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鬼取屋  作者: 石馬
第弐幕「鬼取屋」
49/63

怪ノ漆「鬼丸舞〜紅鬼の妹〜1」

どうも、石馬です。


今回の話は、いつも影の薄い舞が主役です。

然し、先が全く見えないので何時終わるか分かりません。多分行き当たりばったりで話が進行していきます。


こんな作者ですみません(-_-;)


それでは、どうぞ( ̄ー+ ̄)

 ――――此処勝母之墓。


 祠には掠れた文字でそう記されている。

 石で出来ているはずのその祠は、粉々に破壊されていてた。


 雷でも落ちたのか、工事の最中に誤って壊してしまったのか、それとも誰かが、故意に打ち砕いたのか。

 どう破壊されたのかは定かではない。然しその祠の前には、一つの影があった。

 頭には顔を覆う巨大な笠を被り、旅の僧のような出で立ちのその影は、壊れた祠を見下ろしながら、何やらぶつぶつと呟いている。


「輪入道、折角封印から解き放ってやったのに、俺等の言う事を聴かないからこんな眼に合う。

 全く、此で貴重な戦力がまた一つ減ったな。

 まあ致し方ない、所詮は一介の物怪に過ぎなかったという事だ」


 影は言い終わると、何時の間にか姿を消していた。まるで其処には元々何もいなかったかのように、ただ静けさだけが流れていた。








 その日、鬼取屋の面々は何時にも増してやる気を削がれていた。

 輪入道の一件から数日が経ち、闘いの傷は確かに癒えた。然し輪入道の瞳を見た三人の魂は、未だに欠けたままだった。


「お兄さん、この資料に目を通して…………良いわ、私がやります」


 普段なら数十分で終わるであろう作業が、もうかれこれ二時間は進んでいない。堪りかねた舞が、一人で仕事をする始末だ。


「もう、だからあれだけ無理するなって言ったじゃないですか!」


 本当なら実の兄に言いたいその言葉を、誰に言うでもなく資料に向かって叫んでいる。


「まあ舞君、そういきり立つな。

 俺もこうやって手伝っているのだから」


 唯一無傷で帰還した吹雪だけが、舞の仕事を手伝っているのだが、何分長いこと事務所を離れていた身、その上慣れない事務仕事をしているのだ。正直、戦力にならない。

 舞の苛立ちはそろそろ限界に差し掛かっていた。

 こんな時に切丸がいれば、虐め倒してやったのに……なんて悪魔のような思考を奥に仕舞って、黙々と仕事に熱中する舞。

 そのスピードは吹雪の四倍はあるだろう。

 面白いくらいに仕事が減っていく。


「相変わらず有り得ない速さで仕事をするな、舞君は……」


「口じゃなくて手を動かしてください。あと、今ある仕事が終わったら一週間程休みにするんでその間にちゃんと元に戻ってくださいね、お兄さん!」

 

 吹雪に喝を入れつつ、京介にも厳しく当たる舞、仕事手が自分しかいないので当然といえば当然かもしれないが、然し幾ら何でも怒り過ぎだろう。


 京介は「解った」と一言だけ頷くが、やはりその声は上の空そのものである。

 これより凡そ三時間後、やっとのことで仕事は終わったのである。時刻は既に夕方から夜に変わろうとしている。

 ふぅ、と一息吐く舞だったが、夕食の準備をしていないことを思い出し、重い身体を無理矢理動かす。

 そんな半死半生状態の舞を見て、流石に吹雪も心配し声を掛ける。


「舞君、今日はもう良いだろう? 俺は其処まで腹を空かせちゃいないし、京介や切丸だって今は夕食処の騒ぎじゃない。

 無理してまで夕食を作る必要なんてないんじゃないのか?」


 然し吹雪のその考えは間違いだと、舞ははっきり理由付きで答える。


「駄目なんですよ、吹雪さん。だってどんなに体調が悪くても、夕食は絶対に食べるって聞かない美雨ちゃんがいるんですから。それに、美雨ちゃんは何故だか私の料理を気に入っていたりしますし…………。

 私も流石に今日はと思ったんですが、今日の昼頃に楽しみにしてると釘を刺されました」


 疲れきったと言いたげな表情で言う舞、然し吹雪は事の意味をあまり飲み込めていないようで、「そうなのか」とまるで他人事のように頷くだけだった。

 当然といえばそうだろう。吹雪は美雨がどれだけ食べる人間かなんて、全くわからないのだから。

 今日は簡単に出来るものにしよう、そう思って冷蔵庫を開けた舞は、愕然とした。


 空っぽなのだ。あるのはソースやドレッシングといった調味料の類いだけで、他に一切の食材がない。

確か昨日の買い出し当番は切丸だったはずだが…………。

 一瞬、彼女の中にこれ以上ない殺意が芽生えるが、考えみれば彼もまた魂が欠けている身、しかも彼は自分にこう言われたのだ。

 ――――絶対に生きて帰って来るなと、その命の一滴まで絞り尽くして来いと。


 それで一方的に彼を責めるのは、お門違いも良いところだろう。

 寧ろ今日まで食材がないことに気付かなかった自分や吹雪にこそ問題がある。

 身体の中の全ての空気を吐き出すような大きな溜め息を吐き、舞は吹雪に話し掛ける。


「ちょっと、冷蔵庫の中に何もないので買いに行ってきます」


 まるで亡霊のようにフワフワと事務所を後にする舞、そんな彼女に何か言っている声が聞こえたが、それはこの際全力でシカトした。


 部屋に一人―京介がいる―残された吹雪は、やれやれといった表情で、未だに終わらない自分の仕事を片付け始めた。








 買い物を終えた舞は公園のベンチに腰掛け、一時休憩していた。


 時刻はもう真夜中、だというのに、未だ動こうとせずにいる。

 今日は頑張ったのだ、このくらいの休憩で誰にも文句は言うまい、いや言わせない。

 そう心の中で呟く彼女の表情は、やはりまだ完全に疲れを抜ききっていない。

 季節は秋、そよぐ夜風は疲れて火照った身体を冷やしてくれる。

 頭の方も冷静を取り戻したようで、気付けばふと、考え事をしていた。


 兄のこと、美雨のこと、兄はあの娘を、どうするつもりなのだろう?

 別に美雨をこのまま事務所に置くこと事態に問題はない。寧ろ歓迎している。

 然し問題は兄、京介の方である。明らかに過去の自分と重ねている。だから放っておけない、そう思うのは何となく解る。

 然し、だからといってそれが彼女を自分の仕事場に連れていく理由に足るだろうか?

 最近の兄は、鬼丸京介は怪訝(おか)しい。この間の輪入道のことに関してもそうだ。

 大切なものをずっと手元に置いておく危険性を、理解していない兄ではないはずだ。


 なのにそれをしなかった。

 理由があるのか、それともないのか、それさえも曖昧で、今は二人して床に臥している。

 兄も解っているはずだ、今の兄では、その内彼女を危険に晒すことになると。いつか、彼女を失うことになると。兄は、あの人ではないのだから。

 それでも、兄は彼女を傍に置いておくつもりなのだろうか?


 そこまで考えて舞は立ち上がり、帰りの家路へと向かう。どうやら時間を忘れてしまっていたらしい。 時刻は夕食時を大幅に越えている。


 急いで戻ろうと、舞は走り出す。…………はずだったのだが、急に横から男性が飛び出してきて、すぐに止まってしまった。


「きゃっ!!」


 肩と肩とがすれ違い、舞の方はよろけるようにその場に倒れてしまう。


「おい気をつけろよ」


 男はただそれだけ言って、そそくさと足早に去って行ってしまう。

 女性を突き飛ばしておいて謝罪の言葉だけで済ますのは、人としておかしい気もするが、今の舞にはそんなことはどうでも良かった。

 それよりも、さっさと帰って飢えた小娘に餌をあげなくてはいけない。


 また立ち上がり、服に付いた埃を払って今度こそ帰ろうと、舞が歩き出す寸前、事件は起こった。


「あれ? お財布がない」


 確かにポケットの中に仕舞っていたはずの財布がいつの間にか無くなっている。

 いや、何時無くなったのかなんて、解りきっている。

 つい今さっき、肩がぶつかった、肩をぶつけてきたあの男、彼奴が財布を盗って行ったのだ。


「もう、いい加減にしてください…………」


 静かに、然し確かな怒りを声に込めて、舞は言った。

 もう一日が終わろうという頃、鬼丸舞の厄日はこうして始まった。


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