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鬼取屋  作者: 石馬
第弐幕「鬼取屋」
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怪ノ陸「神龍寺吹雪〜抜けば玉散る氷の刃〜5」

 ――――灼熱の、紅い紅い焔の中に俺はいた。

 此処は何処だ? 地獄か?

 いや違う、地獄の焔はこんなに温くない。

 じゃあ何で俺はこんなに苦しい?


 …………ああそうだ、俺は呑まれたんだ。輪入道の妖気の中に。

 油断した。美雨が危ねえと思ったから、柄にもなく必死になっちまった。

 いや、そりゃ言い訳か。畜生、ツイテねえ。まさか彼奴の眼を見ちまうなんて、本当に、ツイテねえ。

 まあ良い、一応次の手は打ってあるからな。










 ――――頼んだぞ、吹雪。








「任されたよ、京介」


 一閃、輪入道に一筋の光が射す。

 同時に巨大な皺だらけの顔に一本の切り傷が生まれ、血液が吹き出す。

 鯨のような叫び声が響き、輪入道は苦しみでのたうち回る。

 その巨大な車輪の前には、一人の青年が立っていた。


 闇夜でも煌めく銀色の髪、それとは対照的な、闇色の瞳、一見すれば女性とも見紛うような顔立ち、背は高いが、身体は細く弱々しさすら感じる。


 ――――神龍寺吹雪、彼の右手には薄暗く、鈍く輝く刃が握られていた。

 日本刀と呼ばれるその刃からは、ポツポツと雫が滴っている。


「血は要らない。だが命は戴こう。俺の仲間の命と引き換えに、貴様が死ね」


 言葉と共に、無限にも見える斬撃が輪入道を襲う。

 まるで皺を増やすように、炎に包まれた顔に刀傷が刻まれていく。

 其処から際限なく吹き出す血飛沫、辺りは血塗れの惨状と化している。

 然し彼の握るその刀には、一滴の血液も付着していない。刀から滴る雫が、全て洗い流しているのだ。


 彼の握る刀の銘を『村雨』という。

 常に剣先を滴るように雫が伝い、何を斬ろうともその刀身に血や油が付くことはない、霊剣の一種である。

 吹雪が刀を振るうと、ピシャンと雫が弾ける。

 それは余りに幻想的で、見る者を惹き込む何かがあった。

 先達の人々はその刀の美しさを、口を揃えてこう評した。


 ――――抜けば玉散る、氷の刃と。


「――――神龍寺流……」


 不意に呟く吹雪、気付けば村雨を鞘に仕舞い、次の剣撃の体勢に入っている。

 数多の傷を付けられた輪入道、妖魔としての本能は撤退を選択していた。然しそれ以上に屈辱の方が勝ったのか、苦悶の表情に怒りを乗せて、無謀にも吹雪に突進していく。

 車輪を走る焔は一層激しさを増し、夜の闇を不気味に照らし出す。

 吹雪に到達するまであと数メートル、否、数センチメートルの所で、吹雪は動き出す。


「……『飛沫(しぶき)』」


 居合いの要領で村雨を抜くと、その勢いで村雨に付いた水滴が輪入道に向かってまるで弾丸のように撃ち放たれる。

 水滴の弾丸は集束し巨大な波となり、輪入道の焔を一瞬にして掻き消した。

 同時に、水に圧された輪入道は吹雪との距離を無理矢理に開けられる。


「神龍寺流……」


 またしても呟く吹雪。

 いつの間にだろうか、輪入道との距離はすぐ其処まで詰められている。正に、神速の太刀だ。


「『怒濤』」


 気合いの込められた声と共に繰り出される容赦なき斬撃、その速さは常人には見ることさえ、感じることさえ出来ないだろう。更には振るう度に弾ける水の弾が文字通り、怒濤の勢いで輪入道の肉体を死の淵に誘っていく。


「さて、そろそろ俺の仲間を返して貰おうか」


 言うと吹雪は村雨を天高く振り上げ、この戦いで初めて、両手で握る。

 そしてそれを思い切り、輪入道の頭部へと叩き付けるように振り抜いた。


 脳天から綺麗に、ぱっくりと開いた輪入道の頭の中から、気を失った京介と他二人が現れる。息はまだあるようで、三者共輪入道から解放された瞬間に身を捩ったり大きく咳き込んだりしている。

 …………最早、叫び声すら上げない巨大な車輪。真っ赤な噴水を上げて、とうとうその場に平伏した。






「全く………何時まで寝ている気だ? 京介、切丸」


 吹雪の掛ける声に、足下の二人は答えない。

 気を失っているのだから当然だ。吹雪は先ず切丸を担いで、奇跡的にも無事だった京介の車の中に彼を投げ入れる。

 切丸の身体ににまとわりついた血が車のシートを汚すが、まあ彼の物ではないので善しとした。

 次に京介を同じように担ごうとした時、吹雪はあることに気が付いた。

 そしてフッと、思わず笑ってしまう。


「京介、それがお前の、この職を続ける理由か?」


 何処か嬉しそうに、然し相手をからかうようにそんな一人言を漏らす吹雪。

 その足下には、しっかりと美雨の身体を抱いた、鬼丸京介がいた。


「全く、人の事をあれだけ変わらないと言っておきながら、お前はお前で相変わらずじゃないか。

 お前は昔とちっとも変わっちゃいない、ただの優男(あまちゃん)だよ」


 それは、否定というよりも寧ろ褒めているような、そんな口調だった。

 さてどうしたものかと、二人を見下ろしながら吹雪が思案していると、空気を震わせるような轟音が突然響いた。


「ほう、まだ息があったのか?」


 実を剥かれた栗のように開いた額から夥しい量の血を流しながら、最早死に体となった輪入道は吹雪に特攻した。


「しつこい奴だ。だが貴様のその生命力だけは、化け物じみていると賞賛してやろう。

 貴様に敬意を評して、俺も少し本気になってやる」


 吹雪がそう言った瞬間、彼の全身が何かに包まれる。

 蛇のように長くとぐろを巻いた、光の帯。その帯は吹雪の周りに顕れると、今度は彼に溶け込むように消えていく。次の異変は、彼の肉体だった。

 全身に走る刺青にも似た紋様、更に肌は蜥蜴の鱗のように硬質化している。

 瞳の色は深い闇色から淡く澄んだ蒼色に変わり、その額からは彼の肌と同じ色の湾曲した角が生えている。

 鬼にも見えるその容姿、然し彼は、鬼ではない。


「神龍寺流――――」


 そう、彼の姿はその名の通り、龍神の姿。


「――――『氷晶(ひょうしょう)』」


 突如として放たれた村雨の雫、それらの雫が輪入道の元へ届けられると、刹那全ての雫は凍結し、輪入道の身体をズタズタに引き裂いた。

 何の面影も、欠片残さずに消えた焔の車輪。

 其処に残った氷の龍神は、最後に今亡き車輪にこう告げた。


「眠れ、そして脅えろ。俺の造った氷の牢の中で、震震(ぶるぶる)と」


 辺りに残ったのは、星と見紛うような闇夜に煌めく、氷の欠片だけだった。














 取り敢えず、寝ている二人をそのままにする訳にもいかないので、美雨はそのまま車に入れ、運転手たる京には頬を叩いて起こすことにした。

 起きた京介はかなり不機嫌だったが、今回は吹雪に助けてもらった手前何も言えない。

それにこんな所でこんな時間に言い争っても意味がないので、さっさと車に乗って帰ることにした。


「ったく、何でテメエは免許取ってねえんだよ!

 無傷なのはテメエだけなんだから、テメエが運転すりゃ良いだろ!」


「仕方ないだろう、持っていないものは持っていないんだ。

 それに、送迎の仕事くらいはちゃんとやって貰わないとな」


 吹雪のその一言に何も言い返せない京介。

 二人の間に、行きと同じような沈黙がまた訪れる。


 無音の空間を乗せた車が、高速道路を走り続ける。 

 沈黙を破ったのは、やはり京介の方だった。


「なあ吹雪、あの時の話なんだが……」


 京介は言葉を紡ごうとしたが、その言葉を吹雪は静かに遮る。


「その話はもう良い。お前の答えは、とっくに解ったからな」


「はあ!? どういう意味だよ!」


 いきなり返ってきた予想外の返答に声を荒げる京介、そんな京介に見向きもせずに、吹雪は笑いながら言い放つ。


「京介、やっぱりお前しか俺の上には立てないよ」


 車は、子どものようにはしゃぐ男二人と、何も知らずに眠っている二人の少年少女を乗せて、家への帰り路を走り続けた。






怪ノ陸「神龍寺吹雪〜抜けば玉散る氷の刃〜」・了

なんか、もう終わっちゃいました。


…………はやっ!

てか何で美雨が付いてったんですかね?


無理矢理にも程がありますよ(;_;)


ああ、いつになったらまともなものが書けるのやら………


最後まで見て戴いた方、本当に有難う御座います、そしてこんな駄文ですいません(;´д`)

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