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鬼取屋  作者: 石馬
第弐幕「鬼取屋」
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怪ノ陸「神龍寺吹雪〜抜けば玉散る氷の刃〜3」

「それじゃあ、気を付けて行って来てください」


 キラキラとした満面の笑みを浮かべて、京介さん御一行を見送る舞ちゃん。

 それぞれ一人ひとりに火打ち石を2、3度カチカチと打ちながら労いの言葉を添える。


「お兄さん、解ってると思いますが、絶対に無茶な事はしないで下さいね。あと疲れているからと言って居眠り運転なんか絶対にしないこと。

 それから――――」


「アア! 解ってるって。

 そんなに心配すんな。ちゃっちゃと片付けてとっとと帰ってさっさと寝るわ」


 拗ねる京介さんの顔、なんだか貴重だ。


「じゃあ吹雪さん、そういう訳なので、兄を宜しくお願いします。

 吹雪さんも、あまり危険を冒すような事はしないで下さいね」


「ああ、有難う舞君。

 肝に命じておくよ」


 半ば苦笑いながらも大人の余裕を崩さない吹雪さん。

 舞ちゃんに微笑みかけ、一言「行ってくるよ」と言ってから京介さんと一緒に車に入る。


 で、最後に――――


「切丸さん…………」


 おおおお! 珍しい。舞ちゃんが切丸さんに自分から声を掛けた。

 状況が状況なだけに、今回は互いに少し真面目な表情だ。

 切丸さんは無言のまま。

 先の2名と違い、一拍置いてから舞ちゃんは再び話し出す。


「切丸さん、絶対に生きて…………帰って来ないで下さい。

 馬車馬のように働いて、命の最期の一滴(ひとしずく)まで使い果たして帰って来て下さい。

 それが出来ないのなら、今すぐ私の前から消えていなくなって下さい」


 久々に見た舞ちゃん節は、容赦することなく切丸さんの心臓を抉り取った。

 めちゃめちゃ清々しい笑顔を振り撒く舞ちゃんとは全くの真逆に、切丸さんは両手と両膝を付いて屍と化しています。

 いやぁ〜、今回はちょっと可哀想かな、切丸さん。

 京介さんは一度車を降り、その哀れな屍を担いで車の一番後ろの席に放り込む。

 そして自分はまた運転席に乗り込み、車のエンジンを掛けた。


「じゃ、行って来る」


 たった一言だけ言って、京介さんは車を走らせた。

 走り出した車の中は物凄く無言だった。

 切丸さんと一緒に後部座席に座る私は本当にいづらくて、息が詰まりそうだ。

 しばらくの間、この気まずい沈黙は続いて、私は呼吸困難で死にそうになったところで京介さんがやっと話し出す。


「ったく、久々に会ったと思えばこれだな」


 …………誰に言ったんだろう? 多分吹雪さんだと思うけど、もしかしたら一人言だろうか?


「まあそう言うな。俺だって、お前達が今こんなに忙しいなんて思ってもいなかったんだから。

 俺の予定では皆が喜ぶ筈だったのだが…………

 どうやら、喜んだのは舞君一人だったようだな」


「当然だ。別にこの仕事は俺の自営業じゃねえんだ。仕事は少なくても、なくなる事はねえんだよ」


 互いに目を合わせないで会話する二人。

 少しだけ無言の時間が続いたけど、すぐに吹雪さんがまた話題を振った。


「そういえば京介、この前舞君から聴いたんだが、お前、とうとう碧鬼を倒したらしいな?」


 ――――――碧鬼。一瞬、私の周りを流れる時間が全て凍りついたのを感じた。

 私の友達を奪った悪魔の名を、この人は口にした。


 一体なんで? どうして今、その話をするの?

 唐突すぎて、私の思考はそこで止まった。

 京介さんは答えない。黙って運転している。黙って、運転だけをしている。

 それでも吹雪さんは、この話を終わらせてはくれなかった。


「今までお前を動かす糧だった復讐の対象がいなくなった気分はどうだ?

 清々しいか? すっきりしたか? それとも、まだ足りないか?

 足りないよな、もしお前が満足していたなら、もう其処でお前はこの世界からおさらばしている筈なんだから」


「…………吹雪、テメエ一体何が言いたい?」


「何が言いたい? イヤ、別に何も言う気はないさ。今のお前は俺の上に立つだけの資格と力があるのか、それだけが問いたいだけだ」


「ホントにテメエは変わらねえな。その燗に障る喋り方、止めた方が良いぜ。

 じゃねえとテメエ、俺を敵に回すことになるぞ」


「質問の答えになっていないな、京介。

 俺が今知りたいのは、お前が俺の敵に成るか成らないかじゃない、お前はこの世界から抜けるのか、そうでないのかだ」


 そんな会話を耳に入れながら、私の意識は少しずつ現実に戻されていく。

 二人の会話はまだ、終わることなく続けられる。


「止める訳がねえだろ! 俺は別に、復讐の為にこの仕事をしてる訳じゃねえんだからよ」


「だが、それがこの職を始めたきっかけだったんだろう?

 言葉を誤ったな京介、お前は復讐が目的でこの仕事をしてる訳じゃないと言ったが、それは復讐だけが目的じゃないというだけなんじゃないのか?」


 また、沈黙が流れ出す。

 京介さんは一つ、頭を冷やすように大きくため息を吐くと、落ち着いた口調で答え出した。


「吹雪、仕事前だってのに今日はやけに突っ掛かるじゃねえか。

 お前のその疑問は正しいかもしれねえ、でもそれは今答える事じゃない。

 今は美雨もいる。あんまりこの話をするな。

 この仕事が終わったら、ちゃんとお前の問いに答えるからよ」


 その言葉に、吹雪さんは静かにうなずく。

 分かった、という言葉はないけど、多分そういう意味だと思う。


「美雨ちゃん、あんまり気にしない方が良えで」


 不意に、私の隣で死んでいたはずの切丸さんが私に声を掛けた。

 驚いて振り向く私に気を使いながらも、前の二人に聞こえないような静かな声で私に語りかけ始める。


「あの二人は、顔を合わせるといっつもあんな感じやねん。

 ていっても、今回はちょっと美雨ちゃんには重たい話やったな。

 でも吹雪さんにも悪気はない、はずや。だから、あんまり気にしないでおいて。普段は良い人なんやで、あの人。

 ……まあ、空気は読めへんけどな、あの人」


 切丸さんはそう言うと、私に背を向ける形になって窓の外を眺める。

 今は高速道路に入ったところで、景色はすごい速さで変わっていってる。今の時間が深夜だからか、周りには他の車は走ってない。

 私がそんなことを考えていると、急に京介さんが口を開いた。


「なぁ吹雪、今日の現場は此所か?」


「そうだな。最近この場所で、不審な事故が多発している。何でも運転手が事故に遭う前に絶命しているとかいう話だ」


 尋ねてきた京介さんの問いに、間を置かず即答する吹雪さん。

 その二人の間に、切丸さんも入ってくる。


「そろそろ、お仕事の時間ですか?」


「そうだ。切丸、ちゃんと切り替えろよ。今回三人で来た理由は、そうでもしなきゃいけない相手だって事なんだからな」


「その通りだ。今回の妖怪(ヤツ)は少々質が悪い。何せ『眼を視る』だけで御陀仏なんだから。

 誘導と戦闘に役割を分ける必要がある」


 切丸さんの言葉を、京介さんと吹雪さんがそれぞれの言葉で答える。

 そして最後に京介さんが、私に向かって語りかける。


「美雨、俺が合図したらお前は眼を瞑れ。俺が良いと言うまで、絶対に開けるなよ」


 そう言った京介さんは車を止めた。

 そこは高速のど真ん中で、周りに車が一台も走っていないとはいえこれは危ない気がする。


 京介さんはそのまま何もせずに、ただ車のナビから映し出されているデジタル時計をジッと見つめていた。

 時刻は今、4時42分。

 …………43分、………………44分。

 ――――――――四時、四十四分。『死』が、三つ並んだ。


「美雨、眼を瞑れ!」


 いきなり大声で言った京介さん。吹雪さんも切丸さんも、その声が合図と言わないばかりに車の中から飛び出す。

 私は咄嗟の行動ながらなんとか目を瞑り、切丸さんに抱きかかえられるような体勢で車から降りた。

 こっそり片目を開けると、そこには別人のような姿の切丸さんがいた。


 黒くて長い髪、それに合わせたように真っ黒な服装、さらに背中には同じように真っ黒な翼が生えている。


「駄目やで美雨ちゃん。ちゃんと京さんの云うこと聞いとかな」


 切丸さんに言われて、私はまた慌てて目を瞑る。なんだか今の切丸さんは危ない気がしたから、私は何も言わずに、自分でも驚くくらいあっさり言うことを聞いた。


 何も見えない世界で、私の耳には切丸さんの声だけが響く。


「どうやらオレの役目は、誘導の方みたいやね。

 上等やで、奪ったるわ、アンタの総てを」


 次に聞こえたのは、耳を塞ぎたくなるような激しい轟音。きっと、私は京介さんに言われなくても目を瞑っていたのだろう?


 私の見えないところで、姿なき妖怪と鬼取屋の戦いの火蓋は切って落とされた。


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