怪ノ弐「鬼丸京介〜心霊相談請負事務所鬼取屋〜1」
眼を覚ました私の前には、真っ白に輝く蛍光灯があった。あまりの眩しさに、一度開いたはずの目蓋をまた閉ざしてしまった。
私は、今ベッドの上にいる。辺りを見渡すと、ここはどこかの医務室みたいだ。けど、私の学校じゃない。
何でこんな所で寝ていたんだっけ? 少しの思考の末、昨日の記憶が少しずつ甦る。
夜の学校、血塗れの教室、ぐちゃぐちゃに喰われる友達、皆を殺して喜ぶ、鬼丸先生……。
背筋に、悪寒が走った。
あの時、私はそこで死ぬんだと思った。
だけど、死ななかった。私の命を救ったのは、碧い悪魔になる前の、人間の姿をしていた鬼丸先生と同じ姿をしていた人。その人が、私を救ってくれた。
その人の姿も、何度か人とは思えないような姿に変わった。
紅い肌の鬼みたいな姿。
紅と碧が、入れ替わり立ち替わり私の前に現れていた。
……私が記憶の回想をしていると、ドアが開く音がした。
あの人が来たのかな?私の予想とは裏腹に、部屋に入ってきたのは、全然違う人。
歳は私と同じくらいで、艶のある黒い髪の毛を肩まで伸ばした、女の子。
彼女はニコッと笑いながら、私に話し掛けてきた。
「あら、目が覚めたんですね? 良かったです」
その言葉は柔らかくて、私を無条件に安心させてくれる。私が無言で頷くと、女の子は思い出したように話し始めた。
「すいません、自己紹介が遅れました。私、鬼丸舞と申します。宜しくお願い致します」
とても礼儀正しく舞さんはお辞儀をすると、私に向かって歩み寄る。よく見るとその両の手には、土鍋一杯に入ったお粥を持っている。
「未だ温かいので、良かったら頂いてください。ずっと起きなかったので、心配していたんですよ」
少し眉を下げて、舞さんはそう言った。そういえば、なんか知らないけど凄くお腹が空いている。
私は舞さんからお粥を受けとると一言「ありがとう」と言って、お粥を食べることにした。
「食べ終わったら其処に置いておいて下さい。暫くしたら取りに来ますか…ら」
舞さんはひきつった表情でこっちを見ている。どうしたんだろう?
私は舞さんに言われた通り指定された場所にお鍋を置く。
「ごちそうさまでした。」
そう一言添える私を、大分困惑した顔で舞さんは見ている。
「本当にお腹が空いていたんですね。結構作ったつもりだったんですけど、もうちょっと食べますか?」
舞さんがそう言うので、私はお言葉に甘えることにした。
舞さんは、眼を丸くしながら、部屋を後にした。