唯一の空間なのです」

「神様、あのー質問が……」

「中央の台座の前へ」

「……」


 私の質問には答えず淡々と話を進める神様。中央の台座に近付くと台座から光が飛び出し、空中にスクリーンを作り出した。そういえば前回質問した時も無視されなかったか?


『これからいくつかの質問をするので、画面をタッチして答えてね☆』


 私ははいをタッチする。


 質問

 貴方は森で魔物に遭遇、どうする?

 1、逃げる。

 2、様子を見る。

 3、魔物は人類の敵。魔物は瘴気から生まれ、魔物からは瘴気が生まれます。放置するといずれ取り返しのつかない事態になりますので、見つけたら討伐しましょう。


 3番をタッチ。



 ◇



 前回と同じ設問が続く。次が最後だ。


 最後の質問

 貴方が求めるものは?

 1、立ち塞がる障害を断ち切る剣

 2、壊れる事のない鋼の体

 3、全ての人に与える癒し(選択済み)

 4、圧倒的な魔力(選択済み)


 最後の質問になって初めて変化があった。質問自体は前回と同じだが下二つの選択肢に文字が追加されている。私は前回と同じ4番にタッチしてみるが反応は無く、続いて3番にも触れてみるがやはり反応しない。


「神様?」

「……」


 やはり反応は無い。神様に聞くことは諦めて質問に向き直る。選べない理由は何なのか。そもそもこの選択肢は重要なのだろうか。まぁ考えても答えは出ないし1番にしておこうかな。もしかしたら質問の内容的にエクスカリバーでも貰えるかもしれないし。1番をタッチ。


「それでは準備が整いましたので、そちらの道を進んでください」


 部屋に響いた声と同時に目の前の壁が霞んで消え、ずっと先へと続く道が現れた。前回と一緒だ。

 どこまでも続くこの道の先に、私の新しい人生があるのだろう。


「どうかミルアースを。そして良き人生を」


 私はその声を無視して新たな道を進み始めた。




 歩いていた私の目の前に突然、薄暗い森が現れた。濃い緑の香り、少し肌寒い空気。右も左も後ろも薄暗い森。

 前回とは違い空は晴れ、森には陰鬱とした雰囲気はない。

 周囲の状況を確認する。相変わらずの森の中、私は一人佇んでいる。装備も前回同様コンビニに行くときのような軽装。使えそうな装備も所持していない。


「スキル、鑑定」

『草、名もない雑草』


 足元の草を見ながら鑑定を使ってみたが無事に発動した。

 次のスキルを試してみる。


「スキル、アイテムボックス」


 私の伸ばされた手がどこか別の空間へと飲み込まれる。その中にそれは在った。


「……」


 木の実、キノコ、まだ熟れていない未熟な果実。私がこの世界に来て拾った物だ。記憶にあったあの体験は間違いなく起こったものなのだろう。先程まではどこか夢の出来事のような感覚があったのだが、私の体は痛み、苦しさ、死という記憶を思い出してガクガクと震え出した。

 動けなくなった私はその場に座り、震えた体を落ち着けるように自分自身の体を抱きしめる。この場所は決して安全ではない。早く行動を開始しないといけない。


 暫くして漸く落ち着いた私は、もう一度アイテムボックスに手を突っ込み中に在る物を確認する。さっき手を入れた時は動揺して全てを確認できなかったので確認しなければならない。私の望むアレ、そうアイテムボックスの中に在るはずのエクスカリバーの存在を。


 目を閉じ中を漁っていた私の目がカッと見開かれる。

 ゆっくり別次元から引っ張り出される私の手。その手には握られていた。一本の逞しい……キノコが。


「何の武器も入ってないじゃない!!」


 荒ぶる感情のまま手に持ったキノコを地面に叩きつける。フーフーと呼吸を荒くしながら体を震わせる。

 最後の選択肢は何だったのか。これで魔法まで使えなくなっていたら状況は前回より悪化している。

 魔法を試すのは前回の事もあって怖い気持ちはあるが、今の内に試しておかないと何かが起こってからでは遅い。私は右腕を前に出し、成るべく安全そうな魔法を思い浮かべながら唱えた。


「シールド」


 何も起きない。不発かと思ったその時、すぐ目の前で何かがキラッと光を反射した。よく見てみると透明な壁が私を守るように形成されていた。左右に移動してみると一定の距離を保つように私の体の前方に浮かんでいる。5分くらい経つと空気に溶けるように壁は消失していった。


「魔法は使えそうね」


 前回と状況は変わらないようだ。ただ太陽は真上にあるのに気温は低く感じる。早めに拠点とする場所を決めないと、この格好では耐えられないかもしれない。


「鑑定、鑑定、鑑定」


 前回の持越し分もあるので程々に食料を探しながら進んでいると、またしても奴が私の前に現れた。


『フォレストウルフ』


 鑑定に引っ掛かり赤色の文字で表示されたその名前は、私の前方二十メートル程先で此方を睨んでいた。更に今回は。


「一、二、三、四……五」


 五頭のフォレストウルフは全員グルルルと唸り声を上げ、私を獲物として狙いを定めているようだった。三頭は真っ直ぐ此方に歩き出し、左右の二頭が少し回り込む様に広がりながら近づいてくる。相手は殺る気満々だ。戦うしかない。

 私は両腕を前に突き出した。ファイヤーボールはダメだ。アレは怖くて使えない。何か火とは逆の範囲を攻撃できそうな魔法は……。

 大きく息を吸い込み、頭に思い浮かんだ魔法をそのイメージのまま言葉にし力を爆発させる。


「ブリザーーード!!」


 静かな森に私の叫び声が響き渡った。



 ◇



「ダメだな……」


 どれくらいの時間が経ったか。それ程の時間は経ってはいないと思うが、私のブリザードは止まることなく私の両腕から吐き出され続けていた。フォレストウルフはとっくに居なくなった。最初の数秒、放たれた冷気が一撫でしただけでフォレストウルフは凍り付き、吹き荒れる暴風が粉々に砕いて塵に変えた。

 周りの草木も全て砕け散った。私の周囲は荒れ狂う吹雪で視界が真っ白になり塞がれているが、私を中心とした半径二メートルだけは何事もないかのように守られている。


 何故こんなことになってしまったのか。理由は簡単だ。発動させた魔法の止め方が分からない。

 両腕から垂れ流す荒れ狂うブリザードは、次に破壊するものを求めて私の周囲に渦巻いている。だがそれももう終わりだ。私には分かる。私の中に在るエネルギーの最後の一滴が放出されようとしている。

 その後、私はどうなってしまうのだろうか。思い出される前回の記憶。

 怖い。涙で視界は霞み、右の鼻から鼻水を垂らす。だが両手はブリザードを出すのに忙しく動かせない為、その鼻水を拭うこともできない。


「あっ」


 終わった。最後の最後までエネルギーを使い切った。

 ブリザードは止まり、体の力が抜け糸が切れた人形のように膝からその場に崩れ落ちた。途端、私の周囲を守っていた壁もシャボン玉が弾ける様に消え去り、嵐の中心点に居た私の元へとブリザードは逆流してくる。

 瞬きしようにも凍り付き目が開けられない。呼吸したくても鼻も口も凍り付き息が吸えない。

 痛みも寒さも感じない。一瞬で感覚が凍り付いた。

 壊すものが無くなり私の周囲を彷徨っていたブリザードは、私の体を一撫でするだけで凍り付かせ粉々に砕いていった。


 私の体はサラサラの雪になり、夢が広がる私の第三の人生は終わったのだった。

感想、レビュー、誤字、評価、その他、いただけると私の鼻息が荒くなり、投稿スピードが3倍になります。

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