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鬼取屋  作者: 石馬
第弐幕「鬼取屋」
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怪ノ陸「神龍寺吹雪〜抜けば玉散る氷の刃〜2」

 突然私の目の前に現れた銀髪の綺麗な男の人、神龍寺吹雪さん。

 お互いの自己紹介も終わって、今私と吹雪さんは鬼取屋の応接室で二人っきり。

 吹雪さんの淹れた緑茶を二人で仲良く飲んでいる。


 ……正直この状況、めちゃくちゃ気まずい。

 私は人見知りとかする方ではないけれど、なんていうか、ああいう静かに佇む無口が似合うダンディーな人との二人っきりは苦手でしょうがない。

 だったら、私としてはスポーツマンな熱血君の方が全然好みなんだけどな。


 …………え? 一番初めと話が違うって?

 魅力的な女は日々違う男を求めるものなんですよ。


 私こと、榊美雨がどうしてそんな、私にとっては凄く大事だけど他人にはてんでどうでもいいようなことを考えているかというと、この空気の所為だ。


 もうかれこれ30分、無言の時間が続いている。

 騒ぎたい、すっごく騒ぎたい! 騒いではしゃいではっちゃけたい。

 だけど吹雪さんから放たれる無音の重圧(プレッシャー)が、私にそれをやるなと命じてくる。


 おそらく、私が対峙したことのある全ての方々の中でもダントツの重圧を持っている。

 何せこの私が相手を振り回せないのだから。

 ………ああ、あの人の淹れてくれた緑茶が悔しいほどおいしい。

 なんて半ば現実を逃避し始めていた私に、吹雪さんはいきなり声をかけてきた。


「ところで、君は一体あんな場所で何をしていたんだい?」


「ひゃい!?」


 ………いけない、あまりに突然すぎる質問の所為で変な声を出してしまった。

 落ち着け、私。いつものペースを取り戻すのだ。


「あ、あれはほら、探検ですよ探検。

 き、今日はいつもより天気も良くてすることもなかったから、鬼取屋の全貌を解き明かそうと思いまして…………」


 そして最後に照れ笑い。完璧だ。いつもの私だ。

 このままこっちのペースに持っていけば――――――


「そうかい、仮にも皆が生活している場なのだから、あまり破目を外し過ぎてはいけないよ」


 やめてーーーー!!!!!


 そんな優しい目で私を見つめないでぇ。すごい手の掛かる我が子に教える父親的な発言をしないでぇ。

 …………ダメだ。完全に相手のペースに持っていかれてる。

 今さらだけど、彼は、神龍寺吹雪という男性は、私が最も苦手とする人間だ。天敵だ。私がパーなら彼はチョキだ。

 誰か、誰でも良いから帰ってきて!! 私とこの方を二人っきりにしないでぇええ!!!!




「遅くなってすみません、ただいま帰りました」


 キタアアアァアア!!!!


 舞ちゃん、貴女は天使ですよ、神ですよ、絶対神様ですよ。


「お帰りなさぁい! ほらほら、舞ちゃん遠くまで買い物に行って疲れたでしょ?荷物くらい私が持ってあげますよ」


 私が上機嫌な理由を、舞ちゃんはイマイチ分かっていないっぽいけどそんなことはどうだっていい。

 とにかく、来てくれてありがとー!


 と、そこでやっと舞ちゃんは新しい客人に気づいたらしく、その顔色を変えていく。


「……吹雪さん? 吹雪さんじゃないですか!

 帰ってきてたんですか? それなら連絡の一つでも入れてくれれば良かったのに。お久しぶりです。元気にしてましたか?」


 満面の笑みでそう言う舞ちゃん。この対応、切丸さんとは大違いだな……。


 ……ちょっと待ってよ! これじゃあ余計に気まずいじゃないですか!!

 誰かぁ、もうホントに誰でも良いから私を助けてください。


「ただいまぁ、いやぁ今日はついてるなぁ、ボロ勝ちやったで。

 はい美雨ちゃん、お土産のポテ――――」


「ヤタァアーーーー!!!

 お帰りなさい切丸さん!今日もお勤めご苦労様です。あ、これお土産ですか? いつもいつも有難う御座います。ささ、こちらのイスにどうぞ」


 例によって、やっぱり状況を飲み込めていない切丸さん。

 だけど私のこの待遇に悪い気はしないみたいで、鼻の下なんかもうすんごい勢いで伸びきってる。


 …………チョロい。男なんて所詮、笑顔を振り撒けばこうやって私の側に着く生き物なのよ!!

 と、私が思ったのも束の間……………


「ぬぉ、吹雪さん。めっちゃ久しぶりやん!元気しそうやね。いやぁめっちゃなつかしわぁ」


 ノォオオーーーーーーー!

 なんで? なんでみんな私から離れていくの?

 私が悪い子だから? ねえそうなの? 誰か、誰か答えてよ!


「ああ疲れた。美雨ぇ、ちゃんと大人しく留守番出来たんだろうな?

 まぁどうせ期待しちゃいねえが…………っておい! 何があった!? 何で泣いてる!?

 うわっ、止めろ!抱き着くな!」


「びぇええん! きょうしゅけしゃんはわらひほみしゅてらいれくだしゃい!」


 ああ、もう自分でもなにを言っているのか分からなくなってしまっているよ。涙でなにも見えないよ。

 そして京介さん、私と懐かしい顔の友人の顔を交互に見て…………


「はぁ、そういう事か。相変わらずだな、吹雪」


 と、一つタメ息を吐いて向こうにいる吹雪さんに言った。


「何を持って俺が変わっていないと判断したのか甚だ疑問だが、お互いになと答えておこうか。

 久方振りだな、京介」


 吹雪さんの方も、京介さんに限りなく近い空気で言い返す。

 …………なんだろうこの二人、どことなく似ている気がする。


 京介さんは面倒くさそうに頭を掻きながら、吹雪さんにもう一度話しかけ――――って、ダメーーーーー!!!


「キシャアーー! フゥーー!!」


 私は京介さんがあっちに行かないように抱きついて、吹雪さんを威嚇する。


「…………京介、一体俺はこの子に何をしたからこんなに嫌われたんだ?」


「馬鹿野郎、自分の胸に聞きやがれ。

 俺は仕事から帰ったばかりだぞ」


 苦笑いの吹雪さん、呆れた表情の京介さん。

 両者は私を見ながらそんな話をしている。


 ぐったりと疲れた顔の京介さんを窺いながら、吹雪さんは少し切り出しにくいような表情をする。

 それは京介さんも感じ取ったみたいで…………


「何だ? 吹雪。

 お前何か俺に言いたい事でもあるのか?」


 困り顔の吹雪さん、その問いに少し戸惑いながらも、律儀に京介さんに答える。


「いや、実はな、急な仕事が此方に出来て、出来れば俺だけじゃなくお前や切丸にも手伝って欲しいと思っていた処なんだ。」


 一瞬の沈黙を挟んで、京介さんの顔がみるみる蒼くなっていく。

 ついでに言うと、おんなじように切丸さんの顔も蒼ざめていって、舞ちゃんの顔は喜びで満ち満ちていた。


「ッザッケンナァアアアアアアアアアアアア!!!」


 と、京介さんの咆哮は夕刻に虚しく響き、今晩出かけることが決定した皆さんでした。


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