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鬼取屋  作者: 石馬
第弐幕「鬼取屋」
38/63

怪ノ伍「矢木文一〜歪な異性の愛し方〜5」

 二人の召し使いが無事に帰還し、美雨等三人は、今回の事件の確認を兼ねて、皆で食事をしていた。


「じゃあ、文一さんが明確に受けてる被害っていうのは、怪訝(おか)しなメールだけで他には別になにもないってことですよね」


 美雨は今朝のことを反芻するように、文一、そして切丸にそう言った。

 文一は携帯を机の真ん中に置いたまま、黙っている。朝に比べれば落ち着いてはいるが、やはり不安はまだ完全に取り払われた訳ではない。その表情は酷く暗かった。


 切丸は携帯の受信履歴を見たまま、黙っている。

 何か思うところがあるらしいが、今は敢えて口にしていないような、そんな笑いを浮かべている。


 切丸、文一の二人は美雨の問いに黙って頷くと、部屋の中にはまたしても重い濁った空気が立ち込める。

 そんな空気を息苦しく感じてか、美雨はもう一度口を開く。


「あ、あの、この唐揚げおいしいデスね!

 さすが文一さん、一人暮らしなだけあって料理はプロ並みですね」


「…………――いや、美雨ちゃん。気持ちはうれしいんだけどさ、今日の夕食、全部惣菜屋で買ってきたヤツだから……」


 良かれと思って明るい話題を作った美雨だが、完全に裏目に出てしまった。

 美雨は笑顔のまま硬直してしまい、沈黙がまた部屋の中に充満する。

 場を明るくしたかったという美雨の気持ちを察して、切丸が口を開く。


「だぁいじょうぶや、美雨ちゃん、文一さん。

 そんな暗い顔せんでも、そんな無理に明るく振る舞わんでも良えって。

 もしもなんかあれば、僕が皆を守るさかい」


 屈託のない笑顔で言う切丸を見て、文一は少し、安堵の表情を見せた。

 対して美雨は、少し不満そうな顔で「ええ〜、切丸さん一人じゃ頼りないですよ〜。」と、冗談混じりに言った。


 明るい空気が、また三人の元に戻ってきた。その時だった。






 ―――――――ピリピリピリピリピリピリピリピリピリピリピリピリピリピリピリピリピリピリピリピリ


 前触れなく突然、切丸の持っていた携帯電話が鳴り出し、静寂を破る。

 それは文一のもの。つまり――――


「――――――やっと、来たみたいやな」


 暗く冷たい笑顔を浮かべながら、切丸は呟いき、文一は言葉を発することが出来ない程に怯えていた。

 切丸は鳴り止まない携帯を手に取りその内容を確認する為、受信ボックスを開いた。

 メールの内容は全てが文一に対しての愛の言葉。

 これが付き合っている異性からならば、これ程嬉しいものはないだろう。然しその恋文の主は恋人ではない。処か、人間でさえないのだ。


 そしてその恋文の主は、活字に想いを載せてこう唄っていた。









 ――――なぜ貴方の隣に、私の知らない女がいるの?

 途端、切丸が美雨に眼を遣ると、女性のような白く細い腕が、美雨に絡み付こうとしている。


「それは、反則やろ!」


 切丸が言うと同時に、彼の手から一羽の黒い鳳が放され、白い細腕から美雨を『奪う』。

 美雨は何時の間にか、切丸の腕の中に抱えられる形になっている。然し当人は、この数瞬の間に何が起こったのかまるで分からないといった表情だ。

 そんな美雨の目を見ず、切丸は彼女に、そして恐怖で固まっている文一に警告する。


「二人とも、逃げるか隠れるかしてて。

 多分この妖怪、僕が思うとったよりずっと強いわ」


 美雨は聞いた。何時になく真剣に、そしていつもからは想像出来ない程暗く冷たい、天童切丸という青年の発した声を。

 そして、彼女は視てしまった。二本の細腕を持った、枝のように矮小な体躯を。

 矮躯は怨み、妬み、憎しみ、あらゆる負の感情を帯びた表情で一点を睨み付けていた。





 ――そう、矢木文一ではなく、榊美雨の方を。


 また携帯の着信音が部屋に鳴り響き、画面にはこう表示されていた。


 ――――――貴方は誰の物でもない。だから私がその女から救ってあげる。


 妖女の勘違い甚だしい言葉に、それを読んだ切丸が美雨に代わりその声を持って、はっきりと返信する。


「美雨ちゃんは関係あらへんやろ?

 僕、女の子に手を上げるんは嫌いやけど、関係ない女の子を襲う奴はもっと嫌いやねん」


 怒りをその目に宿した黒雛が、嫉妬の焔をその目に秘めた妖女と対峙した。


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