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1 神の回廊

「うーん……」


 意識が覚醒していく。

 目を開けると、吸い込まれるような暗闇が眼前に広がっている。パチパチと幾度か瞬きをし、私はようやく自分が床に寝ているのだと気が付いた。


「よっこいしょ」


 思わず漏れる、年齢を感じさせる掛け声を無意識に発しながら、体を起こし辺りを見回す。少し大きめの部屋。部屋なのか?出入りできる扉などは見当たらない。

 四方を囲む壁は二メートル程で、その壁から上には何もない。天井も星も何も確認できない。暗黒が広がっていた。

 床はツルツルしていて硬い素材、大理石のような物でできている。壁も同じ素材だろう。何故判断できるのかというと、うっすらと緑色に発光していたからだ。部屋全体が光を放ち、空の闇との境目をくっきりと浮かび上がらせていた。幻想的な雰囲気が、状況を理解できていない私を余計に不安にさせる。


「何なの、此処……」

「目が覚めましたか、旅人よ」


 私の呟きに答えるように、部屋に声が響く。キョロキョロと部屋を見回すが誰もいない。


「ここは神の回廊。貴方が住んでいた地球から我が司る星ミルアースへと生まれ変わる魂が、ほんの一時だけ留まる次元の狭間」

「次元の……狭間」


 謎の声の話は続く。


「お願いします。ミルアースを救って下さい。今から二十年後、ミルアースに魔王が誕生します。そして終末に向かう戦いが、世界各地で巻き起こります。戦いを収めるためにはあなた方、地球からの旅人の力に頼るしかないのです。どうか、どうか我が子らを助けて下さい」

「いや、助けるって……どうすればいいの?」

「ミルアースは地球と違い、魔法とスキルが存在する世界です。此処、神の回廊は神と魂が触れ合える唯一の空間。神が生まれ変わる魂に直接力を与えることのできる唯一の空間なのです」


 なるほど。力を授けてくれるのか。

 神様から与えられた特別な、圧倒的な、世界を救えるほどの力を使って、二十年後に生まれる魔王を何とかしろと。




 ベタやな、オイ!!




 あまりにもありふれた設定に、生まれも育ちも大阪、ちゃきちゃきの関西人の私は思わず声に出して神様にツッコミを入れそうになる。

 危ない、危ない。過去、目上の人にツッコんだら怒られたことは、両手の指では足りない。今、この神様がそういうノリを欲しがっていない場合は命取りになる。人生経験豊富な私は、眉間にシワを作り下唇を噛みしめ、何とか堪えた。


「中央の台座の前へ」


 声を聴き、部屋の中央へ視線を移すと、そこには先ほどまでは無かった台座が地面から突き出ていた。声に従い、私は台座へと歩み寄る。側まで寄り、腰の高さくらいあるそれを上から見下ろすと、中央部に小さなレンズのような物。初めはぼうっと赤く光っていたレンズは徐々にその光を強めていく。どうなるのかと真上から覗き込んでいたら、一際強く輝いた瞬間、質量を持った光となってレンズから飛び出し、私の眉間を貫いた。


「あぢーー!!」


 タバコを押し付けられたような熱と痛みに驚いた私は、仰け反った勢いのまま仰向けに倒れ、のたうつ。

 突然の神様からの根性焼きに驚いたが、眉間に穴は開いていないし、血も出ていないようだ。

 涙を浮かべながらあの光は何だったんだと台座の方を見ると、光の線が空中で留まり、ウネウネと動きながら形を描いていく。


 立ち上がった私の目線の高さで蠢く光が何なのかは、直ぐに理解できた。


「これからいくつかの質問をするので、画面をタッチして答えてね……星?」


 動きを止めた光は空中にスクリーンを作り出し、そこに見慣れた日本語が浮かび上がっていた。答えてネ☆と、語尾の緊迫感の無さが気になるが、画面下部にある「はい」「いいえ」の選択肢から「はい」に手を伸ばす。


 質問

 貴方は森で魔物に遭遇、どうする?

 1、逃げる。

 2、様子を見る。

 3、魔物は人類の敵。魔物は瘴気から生まれ、魔物からは瘴気が生まれます。放置するといずれ取り返しのつかない事態になりますので、見つけたら討伐しましょう。


 ……何だ?3番の選択肢だけやけに長いな。説明が入っているし、質問というより指示するような文章だ。神様は魔王を倒す人間を呼んだと言っていたし、とりあえず3番を選んでおくか。


 3番をタッチすると、次の質問が浮かび上がった。


 質問

 街で獣人の少女が人族に虐められてる、どうする?

 1、人族至上主義。虐めに参加する。

 2、見て見ぬ振りをする。

 3、魔王に対抗するには全ての種族の協力が不可欠。各種族間の偏見、差別は存在しますが、それでは此度の戦いに勝つことはできないでしょう。来るべき日に備え、良好な関係を築き上げましょう。


 ……獣人いるんだ。神様の意を汲んで3番をタッチ。


 質問

 森でカラフルなキノコを発見、どうする?

 1、食べる。

 2、食べない。

 3、そんな時はコレ!スキル・鑑定!世界の深淵に語り掛けることで、貴方の望む答えを得ることができる。


 ……特典スキルの説明かな?あったら便利そうなので3番をタッチ。


 質問

 市場で買い物。お買い得品を見つけたが両手が塞がっている。どうする?

 1、一度家に帰り、また来る。

 2、諦める。

 3、そんな時はコレ!スキル・アイテムボックス!持ち運び不要、何でも入る(生き物除く)。容量特大、時間停止機能付き。


 ……二大ベタスキルやな。3番をタッチ。


 質問

 性別は?

 1、男

 2、女


 ここに来て、初めて私に選択権がある質問が来た。

 シンプルだけど悩ましい質問だ。おそらく転生先の私の性別だろうが、神様の話から命懸けの戦いをさせられる事になるであろうと思われる。身体的には圧倒的に男の方が有利。


 ……分かっている。世界を救う崇高な使命、全力を尽くすべきだろう


 でも!それでも!私には前世でやり残したことがある!三十八年間、最後まで経験する事は無かった……。

 私は白馬に乗ったステキな王子様と結婚したいです!

 前世では結婚はもう無理だと思い、独りの方が気楽だからとか周りには言っていましたが、見栄張っててすいません……。

 次の人生に思いを馳せ、口元に薄く笑みを浮かべながら2番をタッチ。


 質問

 好きな食べ物は?

 1、肉

 2、魚

 3、野菜


 ……1でいいか。1番をタッチ。


 質問

 好きなタイプは?

 1、オラオラ系

 2、さわやか系

 3、インドア系


 かーっ!神様よ、これはまた難しい質問やな!

 この質問の意図は何なのだろうか?神様の質問という事を考えると、転生の特典として選択肢の男性が用意されている可能性がある。そうだとすると、ここが私の人生のターニングポイントだ。慎重に選ばなければならない。

 異世界オラオラ系といえば、まず思い浮かぶのが帝国の皇帝だろう。人類の存亡をかけた戦いに立ち上がった皇帝、その傍らには私。お互いに助け合いながら深まる絆、芽生える密かな恋心。

 ええやん。アリやな。

 ただ、これは理想のオラオラ系だ。もう一つ思い浮かぶ異世界オラオラ系といえば、冒険者ギルドに初めて訪れた際、出現する下っ端冒険者だ。


「ここはお嬢ちゃんが来る所じゃないぜ。ぎゃはははは」


 主人公の肩に置いた手を払われ、ワンパンされる下っ端冒険者。その数日後。


「あいつ、例の街道に現れたワイバーンに殺されたってよ」

「あいつもツイてないな……」


 このパターンも十分あり得る。私の2度目の独身生活が、知らぬうちに確定しているかもしれない。まぁ、それはどの選択肢を選んでも一緒か。流石に相手を特定する情報が少なすぎる。そもそもミルアースとはどういう所なのだろうか?


「神様、質問なのですがミルアースの文明レベルはどの位なのでしょうか?」

「……」

「神様、あのー質問が……」

「……」


 クソッ!無視かよ!異世界助けてやらねぇぞ!

 暫くウーンウーンと唸りながら悩み、漸く決断をする。手を伸ばし2番をタッチ。さわやか系を選んだ理由はハズレが少なそうだから。ベストな選択よりもベターな選択を。私は大人の女だからね。


 最後の質問

 貴方が求めるものは?

 1、立ち塞がる障害を断ち切る剣

 2、壊れる事のない鋼の体

 3、全ての人に与える癒し

 4、圧倒的な魔力


 ……選択肢を見た私は一度大きく深呼吸。うんと頷き、手を伸ばして4番の選択肢に触れた。


 うおーっ!未知のエネルギー、魔力キターッ!

 幼い頃、誰もが憧れる魔法少女。当然私も憧れた。魔法少女がプリントされたパンツを履くくらい大好きだった。

 参ったなー!次の人生は魔法少女かー!とんがり帽子と杖を買わないといけないなー!


「それでは準備が整いましたので、そちらの道を進んでください」


 部屋に響いた声と同時に目の前の壁が霞んで消え、ずっと先へと続く道が現れた。どこまでも続くこの道の先に、私の新しい人生があるのだろう。


「どうかミルアースを。そして良き人生を」


 浮かれ気分の私は、神様の声を背に軽い足取りで新たな道を進み始めた。

感想、レビュー、誤字、評価、その他、いただけると私の鼻息が荒くなり、投稿スピードが3倍になります。

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